
関西で暮らす人間にとって、朝の風物詩でもある『鮮魚列車』がダイヤ改正に伴い、2020年3月13日で運行を終える。鮮魚列車はその名の通り、新鮮な魚を運ぶ、行商人専用の近畿鉄道車両のこと。通勤通学途中に、この車両を見ることが日課だったという人も少なくないだろう。
時代の流れかもしれないが、なんとも寂しいニュースである。この寂しさをどうしたらいいものか。悶々としていたところ、奈良に素敵な名前のお店があることを知った。その名も “カラオケ鮮魚列車” ──。これは、あの鮮魚列車にゆかりある店に違いない……ということで、さっそく突撃してみたぞ!
・今後は「伊勢志摩お魚図鑑」として
まずは鮮魚列車について、簡単に説明しておこう。上記したように近鉄電車が運行しているもので、国内で唯一走っている行商人専用車だ。三重県の伊勢志摩地方で水揚げされた海産物を1963年からずっと、三重や奈良、大阪に運んできた。
宇治山田駅から大阪上本町駅まで日曜と祝日を除き、毎朝1本3両編成で運行している。最盛期は1日当たり100人を超える行商人が乗り込み、伊勢エビやアワビなどを運んだという。想像しただけでも、なんという活気ある風景だろうか。
現在では残念ながら車による運搬が増え、利用者が減ったことから今回の決断に至ったそう。とは言え、ダイヤ改正後もラッピング車両 “伊勢志摩お魚図鑑” という名で、2両編成の一般車両のうち1両をラッピングして鮮魚を運搬する専用車両とすることが決定している。
つまり鮮魚列車が完全になくなるという訳ではなく、一部その機能は残るということ。しかしながら今後、行先欄に「鮮魚」と書かれた真っ赤な車体を拝めなくなると思うと、ちょっと……いや、だいぶ寂しい。
・三重と奈良をつなぐ「カラオケ鮮魚列車」
そんな時に見つけたのが、奈良県桜井市にある “カラオケ鮮魚列車” だ。一体全体、近鉄の鮮魚列車とどのような関係なのか。居ても立っても居られず、お店にお邪魔してみた。お店の場所はJR桜井駅から歩いて数分と好立地。記者がお邪魔した際、地元の方でにぎわっていた。
店内に入ると、なんだか懐かしい雰囲気だ。同店のイチオシメニューであるという “ちゃんこ鍋(400円)” を待つ間、店主の寺岡さんに話を聞かせてもらった。寺岡さんは、店のある桜井市出身。同店のほか、三重県で民宿も営んでいるという。
三重と言えば、鮮魚列車の発車地点だ。かねてより地元を元気にしたいという思いがあり、また乗り物が好きなこともあって、三重と奈良にゆかりある “鮮魚列車” を用いた店名にしたとのこと。店は2019年10月にオープンしたばかりで「まさか(鮮魚列車が)運行終了するとは……」と戸惑いを隠せない様子の寺岡さん。
しかしこれも何かの縁と、列車が運行終了したのちも、列車の名を残すべく店を経営していくという。寺岡さんは相撲ファンで、力士たちの応援にも力を入れている。その効果か、いただいた “ちゃんこ鍋” も絶品だった。なんでも某力士の親御さんのお墨付きだそうだ。
また店名の冠に “カラオケ” と付いている通り、カラオケも楽しむことができる。記者もこの日、気持ちよく松田聖子さんの “赤いスイートピー” を歌わせてもらったぞ。アットホームな、とても居心地の良い空間だ。
・かつて魚市場としてにぎわった桜井
実は同店のある桜井市は、かつて魚市場としてにぎわった場所でもあるのだ。現在は廃れてしまったが、当時の風景が伺える魚屋の看板などが、店の近くに今も残っている。市場としては古い場所のひとつでもあるようで、吉野から多武峰を越えて担いで運ばれた “熊野鯖” が名物のひとつだった。
鯖街道と言えば京都が有名だが、実は奈良にも存在し、終着地点となるのがこの桜井市だったのだろう。そうした点を振り返ると “カラオケ鮮魚列車” がこの地にあるのも、魚がつなぐ縁のような気がしてくるというものだ。
さて、さまざまな思いと歴史が詰まった “鮮魚列車” ももうすぐラストラン。もう少しその姿を見ていたかったが、こればかりは仕方がない。今後は “カラオケ鮮魚列車” にて、その思い出を語り合うことができれば良いな……なんて思っている。
・今回ご紹介した店舗の詳細データ
店名 カラオケ鮮魚列車
住所 奈良県桜井市桜井950-2
時間 カラオケ喫茶タイム11:00〜16:00、カラオケ居酒屋タイム17:00〜22:00(L/O21:00)
定休日 不定休
Report:K.Masami
Photo:Rocketnews24.
▼2020年3月13日で運行を終える「鮮魚列車」
▼寂しいのでカラオケ鮮魚列車に行ってみた
▼店内には電車のつり革も
▼三重県で民宿を営む店主。三重の食材を使ったメニューが登場することもある
▼ちゃんこ鍋も美味しい
▼もちろんカラオケもできます
▼お店には看板犬の勘吉くんもいるよ
▼店のある桜井市はかつて魚市場としてにぎわっていた
K.Masami

















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