連載企画「ラーメン屋が推すラーメン屋」、3回目は神奈川県横浜市にある『地球(ほし)の中華そば』──ラーメン通から「ほしちゅう」の愛称で知られている人気店だ。人でもモノでも店でもそうだが、名前を略されるようになったら愛されている証拠であろう。
そんな「ほしちゅう」を、「ロケニュー」を代表して私が訪問・取材させていただいたのだが、そもそも同店を推した『中村麺三郎商店』の店主は前回、次のように語っていた。
中村店主「自分が推す店は、『地球の中華そば』ですね。この前、リニューアルした塩ラーメンを食べに行ってみたら、すごい美味しかったです。とにかく塩が力強いんですよ」
「塩」……! 正直に言うと、「醤油」「味噌」「とんこつ」など、あまたあるラーメンのジャンルの中で「塩ラーメン」は最弱でパンチ力に欠ける……という印象を筆者(ショーン)は抱いていて、自らすすんで食べることはない。簡単に言えば「食わず嫌い」というヤツだ。
──が、中村店主が美味しいというのなら……。「美味しいラーメン屋が推すラーメン屋は美味しい」という本企画の趣旨を信じて、食べに行ってみた。
JR関内駅から徒歩10分ほどの場所にある同店を訪れてみると、そこには入店待ちの列。人気店であることがうかがえるが、回転はいいのか、さほど待たずに入店することができた。
ほどなくして、注文した「塩そば(880円)」が到着。ふわぁ~、イイ香りだ! 塩ラーメンなので当然スープの透明度が高いが、色合いは金色(こんじき)に近く、さぞや色んなダシをとっていることが見た目からも、丼から立ち込める香りからも むんむんと伝わってくる。
いざ、スープを一口飲んでみると……
……べらぼうにウマイ! 事前の触れ込み通り非常~に力強い「塩」が感じられるのだが、それでいて不思議と全くもって “しょっぱくない” 。
しょっぱいどころか、むしろ ”まろやか” で、五臓六腑の隅々までしみわたりそうな優しい~味。なのに「塩」がどっしりと強調されている。鶏と豚、それと魚介の風味が際立っているが、どれもこれも一致団結して、最後は「塩」という1つの味、いわばワン・チームにまとまっているかのようだ。
長さのある麺は、定評のある小麦粉「ハルヨコイ」を使用。なめらかでコシのある舌触りが塩ラーメンのスープと絶妙にマッチしていて、美味い!
肩ロースのチャーシューを食べてみると、その肉々しさたるや。上品さすら感じる味わいに、もはやラーメンのトッピングに使われるクオリティではないのでは……というと、ラーメンに失礼だろうか。
チャーシューは、もう1種。肉の食感を残しつつもとろりとしているが豚バラほど脂身を感じず、ちょうどイイあんばい。なんの部位を使っているのだろう? と思ったら、どうやら肩ロースの脂身を煮豚にしたものらしい。
ちなみに、このチャーシューに乗っている赤いモノは「ドライトマト」をペースト状にしたもの。スープに溶かして混ぜるとスープの味わいが「和」と「洋」の中間に変化し、1度に2度楽しい一杯となっている。
いやぁ、すっかり「塩ラーメン」に対する固定概念が覆されてしまった。私と同様、「塩ラーメン」を食わず嫌いしている人はぜひ1度、『地球の中華そば』を訪れることをオススメする──と、オススメされた私が偉そうに他人に言う立場ではないのだが。
・店主にインタビュー! 元プロボクサー……?
さて、この絶品「塩そば」を作るのはどんな人物なのだろう? ということで、今年で41歳を迎える店主の樋上 正径(ひがみ まさみち)さんに話を聞いてみたぞ!
──最初に聞くことじゃないかもしれませんが、学生時代にプロボクサーになったのですか?
「まぁ一応、スーパーフェザー級のボクサーでした。ぜんぜん弱かったですけどね」
──なんでまたボクサーに?
