自分でもどうしてなのかと思う。定食屋のメニューでもホテルのバイキングでもコンビニの商品棚でも、ひとたび視界にから揚げをとらえると、つい飢餓感を覚えてしまう。この世のあらゆるから揚げに興奮してしまう。もしから揚げが法外に高い世界だったら、私はたやすく破滅を迎えていただろう。
そんな重篤な筆者だが、先日見つけたから揚げ専門店のとあるメニューについては、少し異なる感情を抱いている。そのお店ではなんと「からあげ版ひつまぶし」が食べられるらしく、大変心惹かれたものの……一方で気がかりな部分もあった。
・見出した結論
お店の名前は「くにちゃんずキッチン」。ホームページの説明によれば「からあげ版ひつまぶし」は名物メニューとのことであり、正式名は「ぶっかけ丼」という。から揚げ丼に特製スープをかけて食べるものらしい。
しかし筆者はその説明に懸念を抱いた。から揚げと言えば、衣のサクサク感も醍醐味のはずだ。スープをかけてしまったら、サクサク感が消えてしまうのではないか。みぞれあんかけとか、そういうレベルでは済まないだろう。胸が締めつけられるようだ。
とはいえ、この感情が杞憂でしかない可能性は大いにある。何よりホームページに載っている「ぶっかけ丼」のビジュアルがたいそう美味しそうで深く心を打たれたため、気が付けば現地にすたこらと足を運んでしまっていた。
東京・茅場町駅から歩くこと3分ほどでお店に到着。「一生懸命営業中」と書かれた札がなんだかまぶしい。
店先の看板にも和やかなイラストとともに「命続く限り…」と記されている。覚悟が重い。
それだけ気持ちが込められているということだろう。期待が持てる。入店してみると、「ぶっかけ丼(740円)」以外にも「タレ丼(740円)」や「鳥ハム丼(740円)」に加え……
各種味付けが選べる「から揚げ定食」などが用意されていたが、今回はもちろん「ぶっかけ丼」をチョイス。
それほど待たないうちに、から揚げ丼とスープがセットでやってきた。目の前の実物からは「昔からツルんでた」感が醸し出されているが、かなり新鮮な組み合わせに感じられる。
ともあれ、丼に盛られた岩山のようなゴツゴツとしたから揚げ群には興奮を抑えきれない。周囲にから揚げイオンが充満しているのがわかる。
店内の説明書きによれば、まずはスープをかけずに味わうとよいらしい。というわけで、から揚げ群のうちの1つにかぶりつく。
美味しい。大ぶりの肉を覆う揚げたての衣は歯触りが良く、絶妙にサクサクしている。しっかりと下味がついていながら押しつけがましくなく、肉汁あふれるジューシーさに違和感なく舌が呑み込まれる。1口でわかる食べ応えが心地良い。完璧と言うほかない。
皮肉などではなく、純粋に優等生的なから揚げだ。どこに出しても恥ずかしくないから揚げを出されたという感じだ。
このままでも十分完成されているように思えるが、しかしここまで来てぶっかけずじまいというのはナンセンスだろう。
躊躇(ちゅうちょ)を捨ててスープをかけ、汁に浸ったから揚げをすくい上げて食べてみる。そして筆者は、新たな2つの知見に出会うこととなった。
1つは、サクサクのから揚げを大胆に湿らせると意外と背徳感があるということだ。これはだいぶどうでもいいことなのでさておき、もう1つは……
から揚げ、何しても美味しい。
サクサク感が薄れたことは否定できない。だが出汁を吸ってトロトロにほぐれたから揚げも驚くほど美味しい。通常のそれと遜色ない。丼全体がやや甘みのある優しいテイストに変わり、さらにから揚げの旨味がスープにしみ出て、食べるほどに味わい深くなる。
しっとりと濡れきったから揚げをまじまじと眺める。柔らかであってもこれほど魅力的とは。サクサク感の代わりに、新たな良さが突出しだしている。
スープと一緒についてきたわさびを投入してみても、から揚げのタレの風味に爽やかさが混じって美味しい。本当に何をしても美味しい。身も蓋もないことを言っている気もするが、ある意味で究極の結論にたどりついてしまったのかもしれない。
・深まる愛情
「からあげ版ひつまぶし」……これはもっと広まってほしい料理だ。広まるべきだ。食べ終わったあとは身体の芯から温まれるし、これからの寒い季節にもふさわしい。少しでも興味の湧いた方は、すぐさま味わいに行ってみることをお勧めする。
新たなから揚げの側面を教えていただいたおかげで、これまで以上にから揚げへの愛情が深まったと思う。何をしても美味しいとはいえ、まだ知らないから揚げの形を、情熱をもって探り、発見していきたい所存だ。むろん、命続く限り。
・今回紹介した店舗の情報
店名 くにちゃんずキッチン
住所 東京都中央区新川2-1-1
営業時間 11:00~22:00
定休日 日曜・祝日
Report:西本大紀
Photo:Rocketnews24.
▼「から揚げ版ひつまぶし」こと「ぶっかけ丼」
▼この岩肌がたまらない
▼スープをぶっかけても美味しい。から揚げは何しても美味しい
▼から揚げの量が抑えめなレディース丼もあるので、女性の方もぜひ
西本大紀














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