少し前まで昆虫食といえば、罰ゲームだったり体当たりレポだったり、いわゆる「閲覧注意」的ジャンルであった。実際には日本でだってイナゴや蜂の子を伝統的に食べてきたわけだが、「珍味」であることに間違いはないだろう。

ところが、環境に配慮したサステナブルな食糧という観点で、いま昆虫食が大注目。無印良品の「コオロギせんべい」が売れまくったことは記憶に新しい。

Pascoでおなじみ敷島製パンからも、いたって真面目な「コオロギの食育パンキット」が販売されている。「虫を食べてみたw」というネタ的要素から一歩踏み込んだ近未来キットなのでぜひご紹介したい。


・コオロギの食育パンキット(税込2376円)

キット内容は北海道産の小麦粉「春よ恋」330g×2袋、コオロギパウダー30g×2袋、インスタントドライイースト5g、はちみつ6g×2本。つまり2回にわけて作れるようになっている。

さっそく作業を始めるが、発酵時間が必要なため完成は翌日になる。筆者はパン作りがほぼ初めて(お手軽キットなら経験あり)なので、いろいろと不手際があるのはご容赦願いたい。

コオロギパウダーのパウチを開封した途端、独特の匂いが広がる! 「炒ったナッツのような香り」と表現されるんだって。

個人差はあるだろうが、筆者にとっては「香ばしく、いい匂い」だった。アーモンド、ピーナッツ、炒り豆……とにかくそんな匂い。

完全に粉末になっていて、ココアパウダーのような見た目。もちろん脚などは見当たらない。「虫の姿」をしていないので、台所にあってもまったく違和感も嫌悪感もない。

あまりに美味しそうな匂いだったので思わずなめてみたら、粉っぽくて生薬のようだった。粉のまま食べることはオススメしない。ちなみにQ&Aには、加熱してありますのでそのままお召しあがりいただけます、の一文あり。

小麦粉に塩、ドライイースト、コオロギパウダーを入れてよく混ぜる。コオロギパウダーは好みの量でOK。たとえば10g、20g、30gと配合を変えて食べ比べてみることも提案されていた。ここは迷わず全投入でしょう!

はちみつは、てっきり「パンにつけてお召しあがりください」だと思っていたら、生地に混ぜ込むためのものだった。慣れないのでいちいち新鮮である。

比較のためコオロギなしの生地も作ったのだが、コオロギ入りは「そば生地」のような灰褐色になった。どこかで見たことがあると思ったら、ドロドロのペーストタイプのキャットフードのような……。見た目はお世辞にも美しいとはいえない。

あとは一晩(12時間~18時間)冷蔵庫で寝かせる。そうして迎えた翌朝……


生地がパンッパンに膨らんでいた! マニュアルには「生地はなだらかになる」とあるので、これは「過発酵」というやつでは! やっちまったー!!

おそらくドライイースト小さじ1/2というのを、「スプーンは丸いのにどうやって1/2を計るんだよ」と目分量でやってしまったことが原因では。

また「水分量が多いため、ベタつきやすい生地になります」とのことで、ひとつひとつの作業に手間取る。ヘラ、ボウル、自分の手、すべての場所に生地がひっついてしまう。

大量に打ち粉をして、なんとか生地を伸ばす。20cm×25cmの長方形になるはずが、ずいぶんビロビロと広がってしまったが、筆者の技量ではこれが限界である。

3つ折りにした生地を、さらに8等分する。打ち粉が多すぎるような気もするが、こうでもしないと包丁と一体化するのである。

焼く前に生地にクープ(切れ目)を入れるのがポイントとのこと。しかしトロトロの生地は、不死身キャラの傷が再生するようにすぐに切れ目が閉じてしまう。形も整わずイモムシのようで、ホントにこれでいいのかなぁ……。

続いて予熱したオーブンに入れるのだが……「焼成中にスチームが入る設定にし」とある。そんな機能はない。

オーブンレンジは普段、冷凍食品をチンするか、アイマスクを温めるだけにしか使われていないのだ。代替案として、アルミカップやココットで水を入れる方法が書かれていた。

20分かけて焼き上がり! 生地を発酵させる時間も含めて所要20時間ほど。これでもかなり簡略化されているのだろうが、なかなか本格的な大仕事だった。パン作りって大変だ。


・食べてみた

出来上がるのはリュスティックと呼ばれるハード系のフランスパンだ。明らかに黒っぽく、ドイツのライ麦パンのような色合いである。

普通に作った方は白いので、これがすべてコオロギの色! 目をこらすと黒いツブツブが見える。

なにかが少し焦げたようなコオロギらしき匂いは、焼いても残っている。


失敗したかと思ったが、外側カリカリ、中はもっちり! 水の比率の多い「多加水」の生地の特徴なのだとか。焼きたてだから、もうそれだけで美味しい。

味はそれほど変化していない。コオロギ自体に味があるというよりは「独特の風味」が加わるといった感じ。

昆虫食以外でもたとえばブランパンなど、風味にクセのあるパンがある。気になる人は気になるが、慣れてしまえば普通に食べられることも多いと思う。

コオロギもそんな印象である。これが「昆虫臭い」とか「土臭い」と感じてしまう人にはダメだろうが、香ばしくて好きという人もいるはず。

ちなみに使われているのは衛生的に養殖された食用ヨーロッパイエコオロギ。温暖な気候で暖房費もかからないタイに養殖場があるのだという。

肉や魚に比べて容易に飼育・繁殖できて、タンパク質や食物繊維など栄養価も高く、次世代のタンパク源として注目されているんだって。

やたらコオロギに詳しいのは、同梱のリーフレットで解説されているからだ。「なぜいまコオロギなのか」がよくわかる。


・虫嫌いでもパウダーなら大丈夫

筆者も昆虫は得意ではなく、素手で触ったり直視したりできないので、虫そのままの見た目をしていたら決して食べられない。口の中に入るのを想像しただけでゾワッとしてしまう方だ。けれどパウダーになるとまったく抵抗なかった。

子どもと一緒に作ったりすれば、昆虫食に先入観をもたない大人になれそうだ。夏休みの課題にいかがだろうか。近い将来、本物の肉や魚は高級品、という時代が来るかもしれないしな。


参考リンク:Pasco未来食Labo Korogi cafe
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
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