売れっ子作家といえば思い浮かぶは「カンヅメ生活」。締め切りが迫ると、日々の喧騒から逃れて静かな旅館やホテルで原稿執筆に没頭する。そんな「カンヅメ生活」に憧れる人も多いのではないだろうか。

「でも自分は別に売れっ子でもないし、その前にプロの作家でもないし、今のご時世カンヅメ生活してる作家も多いわけじゃないし、別に、しなくっても……」といじけてる諸君に朗報! なんと! 東京都文京区本郷にある老舗旅館で、文豪缶詰体験ができるのだ!! 諸君の思いを胸に、筆者がカンヅメ体験してきたぞ!!

場所は本郷三丁目。鳳明館は本館と別館2つの老舗旅館。明治に建てられた本館は、築100年以上経つ登録有形文化財。元々下宿だった施設を旅館にし、昭和20年代に旅館業として登録したそう。

今回カンヅメ体験ができるのは、昭和30年代に京都の修学旅行の宿を意識して建てられた森川別館。1泊2日のプラン。はたして、どこまで執筆に没頭できるだろうか。


鳳明館森川別館は、南北線東大前駅から徒歩5分。しかし私は本館と勘違いしていて丸ノ内線の本郷三丁目から歩いたため、徒歩13分だった。ちょっと坂があったりしたが、途中で本館と台町別館も見ることができたので逆にラッキーだった。


森川別館の佇まいは実に歴史を感じる。きっと実際に多くの作家が缶詰体験をしてきたのだろう。感慨深く玄関の前に来ると、大きな文字で「鳳明出版編集部 先生御一行様」と書いてある。そんな、先生って恥ずかしい……。


中に入るとデデンと趣のある渋い玄関ロビーが広がっている。雰囲気がたまらない。


照れていると、靴箱にも「千絵ノムラ先生」の文字が。ここまで来ると少し開き直るしかない。そう、私は作家先生なのだ!


編集部の皆さんが迎えてくれ、さっそく部屋に向かう。


うーん、廊下も実に趣があり、歴史を感じる。


私に用意されたのは一番奥の「はるな」という部屋だった。ここにも「千絵ノムラ先生」と札がある。ちょっと芸能人の楽屋感があるが、悪い気はしない。他の部屋には2名の名前が書いてある札もあった。2人で缶詰も面白そう。


さて、お邪魔しまーす。


おお、広い!!


どどーん!!


中に入るとそこは12畳の和室。もうすでに布団が敷いてあった。

それにしても広い。1人にはもったいない。寂しくならないだろうか……と不安を抱えていると、担当編集者の伊藤さんより説明が。事前に答えていた執筆目標や、担当編集者の厳しさレベル、差し入れにやめて欲しいものなどの確認をされる。いや、それにしても編集者さん、可愛いな。私が男だったらきっとウハウハだろう。

と、よこしまなことを考えていると、説明は終わり、伊藤さんは部屋を出て行った。

さっそく! 私は缶詰にならなければいけない。部屋にある大きな机でも十分だが、せっかくオプションでつけた文机があるので、これを利用しなければ! とまず机の配置を考える。しかしそこで大きな問題に行き着く。


コンセントが遠い……。

パソコンを使わなければ何の問題もないのだが、現代っ子の私には、電源が必須だ。むむむ。いや、まずWi-Fiをつなごう。しかしこれもなかなかうまくいかず、編集さんにSOSの電話をする。


すると編集の鈴木さんが高速で、延長コード2本とルーターを持ってきてくれた! これはかなり至れりつくせり! ちょっと悦に浸ってしまう。さすが私は作家先生。


しかし残念ながら、延長コードを2本繋いでも机には届かず、布団の近くに文机を移動する。iPhoneを充電し、パソコンも電源につなげ、いざ執筆! 私のこの日の目標はロケットニュースの記事作成と、別仕事の宣伝、それにブログの更新だ。


もくもくもく。


遮断された空間は確かに仕事が捗る。唯一の敵はネットサーフィンだ。ついつい用もないのにTwitterやらメールやらを見てしまう……。


すると!


