全国の劇場で、ホラー映画『事故物件 恐い間取り』が上映されている。“事故物件住みます芸人” として一躍有名になった松原タニシ氏の実体験を映画化した作品だ。主演はKAT-TUNの亀梨和也氏、監督が『リング』『仄暗い水の底から』の中田秀夫氏とあって、上映前から話題をさらっていた。

この映画に、制作陣の意図していない「声」が収録されているというウワサをご存じだろうか。筆者も実際に鑑賞してきたのでご報告したい。

ストーリーの核心に触れるネタバレはないが、該当のシーンについては詳しく記述するので、まっさらな状態で鑑賞したい方はそっとブラウザを閉じて欲しい。


・どんな映画?

『大島てる物件公示サイト』や松原タニシ氏の活躍で、すでに聞き慣れた言葉になりつつある「事故物件」。明確な定義はないというが、事件事故や自殺など、次の居住者が「イヤだな」「気持ち悪いな」と感じるような心理的瑕疵(かし)のある物件を指す。

多くの人が避けたいと願う事故物件にあえて住み続け、その経験をテレビやインタビューで共有することで “時の人” となった松原タニシ氏。ベストセラー著書『事故物件怪談 恐い間取り』が今回の映画の原作だ。

映画でも、テレビ番組の企画で事故物件に住むことになったお笑い芸人が、世間の注目を浴びる一方で、不思議な現象に巻き込まれていく……というのが大まかなストーリー。物語としては大幅なアレンジが加わっているが、アパート室内の様子などディテールには同氏の実体験がふんだんに盛り込まれている。


・問題のシーン

それでは問題のシーンについて解説していく。実は不気味な噂はいくつかあって、1つ目はストーリー序盤、最初の物件の自転車置き場のシーンで「白い影が映る」というもの。しかし、筆者はまったくわからなかった。

同じく自転車置き場のシーンで、塀の後ろに白い物体がぴょこっと出てくる、という報告もあり、これは筆者も視認できた。ただ、かなりはっきりしているので、なにか実体のあるものがたまたま映り込んでしまっただけではないかと思う。


もっとも騒がれているのが、上映開始から1時間近く経過した中盤のシーン。亀梨くん演じる芸人ヤマメがサイン会を開く場面だ。

ロビーのような場所で、いわゆる「ガヤ」のざわざわした音声が入っている。亀梨くんは長机に座ってファンの対応をする。そこで……



「たすけて」



という声が「画面の左側の方から、ささやくように」聞こえるというのだ。

ちなみにこのシーン、サインが終わって立ち去るファンに亀梨くんは「気ぃつけて」と関西弁で声をかける。小声で早口なので「たすけて」とも聞こえ、それをウワサの声だと思った人もいるようだ。しかしこの音声は中田監督も「亀梨くんが話すセリフ」とコメントしており、正体不明なものではない。


・中田監督の検証

中田監督は公開直後、鑑賞した人から「変なものが聞こえた」「見えた」という声が上がると、すぐにTwitter上で情報を集め、自ら検証を行っている。

同Twitterによると、亀梨くんのセリフは真ん中のスピーカーから出力しており、「左側から聞こえる」というのは矛盾があること。またセリフとしてちゃんと出力したものが「ささやき」になるのは考えにくいこと、を述べている。つまり亀梨くんのセリフとは別に、なにかが聞こえた人が多数いるようだ……ということがわかってきた。


では、誰かほかの役者のセリフが紛れ込んだのではないか?


監督によると、背景となるエキストラの会話は別録りしており、後から編集で重ね合わせるのだそう。亀梨くんの背後には物販コーナーで買い物をする人など、動きのある役者もいるが、パントマイムなのだとか。

そして別録りでは設定に合わせて演技してもらう。つまり「たすけて」のような勝手なセリフをしゃべることはないとのこと。

現状で考えられる可能性は2つだという。編集の過程で、複数の声の重なり合いからたまたまそう聞こえる、というのが1つ。

もう1つの可能性は、編集のすきまに正体不明のナニカが紛れ込んだ……というもの。どちらにせよはっきりとはわからない、というのが現時点での着地点のようだ。少なくとも演出上の目的で意図的に入れたものではないという。


ちなみに筆者は……亀梨くんのセリフの方に気をとられて聞こえなかった。鑑賞した人の中でも「聞こえた」「聞こえなかった」は分かれているようだ。

筆者はエンタメとしてのホラーは好きだが、いわゆる心霊現象にはかなり懐疑的だ。しかし世の中に「不吉なこと」「避けた方がいいこと」はあると思うし、古くから信じられているジンクスにはそれなりの理由があるとも思う。たとえば怪談を語ると “寄ってくる” というような類いだ。

ただでさえ感染症対策で人が隣り合わないよう座席が販売されているうえ、この日は平日で、筆者のほかに客は数人だけ。おまけに筆者は1人で来館していた。ほぼ無人の映画館でホラー映画を見るというかなりストレスフルな経験をした。暗闇にかすかに見える数人の客が、本当に「人」だったか自信がない。


・あなたの耳で確かめてみて欲しい

致命的なのは、映画館ではDVDやVODのように「なんども聞き直す」ことができない点。確認のために繰り返し足を運んでいるツワモノもいるようだ。

中田監督は “恐ポップ” と表現するが、映画は笑いあり、ラブロマンスありのエンターテインメント作品である。作中にただよう雰囲気はむしろ明るく、売れないお笑い芸人のサクセスストーリーとしても面白い。

その分、一瞬でホラーシーンに切り替わったときのギャップには驚く。私たちが暮らす「日常」のすぐ隣にひそむ恐怖が表現されている。

ウワサの声、あなたには聞こえるだろうか。どうかご自身の耳で確かめてみて欲しい。


参考リンク:『事故物件 恐い間取り』公式サイト中田秀夫@hideonakatan
Report:冨樫さや
Photo:RocketNews24.