学生時代の試験前、「やっべー、ぜんぜん勉強してねえ!」なんて言いながらシレっと高得点を取るクラスメイト(という名の裏切り者)が大嫌いだった。

それゆえ、私が「やっべー、ぜんぜん勉強してねえ!」と言った場合は、本当の本当に1分たりとも勉強しなかった。得点は無惨なものだったが、嘘つきにならない方が私の中では大事だったのである。

それから約25年以上の月日が流れた今、ふと、英語の試験「TOEIC(トーイック)」に挑戦することにした。もちろんノー勉強でだ。

なぜ突然TOEICに挑戦しようと思ったのかというと、実はなにげに英語ができるようになっているのでは……? と思ったからだ。

高校時代の英語の成績は「2」だったけども、海外放浪バックパッカー時代は体当たりの英語を使っていたし、今ではほとんど毎日、ケニア人(ルカチャオス)と英語を使ってチャットしている。成長しているんじゃ……?

そんな期待を胸に抱きTOEICの試験に申し込んだ。実は私、TOEICの読み方すら知らなかったほどの世間知らずで、ざっくり「英語における戦闘力だな」くらいの認識であった。


・いざ試験へ

試験日が近づいてくると、受験票のハガキが送られてきた。証明写真が必要らしいので撮影し、ペタリと貼り付けると……

アジアな英語を話しそうな男の身分証みたいになった。

そんな受験票と筆記用具を持参し、試験会場である某大学へ。大学に通わなかった高卒の私にとって、大学の敷地内(キャンパス?)は非現実的な別世界。とにかくすべてが珍しい。コンビニもあるのか。スゲ〜!!

──とかなんだとかやってるうちに試験会場へ到着。そして、“いかにも大学” な教室へ入り、受験票に書いてあった番号の席へ。

さっそく目の前に置かれているマークシートだらけの用紙に目をやると、どうやら回答用紙である様子。表の「A面」には受験番号なり生年月日なり名前(ローマ字)なりを記入するのだが……


すでにこの時点でムズい……!!


ほぼすべてのことをマークシート(◯)で聞かれていることにまずは戸惑い、「職業・経歴」の項目では「オレの仕事って何なんだろう……? マスコミなのか……?」と頭を抱え、その後の「役職」についても大混乱。

編集長……ない! オ、オレって課長なの? 部長? それとも係長? もしかして役員? いや、一般社員なのか……?」と、無駄に脳味噌のカロリーを消費するハメに。教えて、上司のYOSHIOさん。おれの役職、何ですか?


──とかなんだとかやってるうちに、時刻は9時50分すぎ。えっと、9時55分から「試験の説明」ってのが始まるらしいからもうすぐだな……とか思っていたその時! なんと今からトイレに行こうとする者がチラホラと……!!

9時55分から「試験の説明」と「音テスト」が始まるというのに、9時53分の時点でトイレに行くとか猛者すぎるだろ!!!! どんだけ早便に自信があるんだ! ……とビックリしていると、やがて試験の説明が始まった。

教室中央に置かれたスピーカーから、淡々とした口調で試験の説明が流れている。それを黙って聞く受験者たち。「それでは、今から、みなさんに殺し合ってもらいます」と、映画『バトルロワイヤル』が始まりそうな雰囲気だ。

しかし、その後の「音テスト」で雰囲気は一変。流暢な英語でベンベラベラベラと、超新塾のアイクみたいな声が流れている。それはまるで東京ディズニーランドの「ウェルカムトゥ〜」みたいな感じで、なんか楽しい。

その後、アイクのTDLモノマネみたいな放送が終わり、試験官が「いかがでしょうか? 声が聞こえにくかったり、何か問題がありましたら手をあげてください」と皆に問うた。後ろの方の席の方が1人、サッと挙手。

どうも声が聞こえにくかったようで、その方は前の方に席替えをしていたが、私も私で問題があった。それは、音テストのアイクが何を英語で話していたのかサッパリ1%も理解できていなかったことである。やべえぞ……。


そうこうしているうちに試験開始!


みな一斉に、テープで封印された問題集をバリバリっと開く。袋とじなんて、むかし何かの雑誌でやってたキューティー鈴木のセクシーグラビア特集以来だな……なんて懐かしい気持ちになりつつ、私もバリバリとテープを切断。


すると……


衝撃……!


ある意味、キューティー鈴木のセクシーよりも衝撃……!!


だって……問題集の中身……


_人人人人人人人人人人人人_

> ぜんぶ英語……!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄


ちょ……ちょま、ちょま、ちょまって! ちょっとまって。聞いてない……! 聞いてないよォ〜!! 英語のテストを受けようとしたら、問題がすでに英語だった……。答えようにも読めねえじゃねえかコノヤロウ!!