リンリンリンリンリン♪

は! 電話だ! しかもかなり昭和を感じるベル音。そうだ、オプションで進捗コールを頼んでいたのだった。編集さんから喝を入れていただき、ネットを見てる場合じゃないことに気づいた私は、旅館自体も取材しなくては! と部屋の外を探検することにした。


昭和30年代に建てられたということで、レトロ好きな私にはたまらない空間が広がっていた。旅館は4階建で、私の部屋があるのは2階。部屋数はかなり多い。


そしてところどころに「進捗いかがですか?」の張り紙がある。


「はい、戻ります……」


一通りの探検を終え、部屋に戻ると18時30分。見張りを頼んだ時間である。そっと窓の外を覗く。

おお!


いるいるいる! 見張られている!!


いかにも「見張っています!」という体裁の伊藤さんと鈴木さんがいる!

面白い。可愛い。伊藤さんが双眼鏡を持って、鈴木さんが文字の書いた紙を持っている。そこには「窓からおでかけですか?」「原稿まだですか?」のメッセージが。思わず微笑みながら写真を撮る。癒されたところで、差し入れの時間まで執筆に勤しむ。差し入れは何だろう……。わくわく。


差し入れはなんとカツ丼だった! 私は「世界がもし終わるなら最後に何が食べたい?」という質問に必ずカツ丼と答えるほど、カツ丼が大好物だ。それに栄養ドリンクとお菓子つき。うん、バランスがいい。あっというまにカツ丼をたいらげて、ふたたび執筆。


さて、20時半になり早めのお風呂に入ることにした。1階にお風呂がある。お風呂は男女別で、女性はローマ風呂だった。


お風呂は素晴らしきタイル風呂。誰もいないので独り占めだった。ローマ風呂というだけあって、壁画やお風呂の形がローマっぽい。ちょっと熱めのお湯が抜群に気持ちよかった。

お風呂からあがり、ドライヤーを借りて部屋で乾かして、ふたたび執筆。しかしこの頃になると逆にワクワクしてきてしまった。修学旅行などで夜が近づくとワクワクしてしまう、あれだ。一人なのに何故ワクワクしてしまうのか。

しかし目標までまだまだなので、ここで一気に頑張らねばならない! ということで、ペースアップ!


もくもくもく。


ふぅ〜。記事を1本仕上げ、気づくと深夜0時を過ぎていた。

私は自分へのご褒美にと、持ち込んでいたビールを飲んで眠りについた。おやすみなさい……。


〜翌朝〜


リンリンリンリンリン♪

電話が鳴る。頼んでいた7時のモーニングコールだ。寝ぼけながら電話に出たが、その後また就寝。8時を過ぎるとまた電話が鳴り、どうやら朝ごはんが運ばれてきたのだが、寝てて気づかなかったのだ。あらためて運ばれた朝ごはんは……


わー! 豪華!!

まさに旅館の朝ごはんだ! いただきまーす♪


朝ごはんをいただき、着替えをして、帰る準備をする。朝も少し執筆できたらいいなと思っていたが、夜も遅かったのでできなかった。まあ、いいだろう。十分頑張った。

10時になりチェックアウトへ。他の先生方のチェックアウトも重なり、バタバタしていたのもあったせいか、進捗などは聞かれなかった。ここで最後の仕上がり確認があったらよかったな。

なにはともあれ、無事に文豪缶詰プランを終了! 老舗の旅館で文豪気分を味わうということは、非日常的で感慨深く、率直に楽しかった。

今度は鳳明館にプライベートで泊まりに来てみたい。素敵なレトロ建築がどんどんなくなっていく中、是非多くの人に足を運んで欲しいと思う。

編集の皆さん、鳳明館の女将さん、本当にお世話になりました!!


