おいしいラーメン屋さんは何処(いずこ)に──。インターネットやテレビ、雑誌、あるいは自分の足で食べ歩きをすれば多くの答えにたどり着くことができよう。しかし! もっとも安心かつ信頼できる答えを持っているのは、プロのラーメン屋ではなかろうか?
ということで、おいしいラーメン屋さんをラーメン屋さんにオススメしてもらうという他力本願全開な本企画。初回に訪れるのは、あの言わずと知れた名店『支那そばや 本店』だ。
・『麺匠 八雲』が推す『支那そばや』
きっかけは今年6月、東京・葛飾区『麺匠 八雲』の店主 梅澤 まゆかさんにインタビューしたときのこと。ラーメン好きが高じてラーメン屋を開業した若き女性店主が「リスペクトする店」として挙げたのが『支那そばや』だったのだ。
『支那そばや』は言わずもがな、あの “ラーメンの鬼” と呼ばれた故・佐野実さんが創業した店である。佐野さんと聞くと2000年前後に放送されていた『ガチンコ!』という番組に出演していた姿を思い浮かべる人も多いだろう。ラーメン職人を育成する企画に講師として出演し、その過激な指導ぶりが多くの視聴者に強烈な印象を残した。
当時10代だった筆者は、そのテレビ的演出をいち視聴者として楽しみつつも「たかがラーメンにここまで本気になる大人がいるのか」と衝撃を受けたのを記憶している。それと同時に、学校帰りに軽々しく食べていたラーメンという食べ物への見方を変えるきっかけにもなった。
そんな私のラーメン人生に少なからず影響を与えた『支那そばや』へついぞ行ったことがないことを、『麺匠 八雲』への取材中にはたと気づいたのだ。このまま行かずに死んだらあの世で「なんだ、『支那そばや』へ行かずにコッチ来たのか!?」と “鬼” に怒られるかもしれない。
・『支那そばや』の “本丸” へ
そんなわけで、私は『支那そばや』が本店を構える神奈川県横浜市戸塚区に向かった。
実は、本店を訪問するのは今回が初めてだが、同じ横浜市にあるラーメン複合施設『ラーメン博物館(以下、ラー博)』に入っている『支那そばや』には15年以上前に初訪問している。当時、高校生だった私は看板メニューの『醤油らぁ麺(900円)』を見て、こう思った。
なんだ。ただの「中華そば」じゃんか ──と。
こってり濃厚な「家系とんこつラーメン」を食べて育った横浜市出身の私は、そのあまりにも普通すぎるビジュアルに拍子抜け……いや、憤慨(ふんがい)すらしたのを覚えている。
なにせ、こちとら食べ盛りな高校生で、いわば “食欲の鬼”。少ない小遣いを出して『ラー博』に入場料を払い、さらに金を払って購入したラーメンが “ただの中華そば” だったのだから。
当時の私は、隣に座る友人に「あの佐野実とかいうオッサン、TVで偉そうなこと言ってるけど、こんな普通のラーメン出してるのか」と愚痴をこぼしていたほどだ。
そう言いながらレンゲですくったスープを飲んだ瞬間──
世界がひっくり返ったのだった。
レンゲをにぎる手がぴたっと硬直し、「!?」という表情を浮かべながら隣にいる友人と顔を見合わせると、互いに笑みがこぼれた。(こんなスープ、飲んだことないぞ……!?)友人と目線でそう確かめあうと、あとはしゃべる時間さえも惜しむかのように夢中でラーメンをすすった。おっさん呼ばわりをした佐野実さんに心の中で謝罪したのは言うまでもない。
あれから15年あまり、私も多少なりとも舌が肥え語彙(ごい)も増えたはずなのだが、久しぶりにそのスープを飲んでみると──「なんかわかんないけど、すっごい美味しい……」と、情けなくなるぐらい単純な感想がポンと浮かぶだけだった。
言葉をしぼり出し、しいて言うならば「良く知っている慣れ親しんだ味」。それでいて「全く知らない新しい味」だろうか。ちょっと自分でも何を言っているのかわからないが、それほど掴みどころがないというか、筆舌に尽くしがたい美味しさなのだ。
それと比べると、麺の特徴はずいぶんと言葉にしやすい。歯切れの良いストレート麺はスープが良くからむのに、不思議と麺同士ではからまないのだ。1本1本が舌の上で踊り、喉元を過ぎるまで「麺」としての一生を全(まっと)うしてくれる。すする、という行為そのものに楽しさを覚える麺と言ってもいい。
この麺を差し置いて主役に躍り出ようとするのが、超ロングな穂先メンマである。目の高さまで持ち上げても “しっぽ” が見えてこないほどの長さだ。ちょうど良いあんばいにタレの味がしみていて、ホロホロとやわらかい食感。脇役に甘んじることの多いメンマが、この丼においては威風堂々の存在感を発揮している。
忘れてはならないチャーシューは、バラ肉が2枚。ハシでつまむと崩れ……そうで、崩れない! なんと絶妙なやわらかさだろうか。噛むとじゅわっと旨味があふれ出し、幸せが口の中に広がる。
ようやく訪れることができた『支那そばや 本店』。お弟子さんたちがしっかりと受け継いでいるその味は文句なしだったことは言うまでもないが、いちラーメンファンの筆者にとっては感慨深い一杯ともなった。
・“鬼”を支えた妻にもインタビュー
こんな美味しいラーメンを作った佐野さんは一体どんな人物だったのだろう……と思っていたら、なんと! 佐野さんの奥様で『支那そばや』の代表をつとめる 佐野しおりさんにお話をうかがうことができたゾ!
貴重で興味深いエピソードがてんこ盛りだったので、詳しいインタビュー内容については また追ってお伝えしたい。
・今回ご紹介した飲食店の詳細データ
店名 支那そばや 本店
住所 神奈川県横浜市戸塚区戸塚町4081-1
時間 11:00~20:30
休日 不定休
参考リンク:Twitter @sanominoru(支那そばや【公式】)
Report:ショーン
Photo:RocketNews24.