スタジオジブリに名作数あれど、フェイバリットに『魔女の宅急便』を推す人は少なくないだろう。舞台である美しい海辺の町に吹く風のように、魔女見習いキキの物語は爽やかだ。さらに、荒井由実の「やさしさに包まれたなら」や、久石譲の「海の見える街」など彩る音楽も珠玉。間違いなく宮崎駿黄金期の名作である。

そんな『魔女の宅急便』に実写版があることはご存知だろうか。私(中澤)は、先日Amazonプライムで配信されているのを発見して初めて知った。どうやら2014年の邦画作品で、原作である角野栄子さんの児童書を基にしたもう1個の魔女宅な様子。気になったため見てみることにした。

・港街というか漁村

Amazonプライムの公式Twitter「Amazon Prime Video(@PrimeVideo_JP)」によると、本作が配信開始したのは2020年12月1日からのようである。ツイートに添付された広告画像を見ると、主役の女の子はキュートだ。アニメのキキほど幼くはないけど雰囲気は感じられる。ちなみに、小芝風花さんという女優さんらしい。

魔女修行のため見知らぬ街で空飛ぶお届け屋をするストーリーのようなので、やはり本編を実写で再現的なスタイルっぽい。まあ、もはやスターウォーズみたいなSF空間もCGで作れる時代だしな。魔女宅の世界観もCGとセットで再現できるのかもしれない。そう思いながら、視聴スタートしたところ……


めちゃくちゃ日本やないかい


キキが最初に旅立つシーンこそ、崖の中の村みたいなCGと、ハリーポッターみたいな舞台セットでファンタジー感を出す努力は認められたが、街の港が見えた瞬間思わず笑ってしまった。明らかに日本の名もなき漁村の堤防なのである

・白昼夢みたいな光景

しかも、そんな魚と餌の匂いが染みついてそうな漁村の港に近づくと人がぎゅうぎゅうで市場みたいなのが開かれているではないか。この規模の港で嘘だろ!?

その白昼夢のような光景を過ぎると街中に飛んでいくわけだが、建物が思いっきり瓦屋根だ。通りを渡す国旗だけで、魔女宅の街の雰囲気を表現している!

なんなら地上からのカットになった際、ヤマト運輸の看板が見切れているではないか。この街に魔女の宅急便いらんだろ。

・景色が全力でファンタジーを打ち消そうとする

そして、畳みかけるように、キキが崖から街を見下ろすシーンが来るのだが、山間に街が挟まっているような雰囲気といい、遠くに島がぼんやり見えているその狭い海感といい、やはり日本以外の何者でもない。瀬戸内海……?


よし、分かった。これは見方が間違っている。世界観の再現はハナから目的ではないのだろう。よく考えたら、邦画だし、そこまでお金がかけられるとも思えない。

和製ハリーポッターを期待した私が間違っていたのだ。これはちょっと抜け感のあるミニシアター系邦画として作られているのであろう。

・生活が心配になるパン屋の立地

キキが潰れそうなくらい客のいない動物園で一泊するのも、動物園の個性派飼育員として新井浩文さんが登場するのも抜け感ミニシアター系邦画だから仕方がない。そう思って深呼吸しているうちに、ついにパン屋が登場するのだが……


パン屋、ハチャメチャに山の中……!!


こんなところでパン屋やっても買いに来る人いないだろ。恐るべし抜け感ミニシアター系邦画。あまりの抜け感に思わずツッコんでしまうのだが、忘れてはいけないのは、これがフィクションだということである。つまり、パン屋がやっていけるかどうかは大した問題ではない。抜け感ミニシアター系邦画の抜け感が感じられたらそれで良いのだ。

が、ついに抜け感では説明できないシーンがやって来る。トンボが自分の作った飛行自転車で空を飛ぼうとするシーンだ。

・ガチ感

時代考証を微妙に合わせようとしたのか、本作の脇役たちはどこか昔懐かしい雰囲気がある。ファッションなどが、おそらく現代ではないだろうという感じなのだ。それはトンボも同じで、どことなく昭和感が漂っている。

問題のシーンではトンボが空を飛ぼうとして飛行自転車が壊れ墜落。キキが墜落した浜辺に行ってみると、トンボはアニメで失敗した時の比ではない大ケガで倒れている。血とか流してるし。

漂う昭和感と合わさってこの時のトンボはビーバップハイスクールの仲村トオルさんみたいだ。抜け感とは真逆のガチ感が出てしまっている。

ただし、キキが仲村トオルさんを介抱していると考えると、このシーンが最もファンタジックと言えなくもない。見ようによっては夢の競演である。

・連休に見るには良いかも?

ここまで読めばわかると思うが、本作は、オマージュのようなシーンを散りばめつつも、かなりオリジナル要素が強い。もし、キキが日本に来てたらこうなるといった感じ。

惜しむらくは、少し中途半端なこと。もっと設定が現代日本で、キキとの対比が強ければ、より振り切った抜け感ミニシアター系邦画っぽさが出たかもしれない。

ちなみに本作主役の小芝風花さんは、2014年度の第57回ブルーリボン賞で新人賞を獲得している。確かにキキは可愛かった。アニメのイメージが圧倒的に強い難しい役柄だと思うけど小芝さんの魅力は伝わって来たし。

というわけで、もちろん感動まではいかないのだけど楽しくは見られた。Amazonプライム会員なら無料で見られるし、年末の連休にでも酒飲みながら数人で見たら楽しめるに違いない。

参照元:Twitter @PrimeVideo_JP
参考リンク:Amazon
執筆・イラスト:中澤星児

▼12月1日からアマプラで配信開始しているぞ