「プロのスポーツ選手になりたいと昔から思っていました。高校時代は野球部だったんですけど、野球ではプロにはなれないな……と。でもボクシングなら大概の人がプロにはなれるんですよ。日本で2番目にプロ選手が多い競技はボクシングですから」
──へぇ~! これまたラーメン屋に聞く質問ではないですが、 “得意パンチ” は?
「う~ん、左ボディでしょうか? 対戦相手から “樋上の左ボディは強い” って言われることがけっこうありました」
──ひょっとしてラーメン屋となった今、麺上げする時は “左ボディ” スタイルですか?(笑)
「実は元々「右」だったんですけど、去年あたりから「左ボディ」式に麺上げをするようになりました」
──(ボケたつもりなのにマジだったのかよ)“樋上の左” を見せてください!
「こんな感じですかね(シュッ)」
──おお~! ちなみにボクサーは “追い込み(絞り)” が大変だと思いますが、減量明けのご褒美に食べていたのは何ですか?
「まぁ、ラーメンですね(笑)当時は一風堂でバイトしていたので、誘惑と戦うのが大変でしたよ」
・ラーメン屋のバイト → 会社員 → ラーメン屋
やや強引な誘導尋問で話題を「ラーメン」へ戻すことに成功したところで、樋上店主がラーメン屋として歩むことになったきっかけを聞いてみた。
──樋上さんのラーメン屋としての経歴は?
「まず大学に入学した20歳のとき、新横浜ラーメン博物館の『一風堂』にアルバイトとして入りました。そこで3年弱働いて、その後は「麺の坊 砦」でバイトを始めて、結局大学4年間はほぼラーメン屋で働いていました」
──では、樋上さんのラーメンの原体験は『一風堂』?
「そうですね。初めて食べた『一風堂』の味は衝撃的でした。20歳の自分の舌(味覚)に合ったというか。『一風堂』に勤めていた当時の「ラー博」は客の入りもすさまじく、毎日が戦争のようでしたけど、とにかく楽しい経験でした」
──その後、会社員を経て、28歳で再びラーメン業界に戻りますが、それはまたどうして?
「サラリーマンって、社内の自分への評価で給料が決まりますよね? 自分で自分の評価をアピールしたり。そのシステムがどうもしっくりこなくて……。そんなとき、『一風堂』時代の楽しさを思い出したんです。ラーメン屋って、評価も給料もぜんぶ “直(ちょく)” じゃないですか」
──美味しければお客は来るし、美味しくなければ自然と客足は遠のきますね。
「そうです。それが自分の性格に向いているなって。だからラーメン業界に戻って、35歳までの独立をするという目標を立てました」
──ちなみにラーメン屋ではなく、プロボクシングの世界に行こうとは思わなかったのですか?
「自分は『横浜光ジム』に出入りしていたんですが、当時そのジムには畑山隆則、新井田豊という2人の世界チャンピオンがいたんですよ。その2人を目の当たりにした自分は「あ、俺はムリだな」と思って(笑)努力でどうにかなるレベルとは違う、と。でもラーメンなら努力でなんとかなる、とは思いました」
・『中村麺三郎』中村店主との出会い
28歳で会社員を辞め、第2の人生を歩み始めた樋上店主。名店『柳麺 ちゃぶ屋(東京・護国寺 / 後に閉店)』での修行を経て、31歳になると学生時代にアルバイトをしていた『麺の坊 砦」に恩返しするべく社員として働きはじめる。そこで出会ったのが、本企画で『地球の中華そば』を推した張本人『中村麺三郎商店』の中村店主だ。
──『砦』に社員として戻ったとき、中村さんと出会ったそうですね?
「はい、自分がアイツ(中村)の入社面接をしましたね」
──へえ! 中村さんの第一印象は?
