長崎市の南西に浮かぶ「軍艦島」こと端島(はしま)。当サイトでも過去に何度か取り上げているが、世界遺産にも登録され、日本でもっとも知名度が高い無人島かもしれない。
その名から「戦争遺跡?」と思うが、そうではなく炭鉱街の跡地だ。日本初の鉄筋コンクリート高層住宅が立ち並び、福利厚生施設が整えられるなど、当時の最先端都市であったという。
城跡よりも神殿よりも「ここがトイレの跡です」のような市民生活の遺跡に萌える筆者としては、ロマンしかない場所である。そんな軍艦島を自分の手で作れるペーパークラフトに挑戦!
・軍艦島ペーパークラフト
商品は現地の土産物店……ではなくヴィレッジヴァンガードなどのオンラインストアで購入できる。世界遺産に登録されたのは2015年だが、モデルは2011年以前の姿とのこと。
内容はA4サイズのシート3枚+組立説明書1枚。パーツ数は80! なかなか作りがいがありそうだ。
キットは通常版(税込1100円)とレーザーカット済み(税込2200円)の2種類ある。筆者は「軟弱者っ」と自分を罵りながら後者にしたのだが、結果的には正解だった。理由は後述するが、相当の上級者以外はレーザーカット済みがオススメだ。
台紙となるシートには、貼りつけの参考となるように建物名が書いてある。これだけでも地図のようで、たまらない……! マニア垂涎では!? ちょっと興奮してしまう。
・作業スタート
作業は丘の上からスタート。平らな土地の中央部だけ盛り上がるシルエットが、軍艦のブリッジのように見えたのだ。
数十棟を超える建物の中、1号棟は「端島神社」となっている。ほかに寺もあって、宗派を問わず法事を行っていたという。火葬場と墓は別の島にあった。
実際の軍艦島は、所定のツアーに参加することで上陸見学ができる。一般の見学客は神社まで近づけないが、上方に見えた小さな社が、それだったのではないかと思う。
紙は薄く軟らかい種類で、あまり強度がない。クタクタして扱いが難しく、あらかじめ折り目が入っている「レーザーカット済み」はありがたい。ただ、折ったところから紙が割れやすいので、印刷面がはがれないよう注意だ。予算もあるのだろうが、素材はもうちょっとだけ上質な方がよかった。
作業ごとにパーツの印刷位置がまとまっていることや、切り離したパーツにも「〇号棟」などと印刷されているのはよい配慮。
山折り、谷折りを駆使して複雑な地形を作っていく。島中央の小高いところが完成。
続いて平地の部分を作っていこう。病院や小中学校のある島北部から開始。サイコロ状にした建物をひたすら貼りつけていく作業だ。
ほかはすべて「〇号棟」という無機質な名称なのに「ちどり荘」という建物だけ特別待遇。なんだろうと思ったら、教職員宿舎だそう。
次は住宅や公共施設が立ち並ぶ島西部。公民館はもちろん、映画館、テニスコート、プール、パチンコ屋と娯楽施設も揃っていた。一般の見学客は立ち入れないが、もっとも興味深いエリアだともいえる。
閉山は1974年。「実際に住んでいた」という人が存命なくらい最近のことであり、多くの世界遺産と異なるユニークな点だ。医療、教育、娯楽、仕事、島の中ですべての都市機能が完結し、最盛期には東京都心の9倍に及ぶ人口密度だったという。
1つの鉱山で働く人はみな家族であるという「一山一家(いちざんいっか)」という言葉もあるが、離島という閉ざされた空間での命がけの仕事だ。助け合わなければ生きていけないから、ものすごく「密」なコミュニティを作っていたのだろうと思う。2度と戻らない時代というか、ノスタルジーというか、軍艦島にはそんな不思議な魅力がある。
最後に炭鉱関連施設のある島東部。ほぼすべてが直方体のビルの中、三角屋根の建物が珍しい。「第四堅抗巻座」で、ケージを昇降させる巻揚機(=ウィンチ)がある施設だという。
日の光も届かない海底に潜っていくのだから、改めてすごい仕事だ。島のユニークな生活面にばかり目が向きがちだけれど、危険も多く重労働だったろうと思う。
最後に岸壁でぐるりと囲んで、土台に固定する。
完成だ!! 写真を撮りながらだが、細かい作業が多くて5時間近くかかった。
・完成した姿がこちら
海に浮かぶ軍艦島だ。似ているといわれる軍艦は、同じく長崎生まれの「土佐」なのだそう。長崎は造船の街でもある。
ペーパークラフトだからだいぶ簡略化されているところもあるけれども、コンクリートのビル群がいい雰囲気を出している!
迷路のように入り組んだ住宅エリア。この過密ぶりが香港の九龍城砦を思わせる。複雑な廊下でつながれ、ビル内外に商店や郵便局、保育園もあったという。
実際には一般の見学客は決められた「見学通路」「見学広場」しか歩けない。見学できるのは、おもに事務所などがあった島南部だ。現地で見られなかった部分をペーパークラフトで俯瞰(ふかん)できるのは新鮮!
・軍艦島よ、永遠なれ
形あるもの、いつかはなくなる。現在の軍艦島の姿も、どこまで維持・保存できるかわからない。立体模型として手元に置いておけるのはとても嬉しい。作っているうちにまた現地に行きたくなってきた。
廃墟マニアにはもちろん、市民の生活の場としても、独自の文化が育まれたおもしろい場所だと思う。休日はどう過ごしていたのか、ご近所トラブルはなかったのか、などなど興味がつきない。同志の方はぜひどうぞ!
参考リンク:ヴィレッジヴァンガード、ながさき旅ネット
Report:冨樫さや
Photo:RocketNews24.
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