トンネルと聞くとどういったものを思い浮かべるだろうか? バイパスにある新設の高規格トンネル? それとも郊外の幹線道路にある交通量の多いトンネル?

今回はそのどちらでもない、おそらく読者の想像するトンネルのイメージからは大きくかけ離れたヤバすぎる現役トンネルをご紹介したい。なにがどうヤバいのかは見ていただいた方が早い。さっそく行ってみよう!

・やって来たのは静岡県掛川市

多くの家が立ち並び活気のある住宅街から山へ向けて進むと、軽自動車1台がやっと通れる狭い一本道が伸びている。


常識的なドライバーであれば、この時点で訝(いぶか)しんで違う道を検討するぐらいに狭い道である。筆者はバイクで来ているため、いざとなればUターンすることもできるので先へ進んだ。

そのまま200mほど直進すると……


土管!? いや、これが例のトンネルである! なんじゃこりゃー!? 停車するわけにもいかず、トタンのようなものでツギハギをされた円柱の中を通り抜ける。


さらに驚いたことに、トンネルの内部は更に険しい道が続いていたのだ。


目の前に迫りくる天井の突起に「あーっ!!」と叫ぶことしかできない筆者。屈みながら走行しているにも関わらず、いつ頭をぶつけてもおかしくない位置に岩がせり出してきている。

やっと通り抜けた時には、安堵のあまり脱力してしまった。


今のが一般道? 法律上は車も通行可能なトンネル……? にわかには信じがたい。これが国内最小クラスのサイズを誇る、岩谷隧道(いわやずいどう)の第一印象であった。


・いざ、徒歩にて調査

岩にぶつかりかけた恐怖にバクバクと暴れる心臓を落ち着かせ、改めてトンネルを見に行ってみよう。もちろん道路の狭さを考慮して、バイクは置いて徒歩での散策だ。

来た時とは反対側、便宜上ここを出口と呼ばせてもらうが、出口側から見る岩谷隧道は土管みたいな入口側とは違った意味で衝撃的。まるで洞穴のような外観をしている。

どうみても道路じゃねぇ。

天井から土が崩れてきそう、というかすでに竹の根と土が混ざったものが垂れ下がってきている。

1歩入ってみると、先ほど通り抜けた時は慌てていて気が付かなかったが出口寄りの半分は比較的天井が高く、縦に細長い作りになっていた。


当然ながらトンネル内には明かりはない。「こわい……」とつぶやいた筆者の独り言がトンネルのなかで反響する。手元のスマホの電波も弱くなり泣きそうになってきた。

唯一の救いはトンネルの中が風通し良く、砂埃混じりの暖かい風が吹き続けていることだろうか。普段であれば不快に感じそうなものだが、この中が異世界でも霊界でもなく現実、真夏の掛川市にいることを実感させてくれた。


・謎の横穴では恐怖体験が……!

腰が引けながらもジリジリと3分の1ほど進んだ先に嫌なものが見えた。横穴である。しかもふたつ。

出口側から見て手前にある穴は目線の高さぐらいまであり、奥行きは1mほど。掘りかけたけど止めたようにも見えるサイズ感だ。

問題は奥側だ。

かがんでやっと入れるぐらいの高さの入り口から入ると、奥に広さ2畳ほど、高さは160cmほどの部屋があるのだ。真っ暗な室内の壁にはご丁寧にランタンを引っかけられるようなフックまでついている。

「ビン(その他色)」ってなんだろう……。

どうして暗闇はこんなに怖いのだろうか? 今すぐ逃げ出したい気持ちを抑えつつ「ライターとしては中に入って記念撮影するべきだよな…」などと思いながらカメラのフラッシュとタイマーをセットし、室内でポーズをとった。


………が!!


フラッシュが焚かれない。何度試しても焚かれない。なぜ!?(赤いライトは、同時に録画していたアクションカメラの光だ)

たまらなくなり、一気に出口まで走って逃げてしまった。


その後しばらくは再び入るのに気乗りしながったのだが、時間を置いて気持ちを落ち着かせ、今度は入り口側を見に行ってみた。

入り口側の半分は天井が低く、背が高い人だったら頭を打つぐらいすれすれまで岩がせり出している。

一番飛び出している岩は相当に硬かったらしく、工事の際に取り除こうとした作業員の努力の跡が残っている。

バイクで通った際に驚いた土管のような筒型の道は改めて近くに寄って見ても異様で、これまで見たことがないような不思議な形である。


・どうしてこのような形状に?

こんなものを見たら「なぜ?」と気になって仕方がない。

掛川市役所に電話問い合わせをしてみたところ、観光交流課の方が、丁寧にも掛川市中央図書館へ繋いで『郷土史 飛鳥(飛鳥は掛川市飛鳥地区を指す)』という資料を送ってくださった。

その内容によると、隧道の掘削工事は明治44年頃。西口(記事内で言う出口)は砂地の柔らかい地質だったが、東口(記事内で言う入口)は3m進んだところで岩に突き当たる難工事であった。

左右上部を岩に囲まれ下方に掘り進むしかなくなった結果、西口からの工事の底面と東口から工事の天井が貫通し、隧道内は西から東に向けて下り坂になっているのだということだった。

また東口の筒型の入り口は昭和45年に追加で作られたもの。横穴は井戸の導入部として作られたものであるという記載があった。

井戸の導入部……?

筆者が見た限りでは井戸らしきものは見当たらなかったが、昔から「水回りには霊が溜まる」と言われている。横穴が井戸に由来するものであるならば、突然カメラのフラッシュが焚けなくなったことにも納得がいくのではないだろうか。

最後まで謎に包まれた岩谷隧道であったが、驚くべきことに今回の問い合わせを受けて観光交流課の方は地元の方にまで聞き込みをしてくださったということだった。丁寧過ぎるご対応にただただ感謝である。


これまでの古い道がたどってきた歴史から考えると、こういった素掘りトンネルはいつ閉鎖されるかわからないナマモノだ。全国でも数少ない狭すぎるトンネルである岩谷隧道。現役で通れるうちに通ってみるのも悪くないだろう。

普通乗用車では絶対に通れないので、見に行く際は歩いて行くのがオススメだ!

執筆:高木はるか
Photo:RocketNews24.
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▼バイクで走れば頭は天井スレスレになってしまう

▼入り口付近は硬そうな岩がゴツゴツとせり出している

▼とびきり大きい岩には、通行者がぶつからないための配慮か蛍光塗料が塗ってあった

▼肝試しに来た人たちの落書きだろうか?貴重な素掘りトンネルになんということを…と怒りつつも、この顔が怖くて仕方がなかった。

▼高さ1.7mの標識が、現役の道路であることを教えてくれる。

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