日本を飛び立つ前は不安になる。寝坊しないか、日付は合っているか、空港行きの電車が遅延しないか……。保安検査場の手前に飲食店が集中していると知ってはいても、早く安心したい気持ちが強すぎて足早にゲートを通過する。何度経験を重ねてもこの緊張感はなくならない。

そんな感じでいざ搭乗口に到着した時は、結局時間を持て余しているパターンが多いのだ。さて最後に何か食べようと思うが、場所が場所だけに正直「おいしさ」は度外視というイメージを持つ人も多いはず……しかし最近はそうでもなくなってきているらしい。


私が成田空港から海外へ旅立つときの“最後メシ”は、搭乗ロビーに昨年オープンした『すし京辰』。店先に掲げられた「おまかせ握り8500円」のガチすぎる価格設定にたじろぐ搭乗客もいるだろう。私が注文するのは一番安い1800円のセット。それでもなかなかいい値段だが……まぁ聞いてくれ。

・時間がなくても大丈夫!

のれんをくぐると板前さんがカウンターに迎え入れてくれる。「ここは銀座の並木通りです」と言われれば200%信じる高級感だ。店のコンセプトは「本物の味をお気軽に安く」とのこと。安さの基準はそれぞれだが、この雰囲気なら少なくとも高くはないように思えてくるぞ。

目の前で握った寿司をカウンター越しに皿へ並べてくれる。自分がまるでリッチなビジネスウーマンになった気分だ。

ちなみに私がここを初めて訪れたとき、搭乗開始時間まで残り20分と迫っているタイミングだった。それでも出発前にどうしても寿司を食べたかった私は、入店するや失礼にも「10分で出してもらえるか」と尋ねたのだ。すると板前さんは3秒ほど黙ったのち静かにこう言った。


「……やりましょう!」


かくして『にぎり 浜』セットは目標タイムを大きく上回る5分で、全ての寿司が皿に出揃った。昔かたぎの職人になら「寿司は慌てて食うもんじゃねぇ」と怒られそうな申し出にも、スピーディーに対応してくれるあたりはさすが空港の寿司屋である。

急ピッチで軍艦を巻きながらも「ワサビ、大丈夫ですか……」「お味、ついてます……」と語りかける気遣いは忘れない。寿司の並ぶ向きに至るまで、そこには歴然たる “プロの仕事” が存在しているのだった。おまけに板前さん、外国人客には英語で接客する多才ぶりである。


・寿司欲を満たして旅立とう

旅先の外国で「和食を食べたい病」におかされることは避けられない。しかし出発前に強力な和を食しておくことで、発症を遅らせることができると個人的には確信している。


『にぎり 浜』セットに話を戻そう。こちらは、その日のおすすめで構成されている。お店を訪れた日は、王道のマグロ、エビ、イカに加えて、旬のブリやイクラなど計9種類のネタが乗っていた。最近は回転寿司もがんばっているが、比べてしまうとやはり『京辰』の寿司は酷なほどウマい。「素材の暴力」というやつだね。

寿司の他に刺身や日本酒も充実しているため、本気で注文していると1万円は軽く超えてくる。最後に手持ちの日本円を全放出するのもいいが、1800円のセットでも十分に寿司欲を満たす実力を備えているぞ。ちなみにこれを書いている現在、出国から5日が経過した私の口内にはまだ醤油の味が残っている。

ここは出国ゲートの向こう。日本であって日本でない。出発チケットを持つ者しか入れぬ亜空間。文字通り「最後の最後」に本格寿司を食すことで和への未練を断ち切れば、異国のグルメを存分に楽しんでこれるというものではないだろうか。

・今回ご紹介したお店の詳細データ

店名 すし京辰 成田空港第1ターミナル制限区域内店
住所 千葉県成田市三里塚1−1 第1ターミナル 第3サテライト
時間 08:30~20:00 (L.O.20:30)

Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.

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