そして間髪入れずに、第一問が始まった。バトルロワイヤルなスピーカーから、いろんな英語が流れている。ベンベンベラベラと容赦のない英語が流れているが、私が理解できるのは「クエスチョンワン」くらいであり────


その瞬間、私は、なぜか無重力状態になった。


まるで宇宙空間に浮いているような感覚になった。


あまりにも わからなさすぎて、


気が遠くなってしまったのである……。


理解レベルは1〜2%。しかし、そのわずかに聞き取れた単語のみで、何を問うているのかを推理し回答。日本語に例えるなら「あなたは今朝、何を食べましたか?」の「朝」だけで「納豆ごはん」と答えるような感覚だ。

しかし、そんなメンタリストDaiGo的な読心テクニックが通用するのも最初の10問くらいなもので、難易度のギアが2速に入ると同時に私は完全にワケワカメちゃん。パーフェクトゲームで敗北といっても良いレベル。

それゆえ、もう当てずっぽで◯を●にするしかなかった。できるだけ問題製作者が考えそうな「バランス」で◯を●にしていった。

な〜に、相手は人間だ。答えがAAAAAAAAAAなんてことになる可能性は極めて低い。BAABCADADD……あたりが妥当だろう。そう、まとめないで、バランスよく散らしてくる。かつ、ごくごく自然に見える “模様” にしてくるはずだ……。

とかなんだとか独自のロジックでマークシートを次々と●にしていると、ふと、「みんながやっているのはTOEICだが、私がやっているのはロト6なのでは……」なんて気持ちになり、なんだか泣きたくなってきた。

しかし、私がロト6にいそしんでいるその間も、カリカリ、ペラペラと、教室にいる皆は試験に没頭している。一方の私は、わからなさすぎて目眩(めまい)がしてきた。やがて脳の動きもストップし、眠くなってきた。


──そっと目を閉じ、考える。


「まるで高校時代のようだ。何も変わっちゃいねえ。あの頃もそうだった。わからなさすぎて寝るしかなかったんだ……」。


\ガタッ!!/


いつの間にか寝てしまい、体が「ビクッ」っと痙攣(けいれん)してしまった。イカンイカン、こんなことしているの私くらいだぞ。しっかりしろ私!! とりあえず寝るな!


──と、その時だった。


なぜかタバコがめっちゃ吸いたくなってきたのである。


2年以上も前に禁煙してからというもの、一度もタバコを吸いたくなったことはない。しかし今、なぜか今、真面目にテストに取り組んでいる優秀な皆の中、完全に “おちこぼれ” て眠くなっている今まさに……


眠気も覚めるタバコが吸いたくなっているのである。


これは、ある意味、発見なのではないか。世の不良たちがグレるのは、「わからなさすぎる」からであり、かつ「眠いから」なのではないだろうか。そして授業中に寝るから、さらに勉強がわからなくなり……の悪循環。

そんなことを考えていると、今度はタバコではなく「落書き」がしたくなってきた。ちょうど問題集に載ってる写真の人物が、“落書きしがいがある” 感じなのだ。が、問題集に落書きしたら失格らしいので我慢した。


まだかな。


途中退席とかないのかな……。


というのも、実に言いにくいことだが、もうすでに全問解き終えている(塗り終えている)のだ。時計を見ると、試験終了まであと50分もある。キッツいなぁ〜、50分……。仕方ないから「脳内テトリス」でもやるか……。

しかし、脳内で「テトリス」をイメージする一人遊びも2分で飽き、意味もなく問題集をめくったり、見直すフリをしたりして時間を潰すも、とにかくヒマ。そんな時に思い出したのは、ほかでもない同僚の佐藤英典(さとうひでのり)だ。

かつて彼はiPhoneの新作が出るたびに、何日も前から販売店の前に行列して待ち続けていた。発売の瞬間を、今か今かと待っていた。試験終了を待つ今、新作iPhoneを待つ佐藤の心境が少しだけ理解できた気がする。


そして──


「はい、試験終了です。順番にご退席ください」


結局、残り50分は佐藤のことを考えながら過ごしていた。こんなにも佐藤のことを考えたことはない。英語のテストに行ったのに、ほぼ半分の時間は英典のことを考えていたのだ。

なお、テストの結果は1ヶ月後くらいに送られてくるらしい。はたして、ノー勉強で挑んだ人生初のTOEICの得点やいかに!? 記事にするかは未定だが、なんらかのかたちで発表したいと思う。

〜Kan〜

執筆:GO羽鳥
イラスト:マミヤ狂四郎
Photo:RocketNews24