どことなく昔ながらの風情を感じる東京の下町・入谷。なんでもこの一帯は戦災の影響をあまり受けなかった地区なのだとか。この街に漂うどこか懐かしい情緒は、戦前からの建物が残っていることも関係しているのかもしれない。
そんな東京メトロ入谷駅周辺を散歩していると、年季の入った立ち食いそば屋を見つけた。昭和の香り漂うテラテラの軒に書かれているのは『山田製麺所本店』という名前。どうやら、製麺所直営の立ち食いそば屋のようである。
・セピアの写真のような店内
近づいてみると、色あせたのれんにこれまた年季を感じる。その奥のサッシの扉も良い味を出しており、この店自体が下町っぽい。そこで、入ってみることにした。
入店すると、中は外観以上に年季が入っている。全体的にくすんだ色調の店内に差し込む午後の光が、ぼんやり滲むように柔らかい。色あせたメニューを見ると、かけそばは税込み280円と立ち食いそば屋でもかなり安めの価格である。
カウンターの奥に隠れるようにある揚げ置きの天ぷらを見て、なんとなく春菊天そば(税込400円)を注文した。セピアの写真のような店内で春菊天だけが青々としていたからかもしれない。春菊天そばはすぐに出てきた。
・湯気の向こう側に春菊天
もうもうと湯気を上げるそば。そして、湯気の向こう側に大きい春菊天が見える。深い深い緑色。まるで『もののけ姫』のシシガミの森に霧が立ち込めるように、その光景はなかなかに神秘的だった。
太めの麺は食べると、モチとボソの間くらいの独特の食感。つゆはコクのある醤油味の中に少しだけ酸味があり、スッキリしていてウマイ方だと思う。まあ、全部ひっくるめると立ち食いそば的ななんでもない味なんだけども。
・色んな意味で味わい深い店
ただ、その味は年季のこもったなんでもなさであり、ちょっとディープな下町・入谷に通じる味であるような気もする。食べ終わって外に出ると、冬には温かい陽射しが私を出迎えた。春はもうすぐそこ。入谷に息づく昔ながらの庶民の味は、とても味わい深いものだった。
・今回紹介した店舗の情報
店名 山田製麺所本店
住所 東京都 台東区 北上野 2-17-7
営業時間 月~金7:30~16:00頃、土7:30〜14:00頃
定休日 無休
Report:立ち食いそば評論家・中澤星児
Photo:Rocketnews24.