・今回の参加料金

宿泊料金(8000円)
進捗コール(無料)
文机(2000円)
担当編集チーム(3000円)
外から見張られている(1000円)
お膳朝食(1200円)
差し入れ(1000円)
合計金額:税込1万6200円


・今回参加したプランの詳細

文豪缶詰プラン特設サイト
場所 鳳明館 森川別館
住所 〒113-0033 東京都文京区本郷6-23-5

Report:千絵ノムラ
Photo:RocketNews24.

▼文豪缶詰プラン詳細、その1。

▼オプション一覧。「緊急事態以外は、旅館から出られません」‼︎

▼本妻と愛人が鉢合わせ。女性版も作って欲しい。「夫と若いつばめの鉢合わせプラン」ぞくぞくする。

▼立派な看板。何年間、本郷の地を見守っているのだろうか。

▼玄関から圧倒されるぞ。

▼今回、地味に一番衝撃を受けたスリッパ置きの棚。すごいぞ。

▼令和という文字が印象深い。いくつもの時代を見てきたのだろう。

▼コロナ対策も万全だ。

▼河童の模様がある格子窓。清酒「黄桜」の河童と、芥川龍之介の小説に出てくる河童がモチーフだそう。

▼お部屋にあったお茶菓子。文豪、夏目漱石にちなんだお菓子とは粋な計らい。

▼漱石が医者に止められても食べていた大好物。ぷるぷるのピーナッツ味のお菓子は、キスの食感。

▼浴衣、バスタオル、タオル、歯ブラシが用意されている。タオルは持ち帰りOK!

▼旅館感が満載の一角。

▼冷蔵庫もいい感じにレトロだ。

▼文机とライトをこう使うのが模範解答なのだろう。

▼持ち込みOK。でも買い忘れてしまった人にも安心。旅館内に自動販売機があるぞ。酒盛りもできる!

▼展示用の坂口安吾部屋。

▼念を感じる。一体どれだけ缶詰しているのだろうか。

▼タイルの洗面所がたまらない、その1。

▼タイルの洗面所がたまらない、その2。

▼タイルの洗面所がたまらない、その3。

▼タイルの洗面所がたまらない、その4。

▼タイルの洗面所がたまらない、その5。

▼暖簾(のれん)とサッポロ★ビールの鏡の組み合わせ。

▼ お風呂の脱衣所。ちなみにお風呂場にはボディソープとリンスインシャンプーがあるのみなので、気になる人はコンディショナーを持っていくことをおすすめする。あと化粧品や乳液、メイク落としなどのコスメも持参で。

▼こっそり覗いた男子風呂。もうひとつの大きなお風呂が工事中のため、小さめのお風呂だそう。

▼お手洗い。明るく清潔で、ビビリの私でも、深夜のトイレが怖くなかった。

▼いたるところにメッセージが張ってある。

▼情緒感じる部屋の名前。

▼都内にまだこんな風景があったとは。

▼狸が見守ってるぞ。

▼息抜き部屋発見!

▼この扉も素晴らしいですなぁ。

▼紫色のカーペットとは! さすが「すみれ」の間。

▼入り口には売店もあったぞ。原稿用紙がデザインされたトートバッグや前掛け、ブックカバーなど。鳳明館Tシャツも気になる。

▼お菓子やカップラーメン、缶詰もあるので、小腹が空いた時には売店へGO!

▼編集者ガチャ。無料なのでやってみた。

▼ガチャガチャ。ポン。

▼編集さんからの熱いお言葉が。

▼外観。年季を感じます。

▼私が泊まっていた部屋。編集さんたちは、この道から見張ってくれてたのだ。

▼こちらが本館。

▼玄関はこんなかんじ。うぉぉぉ、こちらも渋い!

▼中に入るとこんな。ちょっと親戚のおうち感がある。落ち着いてます。

▼鳳明館台町別館。こちらも気になる。