歴史ある温泉宿って大体お高いものだ。以前の記事でご紹介した世界最古の歴史を持つ宿『慶雲館(けいうんかん)』も、一人一泊3万2000円って書いてあるし。まあ、世俗を離れて心置きなくくつろげる時間を考えるとそれだけの価値がある気もするのだが、私(中澤)にはちょっとセレブすぎる。

と思いきや、2011年までギネス1位だった石川県の『法師』は1万3000円で泊まれてしまうじゃないか。ビジネスホテルかよ! しかも、朝晩つき、晩には牛ロースしゃぶしゃぶまでついてくる!! なんじゃこりゃあ!? 穴場すぎるだろ! というわけで、即予約した。

・奈良時代からある

粟津温泉の温泉街に建っている『法師』。創業は粟津温泉の開湯と同時の718年で、その歴史は1303年目を数えるという。『慶雲館(けいうんかん)』が705年創業であることを考えると歴史的にはほぼ変わらない。世界最古級の宿と言えるだろう。しかしながら、到着してみると外観はとても綺麗


ロビーも広く、高い天井からは高級感がにじみ出ている。こんな温泉宿が2食つきで一泊1万3000円だと!? 信じられぬー

・衝撃の接客

一刻も早く部屋を見たい。そこでササッと受付での記入を終わらせた。しかし、何か妙だ。スタッフが一向に部屋に案内してくれる気配がないのである。今忙しいのかな? と思いきや聞いてみたところ……


中居さん「お部屋への案内はございません。地図を見て行ってもらえると。そこの台車は荷物を運ぶのに使っていただいてかまいませんので

──マジかよ! ガチでビジネスホテルやん!! まあ、ビジネスホテル好きな私としてはいつものパターンなんだけど、高級旅館から想像するサービスとはイメージが違いすぎてビビった。

・セルフサービスプランだった

実は、この原因は予約したプランにある。私が予約したのはセルフサービスのプランだったのだ。確かに、プラン予約する際セルフサービス的な文言が書いてあった気がするし、思い返せば受付でも説明をしてたけど、セルフサービスってこういう意味だったのか。どおりで安いわけである。

テンション上がりすぎて全スルーしてしまってたァァァアアア! 完全に私が悪い。ちなみに、プランの変更も可能なようだが、よく考えたら別に嫌でもないことに気づいた

ただ荷物を持って部屋に行くだけだからである。そして、部屋の中に入ればセルフなのが当たり前だから、普通のプランと変わらない。要するに部屋に着いてしまえばこっちのものだ!

・部屋最高

というわけで部屋に到着すると奥に縁側があった。いわゆる広縁(ひろえん)というヤツである。これがあるだけでグッと旅館オーラが増すよな。そんな広縁から中庭が見えるロケーションも最高。しかし、もっと最高なのは……


掘りごたつがあるんですよ旦那

リラックスの化身か! 使うかどうかわからないけど、そこにあるだけで強くなれる。米米CLUBの『君がいるだけで』は掘りごたつのことを歌っていたに違いない。

・夕食

だらだらしているとあっという間に夕飯時。ドアの外から中居さんの呼ぶ声がした。部屋で酒池肉林は旅館のだいご味! 扉を開けてウェルカムしたところ、中居さんはお盆を持ったまま玄関で立ち止まる。


中居さん「すみません。入れないのでここから先はお客様でお願いします」


なんで


と、そうかセルフサービスか。部屋でくつろぎすぎてすっかり忘れていたぞ。とは言え、受け取って並べるだけなので、手間とか言うほどではない。むしろ、私は普通の旅館でも一方的に運ばせるのが悪い気がして手伝う派なので、あまり変わらないと言える。

夕飯の内容については「弁当」と呼ばれてはいるがこれぞ旅館メシ。刺身、天ぷら、焼き魚、煮物と、ズラーッと広がる至福感を味わえつつ量的にもちょうど良い。特に、鍋の牛肉がガッツリしているのは最高だった。旅館メシと言えばこの贅沢さだよなあ。

それにしても、部屋の前まで持ってきている時点で旅館側の手間ってほぼ変わらないのではないだろうか。片付けも部屋の前のカートにお盆を置くだけだし。

・支配人に話を聞いてみた

一泊してみても、セルフサービスを感じさせられたのは、チェックイン時と夕飯の2点だけであった。個人的には、フルサービスよりむしろこちらのプランの方が良い。夕飯の片付けなんて時間に縛られない分、セルフサービスの方が気が楽だ。


だが、私のようによくプランを見てなくてチェックイン時に面食らう人は多そうではある。安いだけに。そのままモメてしまうお客さんもいそうだ。そこで支配人の阪覚(さか)さんに話を聞いてみた。

阪覚さん「セルフサービスプランを開始したのは2020年のことです。確かに開始した当初はそういったお客様も多く、地元の新聞などでも物議を醸していました。『旅館のプランとして受け入れられるのか?』と


──では、なぜこのプランを続けているんでしょうか?


阪覚さん「最初はコロナ禍に際して、お客様が安心できるものは何かという模索からでした。しかし、続けているうちに、『気楽で良い』などのコロナ対策とは違った応援の声をいただくようになりまして。今では新しい目玉のプランとなっていますので継続しております」


──とのこと。阪覚さんいわく「もしコロナ禍が明けても継続していくつもり」なのだとか。事実、私も泊まってみて感じたのは「ぜひ続けてほしい」ということだった。

・老舗のチャレンジ

私が泊まったのは土日でしかも牛ロースしゃぶしゃぶをつけて1万3000円だったが、公式サイトのセルフプランの中には2食つきで8000円台もある。もはやビジホ越えてるだろこのコスパ。次に泊まる機会があればまたこのプランで予約したい。

コロナ禍で地方の観光業が厳しい状況であることはよく報道されているが、ではどうしていくべきなのか? 由緒正しき旅館のチャレンジはアフターコロナの旅館業界のトレンドとなるかもしれない。

参考リンク:法師
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.

▼部屋から見えた中庭

▼江戸時代に描かれた水墨画『粟津八景』に「法師」が描かれている

▼ちなみに、水墨画に描かれている松はこちら

▼館内は増築でかなり広い

▼なぜかところどころに漂うエジプト臭

▼バーもある

▼最初にあった建物はロビーのある新春の館と中庭にある延命閣だったという

▼温泉分析書。飲めるようだ