『映画大好きポンポさん』は2021年6月4日から公開された、映画制作に関わる人々を描いたアニメ映画だ。公開以降SNSなどでジワジワと評判が広がっていき、7月2日からは上映館が拡大されるほどの人気ぶりとなっている。

ただ本作には「夢に溢れたクリエイター賛歌」といったような評をチラホラ見かけたため、夢や創作意欲などが「何もない」筆者は興味がわかなかった。しかし、ひょんなことから気まぐれに見てみた結果──「何もない人」の目線から、ネタバレも含めた本音でレビューしたい。

・次元を超え「体感できる」映画

『映画大好きポンポさん』はSNSや映画館で何度か広告を目にしていたため、絵柄の可愛さは印象に残っていた。しかし前述の通り「夢に溢れたクリエイター賛歌」などの評判や、90分という映画にしては短い上映時間に物足りなさを感じそうで、見に行くつもりは全くなかった。

しかし友人が「濃密な90分だった」と本作を絶賛していたため、本当にそこまでの満足感を得られるのだろうか、と半信半疑で劇場へ。その結果、見事にスクリーン上の世界に没頭し、90分とほんの少し後には凄まじい満足感と活力を抱いて劇場を後にすることとなった。

まずは見始めてすぐ、あまりにも「有言実行」な作品であることに度肝を抜かれた。というのも、映画制作に関する作品なだけに作中で登場人物たちが語った手法や「こういう映画が良い」という拘りが、本作にそのまま盛り盛りと使われているのである。

現実世界で『映画大好きポンポさん』を見ている我々は、登場人物たちが制作している映画を実際に見ることは出来ない。だが、劇場で今まさに見ている『ポンポさん』によって、登場人物たちの凄さや拘りの「良さ」を体感することが出来るのだ。本作が「90分」なことにも意味があった。

だが「そうした体感が出来て面白かった」だけでは終わらない。本作は確かにSNS上で見かけたように「夢に溢れたクリエイター賛歌」ではあったが、「クリエイター賛歌」ながら夢や創作意欲などが「何もない人」にもスポットライトを当てているところこそが、筆者には強く刺さった。

・「何もない」は「何も出来ない」ではない

『ポンポさん』のあらすじを簡単に説明すると「映画好きの製作アシスタント・ジーンが敏腕プロデューサー・ポンポさんに才能を見出され、凄い映画の監督に抜擢され──」という、いかにも「夢に溢れた」雰囲気が漂うものだ。夢も創作意欲もない者にとっては眩しい別世界という印象を受ける。

メインキャラを見ても、人や作品を見る目に人間性まで優れた敏腕プロデューサーのポンポさんや、透明感がありとても可愛らしい新人女優・ナタリーはともかくとして、作中では「目に光がない社会不適合者」とまで言われてしまうジーンですら、「何もない人」には眩しく映ってしまう。

クリエイターに焦点を当てた作品には、そうした「眩しい」人物たちばかり登場し、筆者は疎外感を感じてしまうことが多かった。だが本作は映画オリジナルキャラクター・アランが登場することにより、作中に「自分」を痛いほど感じ、物語に没入することが出来たのである。

このアランというキャラクターは、友達もおらず映画の世界に逃げ込んだ結果クリエイターとしての才能を磨き花開かせたジーンとは対照的。充実した青春を送りエリート銀行員になったものの、生きがいも残せるようなものも「何もない」と無気力に生きる人物として登場する。

本作では映画制作の楽しさや苦悩も直感的にビリビリと感じられるが、アランの抱える、上手く楽しく生きてきたつもりだったのに、実は自分の人生や手元には「何もない」と気づいてしまった絶望感のようなものも、見ていて苦しくなるほど上手く描かれていた。

クリエイターに焦点を当てている作品の中で、完全に「クリエイティブな世界」の外にいる人物が抱く「何もない」苦悩をしっかりと描いた作品は珍しい気がする。

作中でアランが自分の人生を「こなしてきただけだった」などと評する場面がある。ふと自分自身を振り返って、あるいは周りと比較してしまい、楽しかったはずの人生が突然空虚で何の意味もないものに思えてしまう感覚を知っている方は、筆者以外にも結構いるのではないだろうか。

しかしこの「何もない」アランの描写が丁寧で苦しいほど「自分」を感じてしまったからこそ……やや破天荒な展開ではあったものの、終盤に向けて「クリエイティブな世界」の外からジーンたちの映画制作を助け、生きがいを見出す展開に「救い」を見ることが出来た気がする。

夢や創作意欲が「何もない」ことは「何も出来ない」わけではなく、残せるものだってちゃんとあるんだ、と言ってもらったような気がしたのだ。詳細は省くが、アランがいたことによりジーンたちの作品が「残るもの」となる展開には、他の見せ場であろうシーンと同じぐらい痺れた。

その後、様々なものを犠牲にしながら映画を制作する人々の格好良さにも素直にビリビリしつつ、夢から現実に引き戻すかのようなエンドロールまで見終えて真っ先にこう思った。夢を見せてくれる眩しいものを残すために「私にも何か出来るのでは」と。

作品の中に「自分」を見た結果、生き生きとした世界や登場人物たちに引っ張られたのかもしれない。『映画大好きポンポさん』は、「何もない人」にも夢を見せてくれたのだ。そんな『ポンポさん』は上映館も拡大し、今後さらに多くの人の心に残る作品となっていくだろう。

参考リンク:劇場アニメ『映画大好きポンポさん』公式サイト
執筆:伊達彩香
Photo:RocketNews24.

▼一番好きなキャラはミスティアさんです。素晴らしくタコさんが似合う女優さん……最高。