「オラついた奴がきたな、と(笑)ガツガツしているというか。でも、やる気だけは誰よりもありましたね。当時、多くの新人が指導や激務についてこれなくて辞めた奴も多かったんですが、最後までついてこれたのは中村だけです。だから可愛いし、自分が教えられることは何でも教えました」
──中村さんは後輩(弟弟子)にあたると思いますが、話を聞くと師弟関係のようですね。
「中村も自分を慕ってくれていましたしね。僕は『ちゃぶ屋』でも修行し、そこで出会った斎藤さん(現『鳴龍(東京・新大塚)』店主)を心の師匠と仰いでいるのですが、斎藤さんから受け継いだものを教えたのは中村1人です」
・店名の由来がイケメン! 『地球の中華そば』
と、なんやかんやあって樋上店長は35歳の時に独立し『地球(ほし)の中華そば』をオープンする。
──失礼を承知で言いますが、『地球(ほし)の中華そば』って初見だと「ずいぶん大風呂敷を広げた店名だなぁ」という印象が……。
「ははは(笑)オープン当初から、なんだったら今でも言われますよ、 “大それた店名だ” って。自分としてはそんなつもりないんですけど」
──どういう意味を込めて、この店名にしたんですか?
「オープンする時期にちょうど結婚したんですけど、妻の旧姓が「星野」なんですよ。ただ、妻は姉妹しかいないので僕と結婚すると「星野姓」が途絶えてしまうと……。
で、僕はなんのこだわりもなかったので相手方のご両親に「いいですよ、僕が婿入りして “星野姓” を継ぎます」って言ったんですけど、色々あってその話はナシになって……。
じゃあ、代わりにその「星野」という名前を自分の店にもらおうと。でも店主の僕の名前が「樋上」なのに店名が「星野」だとややこしい。そんなとき思い出したのが、桑田佳祐とミスチルの……」
──『奇跡の地球(ほし)』!
「はい。地球と書いて「ほし」と読ませていたので、コレだ! と。それで店名を『星野中華そば』……もとい、『地球(ほし)の中華そば』としました』
──す、素敵!
「この店名は自分にとって、良い意味でプレッシャーにもなっています。“せっかく名前をもらったのだから何があっても店をツブしてはいけない、絶対に「星野(地球の)」という名前を残していくんだ” という覚悟・責任を感じて日々、営業しています」
やだ……カッコE……。今回食べた「塩そば」には頼もしいほどまでの力強さと、心に沁みるような優しさを感じたが、なるほど。まさに樋上店主の人柄をそのまま体現したラーメンだったのだな、と妙に納得させられた。カッコE……(2回目)
・【次回予告】『ほしちゅう』が推す店は “ラーオタの終着点”
さて、学生時代からラーメン・フリークだったという樋上店主は、今でもほぼ毎週のように他店のラーメンを食べ歩いているというが……
──『地球の中華そば』樋上さんが “推すラーメン屋” を教えてください!
「自分が推すならもう、ココしかないですね。〇〇〇〇〇〇〇って店なんですけど、色々な店を食べ歩いた結果、“もう、日本のラーメン店はここだけでよくない?” と思ってしまうほどヤバイ店です」
──そ、そんなにですか……?
「ここの店主は職人とかじゃなくて、もはや “仙人” レベルです」
──ラーメン界には「神様」と「鬼」はいますが、「仙人」は初耳……。
「ここは本っ当~~に、ヤバイっすよ。うん……ヤバイ……!」
──ヤバすぎて語彙(ごい)がバグってます。
「もうね、次元が違うんです。自分なんか足元にも及ばない。この店はヤバすぎて、僕は “ラーメンオタクの終着駅” と呼んでるんですよ。ラーメンオタクが色んな店を食べ歩いても、結局最後に行き着くのはココです。ぜひ行ってみてください」
──では行ってきます! でも “終着駅” ってことは……この企画、次回で最終回……?
まだ始まったばかりの連載企画(3回目)をいきなり終わらしにかかってきた樋上店主──だが、それだけ “間違いない店” なのだろう。そのガチ感が非常にありがたい。果たして『地球の中華そば』が推す店とは? 次回をお楽しみに。
・今回ご紹介した飲食店の詳細データ
店名 地球の中華そば
住所 神奈川県横浜市中区長者町2-5-4-101
時間 11:30~15:00 / 18:00~21:00
休日 日・月(※2/16~2/26は仙台の藤崎百貨店へ催事出店)
参考リンク:Twitter @hoshichuu
Report:ショーン
Photo:RocketNews24.