私が高校生だった1998年、彗星のごとく音楽シーンに現れた浜崎あゆみ。「ギャルの教祖」や「歌姫」と呼ばれ知らない人はいない人気を誇っていたが、当時あまり好きではなかったことを覚えている。
なぜなら、私はアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の影響下にあったから。1997年に一旦完結を迎えていた本作。第26話「まごころを、君に」の鬱エンドに人格を変えられた人は多かったと思う。あれ見た後に、浜崎あゆみにはハマれない。まぶしすぎて。だが、そんな2つには意外な共通点があった。
・『M〜愛すべき人がいて〜』を見た理由
そんな共通点に気づいたのはドラマ『M〜愛すべき人がいて〜』を見ていた時のことだ。ちなみに、なぜ、当時アンチ的な立場だった私が今ドラマを見たかと言うと、ブラックボックスを開くのにちょうど良いと思ったからである。
あれだけ同世代に流行っていたのに浜崎あゆみのことをほぼ知らない。20年経った今だからこそ、「浜崎あゆみとは何だったのか?」ということを知りたくなった。
・色んな意味で興味深い
見てみると、以前の記事でもお伝えしているように『M〜愛すべき人がいて〜』は、確かに演出過多な部分がある。小室哲哉をモチーフにしたと想像しそうなキャラ登場の瞬間は、当時の雰囲気を知る者ならばおそらく誰もが吹き出すに違いないし、田中みな実は完全にギャグだ。あゆとマサの演出にも「嘘だろ!?」というシーンが連発する。
「浜崎あゆみ本人からの聞き取りを元に書かれた小説にオリジナルの要素を加えたフィクションドラマ」とはいえ、さすがにすべてがフィクションではないだろう。スカウトされるシーンや実在するアーティストをモチーフにしたと思しきキャラは当時の空気感が感じられる。
・エヴァとの共通点
そして、第3話には、デビューに際しての作詞を描いたひとコマがあった。自身の経験を元に綴られる言葉は「どうして泣いてるの どうして迷ってるの どうして立ち止まるの ねえ教えて」と自問自答する。
私はこの時、初めて浜崎あゆみの初期曲の歌詞をまともに読んだのだが……「居場所がなかった 見つからなかった 未来には期待出来るのか分からずに」……これは……この胸に穴が開くような空洞の感触は……
虚無感……!
エヴァンゲリオンのシンジくんが歌っていたとしても不思議じゃない。なお、この歌詞は『A Song for XX』という曲のものだが、気になって他の曲も調べてみたところ、全曲に「切ない」という言葉では生ぬるい虚無感が横たわっていた。浜崎あゆみの歌詞ってこんなんだったのか……!
考えてみたら、エヴァンゲリオンや浜崎あゆみが登場した時期はちょうどロストジェネレーションど真ん中。当時、エヴァンゲリオンの雰囲気はもろ時代の空気という感じがしていたが、「ギャルの教祖」と呼ばれていた浜崎あゆみもまた間違いなくロストジェネレーションの歌姫だったのである。
・今聞くからこそ
これは売れるわ……。期せずしてあれだけ流行していた理由の一端が見えた。20年経った今聞いてみたら、浜崎あゆみの歌詞はめちゃくちゃ時代を捉えている。
演出過多な香ばしさだけでなく、そんな発見もある『M〜愛すべき人がいて〜』。気づけば第4話を楽しみにしている私がいるが、テレビ朝日の公式サイトによると新型コロナの影響で第4話は延期となったようだ。
その代わり、5月9日には第1話のリミックスバージョンが放送されるという。気になっていたけど乗り遅れて諦めていた人はこのチャンスを逃すな!
参照元:『M〜愛すべき人がいて〜』公式サイト、abemaTV
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.
イラスト:稲葉翔子