テレワーク・リモートワークの習慣が広がり、仕事のスタイルが大きく変わろうとしている。業種によってはまったく恩恵のない人もいるだろうが、対面せずにオンラインで用事を済ませることが「失礼でない」商習慣が日本に根づいたことは大きいだろう。

そんな中、「東京に住む意味が薄れた」として地方への移住熱が高まっているという。このたび埼玉県長瀞町役場が意識調査を実施。

調査対象は「都心生まれで、いまも都心に住んでいる人」「田舎生まれで、いま都心に住んでいる人」「都心に住んでいたけど、田舎に移住した人」の3パターンだ。いずれも子どもがいる30~40代男女なので、若いファミリー層と考えていい。調査結果は以下のとおりだ。


・リモートワークで移住を考える

対象者の勤務先でのリモートワーク導入率は45.6%で、短縮された「無駄な時間」は平均1日3.55時間。別の調査では「必ずしも仕事の能率が上がるわけではない」という意見もあったが、通勤のための時間や、おつきあい、身支度など「これ、なくてもいいよね」という無駄がだいぶ整理されたのだろう。

リモートワークを導入している人のうち約7割が「住む場所について考えるようになった」、半数以上が「東京に住んでいる意味が薄れた」と回答したという。その結果、3人に1人以上が「移住を検討している」と回答。とりわけ若い世代の方が移住意欲が高いという。

3割とはかなり高い。いや高すぎる。コロナが収まったらリモートワーク廃止もあるかもしれないのにいいの? と思ってしまうが、おそらく回答者は永住というよりは「転居」くらいの感覚だろう。漠然とであっても「田舎に引っ越したいなぁ……」と思っている人が相当数いるということだ。


・キモは東京近郊

これからは東京一極集中が緩和されて地方が賑わうかな、と期待させる調査結果だが、さにあらず。

希望の移住先を訪ねる項目では、約3人に1人以上が「都心から1~2時間程度の田舎」と回答。反対に「都心から2時間以上離れた田舎」へ行きたいと考えている人は約1割(8%)で、ほとんどいないという結果だった。

東京で仕事をすることを前提に「たまに出社する」イメージなのだろうが、山村や離島などのガチな田舎が希望されているわけではなかった。必要なときにはすぐに都心へ行けて、普段は自然豊かな環境で生活する、「両方のメリットを享受する」ということのようだ。


・田舎暮らしは経済的?

調査では実際に田舎へ移住した人の声も聞いている。ここでいう田舎とは「関東甲信エリアかつ東京都23区から100分以上離れており、田畑が多くのどかなところ」だそう。

移住の決め手になったのは「自然が豊かなこと」が最も多く、次いで「都心へのアクセスが良いこと」「家賃など、生活費が安いこと」が挙がった。やはり都心へのアクセスは重視されている。

生活費について尋ねると、都心暮らしに比べ田舎暮らしの方が、1カ月あたり家賃 -3万1951円、食費 -4995円、食費以外の生活費 -8124円、合計約4万5000円、年間では約54万円の余裕が出ることがわかった。

筆者も実感があるが、とくに家賃は大きい。都心で1人暮らしの部屋を借りる賃料で、地方なら一戸建ての住宅ローンが払えてしまう。もちろん駐車場つきだ。

食費に関しても、全国チェーンでも地域別価格が設定されていることがあるし、「誰かしらの実家が農家」なんてことも多いので米など格安で譲ってもらえる。ちょっとおしゃれな店の「ランチ単価」もまったく違うだろう。車社会なので初期投資は必要だが、家族みんなで公共交通機関を利用するよりもガソリン代の方が圧倒的に安い。

同じ年収なら、田舎の方が余裕のある暮らしができる、というのは実感としてあるだろう。地方は給与水準も低いのであくまで「同じ年収なら」だが。

調査では「都心暮らしの頃の生活」に充実感をもっていた人が74%に対して、現在の「田舎暮らしの生活」に充実感をもっている人は84%。都心から田舎へ移住したことにより、生活の充実度が10%UPしているという。

仕事の効率も上がったといい、その理由は「日々の生活で感じるストレスが減った」「時間に余裕ができた」「プライベートが充実した」だという。


・田舎暮らしの筆者としては……

ちなみに筆者は東京からはほど遠い、地方生まれの地方育ち。都心から1〜2時間、関東甲信エリアなんて「それは田舎とは呼ばん!」という感覚だ。

ただ、コロナ禍による地方回帰の動きは感じている。例年は若年層の流出を食い止めるのに必死な筆者の近辺でも、今年は地元志向が高まり就職率が上がっているくらいだ。

都市部の人が想像するとおりに自然に囲まれ(たまに熊が出る)、コロナウイルスの発生も局所的なものに留まり、犯罪率は低く、そこそこの広さの住まいにペットと一緒に住み、街を歩いても人と肩がぶつかることもなく、たぶん筆者は「豊かな暮らし」を送っていると思う。

けれど、過去記事にも書いたとおり他地域との往来による「コロナウイルスの持ち込み」には厳しい視線が注がれ、噂や風評被害もある。どこに出かけても知人に会い、娯楽は少なく、新たに行ってみたい店もない。

移動が制限され、いざ「どこにも行けない」という状況になると、息が詰まるような閉塞感があるのもたしかだ。すみずみまで知り尽くした「自分の庭みたいな街」が、透明な檻(おり)のようにも思えてくる。

感染拡大地域に住んでいる人や、田舎に帰省できない人に比べれば、ぜいたくな悩みだとは承知しているが、コロナ禍でかえって田舎暮らしの欠点も際立った気がする。

たぶん人には「選択肢がある」ということが大事なのだ。普段は田舎に暮らしていても、行きたいときには都会に行ける。そういった意味では、やはり大都市を中心とした同心円状の人口集中はやむなしだなぁとも思う。あなたはいかがだろうか。


参照元:PR TIMES
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.