関東の立ち食いそばのつゆは黒い。と言うと、マニアから「関西でも黒いつゆあります! 店によります!!」的な意見があがることがあるが、実際大阪出身の私(中澤)が上京して驚いたことの1つはそばつゆの黒さだ。スタンダードの色がすでに黒い。
まあ、そんな論争はさて置き、私は黒いつゆが好きである。むしろ、そばつゆは黒くあって欲しいとすら思っている。そして、この度また新たな暗黒つゆに出会ったためお伝えしたい。
・埼玉の蕨駅前
その店の名は『吾妻屋』。埼玉県蕨駅の東口出てすぐにある立ち食いそば屋だ。この立ち食いそば屋がなんか良いっぽいという噂を小耳に挟んだのである。
本当に小耳に挟んだ程度なので、何が良いのかは分からないのだが、百聞は一見にしかずということで入店してみた。たのもー!
・店内に漂う懐かしさ
店内は、正しく「立ち食い」だった。近頃、立ち食いと名乗ってはいるが椅子が設置されている店も多い中、カウンターのみのスッキリした内観にはどことなく懐かしさすら感じる。
券売機で「天ぷらそば(税込370円)」の食券を買ってカウンターのおやっさんに渡すと「はい! ありがとうございます!」とシャキッとした声が返ってきた。元気を分けてもらえるような威勢の良い声である。すぐにそばがカウンターに置かれのだが……
黒い!
真っ黒なつゆがそばやかき揚げを染め上げんばかりにひたひたと丼に闇を作っている。その色はまるで芸能界のダークマター・松崎しげるのようではないか。
・胸のときめき
だが、これぞ私が求めるそばである。かき揚げはふわふわタイプで麺は太め。まず、つゆを飲んでみよう。ゴクリ。
醤油味の中に、甘みと少しの酸味を感じる。そして、何よりとてもコク深い味だ。闇の色をしたつゆは、味的にも潜って潜っても底の見えない深淵である。
そんなつゆが染みた麺は、ぼそぼそとした歯ごたえだが、これがまた猛烈に立ち食いそばしてる。なんだこの胸のときめきは?
例えば、昭和の白黒写真を見た時のように胸の奥がうずくのである。自分がその時代を生きたわけでもないのに、なぜか感じる懐かしいような気分。言葉さえ置き忘れそばを食べた。美しい人生よ。限りない喜びよ。この世に必要なのは立ち食いそばだけだとあなたは教えてくれる。
初めて来たはずなのに、なぜか懐かしさを感じるこの店。立ち食いそばファンにとってのエヴァーグリーンなヒットナンバーがここにある。これぞ、立ち食いそばのメモリー。この胸のときめきをあなたに。
・今回紹介した店舗の情報
店名 吾妻屋
住所 埼玉県蕨市塚越1-2-14
営業時間 6:30~翌1:00
定休日 無休
Report:立ち食いそば評論家・中澤星児
Photo:Rocketnews24.
▼松崎しげるさん