2015年7月に世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 ~製鉄・製鋼、造船、石炭産業~」に登録された長崎の通称・軍艦島(端島)。

2009年から一般の上陸が可能となり、各船会社から「軍艦島クルーズ」が催行されている。世界遺産への船旅……というとお高いイメージだが、実はツアー代金は3500円ほどからとお手頃価格。しかも船着き場は観光名所からも近くてアクセスがいい。

というわけで、今回は軍艦島クルーズの紹介をしたいと思う。

・20年前までは忘れられた場所だった

地元の話になると前は「修学旅行でハウステンボスに行った」と言われていたのだが、最近は「軍艦島に行ってみたい」と言われることが増え、すっかり長崎の観光名所となっている軍艦島。1974年の炭鉱閉山から2000年頃まで、地元の人間にとっては忘れられた島だったので不思議な感じがする。

日本で初めてのマンションが建てられ、近代的な暮らしをし、人口密度世界一にもなった小さな炭鉱の島。軍艦のような形も含め、不思議なロマンのある島である。地元の魅力って、内側からは分からないものなんだな。


・クルーズは4社ほどが運行

さて、長崎の軍艦島上陸クルーズを運行している船会社は主に4社ほどあり、発着場所、発着時間、乗船料金が異なる。どこの会社も午前便・午後便の1日2便運行になっている。

上陸ツアーの料金はだいたい3500円前後。中には1万円ほどするツアーもあるが、船が大きかったり、お土産やオプションがたくさんついてくるような感じ。

注意したいのは、運行会社によって船の発着場所が全然違うってところだと思う。

長崎の観光情報サイト・ながさき旅ネットに、情報とリンクがまとまっているので、そちらをぜひ参考にしてほしい。

ちなみに、土日の予約は先まで埋まっていることが多いが、平日なら当日でも余裕で予約できる場合もある。


・上陸できるかは運次第

ちなみに、軍艦島に上陸できるかどうかは、長崎市条例で定められた運航基準と、気象情報によって決められる。上陸できない場合は、軍艦島の周辺を船でめぐる周遊ツアーに切り替わる。海の事故は怖いし、安全の問題もあるのでこればっかりはしょうがない。

2023年7月31日からは台風6号接近中のため上陸できなくなっていた(期限は未定)。というわけで、私が参加したのは上陸ではなく周遊ツアーである。それでも十分楽しめるのでご安心を。

今回、参加したのはシーマン商会の軍艦島ツアーの午前便で、約2時間半ほどのクルーズ。

料金(大人)は周遊&上陸ツアーは3600円、周遊ツアーは3300円。

出港は10時30分だけど、誓約書を書くなど準備があるため集合は10時10分までにしなくてはいけなかった。

座る位置によって景色の見え方が違うので、良い席に座りたいなら早めに受付をすませるべし。

船は最大100人乗りほどの小さな船。臨場感はあるけどけっこう揺れるので、酔いやすい人は酔い止め必須。


・軍艦島につくまでも世界遺産いっぱい

港を出てから軍艦島に行くまでも、実は世界遺産や見どころがいっぱいあり、ガイドの方が詳しく説明してくれる。

まず現れるのが三菱の造船所。艦これとか、軍艦萌え、工場萌えな人にはたまらない。戦艦武蔵を造っていたドックなどを紹介。

ちなみに現在も最新型のイージス艦を作ったり、護衛艦の修繕などを行っている。(以前は大型客船を作っていたのだが、三菱造船がクルーズ事業からは撤退してしまいちょっとさみしい)

そのあとは女神大橋、神ノ島といった観光名所を紹介していく。

神ノ島は船の安全を祈るマリア様像と七福神がまつられている。神様いっぱいだから神ノ島なんだとか。

日本のピクニック発祥の地らしいねずみ島という島も。昔は海水浴場として栄えていた。

伊王島はリゾート地として県民に人気。ここも素敵な場所なので、いずれ紹介したい。



・軍艦島の前に…もうひとつの炭鉱の島へ

そして、軍艦島へ向かう前に「高島」という炭鉱で栄えた島に上陸し30分ほど見学。

ここは現在、住人が300人ほどの、のどかな島。

ここには炭鉱資料館があり、軍艦島や高島が炭鉱で栄えた頃の貴重な写真や模型が飾られている。

高島は高島で廃墟萌えな人たちに密かに人気のある場所である。

そして……島民300人に対して猫が400匹以上いるという猫の島でもある! 真夏は暑くて昼間は猫少ないらしいけど。



・そして軍艦島周遊へ

ふたたび船に乗り、5分ほどすると……ついに軍艦島が見えてきた!

周遊コースでは、軍艦島の周囲を解説しながら船でゆっくりと一周する。近くに着いたら、デッキの上にのぼって、軍艦島を間近に見れるぞ。

そして、島にある建物と、島の暮らしについてひとつひとつ、詳しくガイドの方が説明してくれる。この説明がまた面白いのである。

軍艦島の石炭採掘の初任給はいまでいう50〜60万円ほどで、かなりの高給取りだった。家賃もほとんどかからなかったので手取りがほぼ収入になる。

それでみんなが買うのは最新の電化製品。当時8%だったテレビの普及率が、軍艦島は100%だったというから驚きである。

軍艦島から石炭を掘る地下までのエレベーターは高さなんと600mで、今の東京スカイツリーほどの高さだったらしい。そのエレベーターには扉がなく、地下まで90秒で到着する、まるで絶叫マシンのような仕様。失神する人もいたらしい。

密集するマンションは渡り廊下でつながっている。

土地がないため屋上に保育園を作っており、未だに滑り台のあとが残っているという。

島内には病院や学校はもちろん、デパートや映画館、パチンコ店などの娯楽施設もあった。なんとパチンコ店は24時間営業だったらしい。

閉山後も未だに建物が残っているのは、台風などから島の人々の命を守るために、島の建物が非常に頑丈に作られていたからだという。

とはいえ、今度の台風6号で崩落してしまう建物もあるかもしれない……ということだった。



・帰りはゆったり

帰りは特にガイドなどはないので、船のデッキではなく、クーラーのきいた座席に座ってゆったり海の景色を楽しめる。半分凍らせたおしぼりを渡されて、クールダウン。

また、お土産に認定証や石炭の粒などをもらえる。

ちなみに石炭は機内持ち込みはできないので帰りの手荷物に要注意。

涼しい船内で青い海や島々の景色を見ているうちに、気持ちよくて寝てしまった。

クルーズの時間は、上陸なしで2時間半ほど。

船乗り場は長崎の市街地からもすぐで、意外なほど手軽なので、気になる方はぜひ。上陸できるのは運しだいだけど、近くをめぐるだけでも楽しいですぞ。


参考リンク:ながさき旅ネットシーマン商会
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.
[ この記事の英語版はこちら / Read in English ]