もったいぶると「釣り記事を書きやがって」とか言われかねないので、結論を先にお伝えする。私が自信を持って「日本一うまい牛丼が食える」と断言するのは『成田国際空港第2本館店』だ。ただしこれは、何も特殊なメニューを提供する吉野家という意味ではない。

『成田国際空港第2本館店』は、ある特定の人にとって「日本一うまい吉野家」へと変化するタイプの吉野家。一定の条件を満たしさえすれば、誰だって最短で1ヶ月後には日本一うまい牛丼を体験することができるんだぞ。どういうことかご説明しよう。

・24時間営業のありがたみ

吉野家・成田国際空港第2本館店は第2ターミナルの到着ゲートを出てすぐの場所にある。察しの良い方ならお気づきのことだろう。

そう、吉野家 成田国際空港第2本館店は “長期の海外旅行直後” に食べることで「日本一うまい吉野家」へと昇華する吉野家なのだ。「その状況なら何を食べてもうまいだろ」とツッコミを入れた方、失礼ながらマジで素人!

多くの帰国者にとって、ここは “帰国後もっとも早く日本食が食べられる店” だ。特に深夜到着便の場合、吉野家以外の選択肢はほぼ無いと言っていい。

否……他の選択肢があるかどうかは問題ではないのだ。長い海外旅行を経て成田空港へ着いたとき、多くの日本人は「吉野家以外見えない」という状態に陥るもの。この場合、帰国者にとっては寿司より焼肉より、吉野家がごちそうなのである。

なお個人的な経験に基づく “日本一うまい吉野家” を味わえる基準は以下の2点。


①日本へ帰国するのが1カ月以上ぶりであること
②ただしアメリカ、中国、韓国、台湾、タイ、シンガポール、ベトナムは除く


①に関しては、たかだか1週間や2週間日本食を食べなかったくらいで “真の日本食ロス” 状態には陥らないはずだから。②の国々にはおいしい日本食を安価で食べられる店が数多く存在する、または日本食に近い味付けの食べ物が普通に食べられる……というのが理由だ。

ただしインドやアフリカといった、極端に食の振り幅が狭い地域へ渡航する場合はその限りじゃないぞ。だいたい3週間も旅すれば立派な “真の日本食ロス” 状態を体感できるだろう。

今回2カ月半の海外放浪を終えた私は、第2ターミナル到着ゲートからエスカレーターで1つ上階へ。約15時間のフライトで疲れ果てていたが、吉野家を食べずして空港を去れようはずもない。

ちなみに吉野家の手前には、周辺で唯一の喫煙所がある。

長旅後の最初の一服って、足の先まで染み渡る感じがするよね〜。これまで何人の旅人がこの場所で安堵のため息をついたのだろうか。


・日本一幸せな吉野家

吉野家 成田国際空港第2本館店で注文するメニューは何でもいい。「久々だからこそシンプルな牛丼を噛みしめるべき」と思う人はそうすればいいし、そうでなければ別に鰻重とかでもいいと思う。

今回は夏季限定の『牛皿麦とろ御膳』をチョイス。一般的な価格は税込712円だが、この店舗では756円だ。やや割増だから何だというのか? こちとら海外でまずいSUSHIに何千円も支払ってきた身の上。2倍払っても安すぎるくらいである。

「冷えた水がタダで出てきた」といちいち感動。

そしてわずか3分後、世界で一番うまそうな膳が運ばれてきた。くどいようだがコレが756円(税込)ってマジか? 日本の物価が心配になってくるが、それは後で考えよう。

醤油をたらしたトロロをサッとまぜる。ちなみにトロロを食べるのは世界で日本だけらしい。

……と言いつつ、一口目はシンプルな牛丼スタイルで。死ぬほど恋焦がれた瞬間であるにも関わらず、なかなか口へ運ぶことができない。なぜならこれを食べたとき、私の旅が “本当の意味での終わり” を迎えることを知っているからだ。

これを食べれば、私が今感じている「死ぬほど日本食を食べたい気持ち」は嘘のように消える。嬉しいような、まだ旅の余韻に浸っていたいような……邪念を打ち消すようにエイッ! と口へ運ぶと……


うまいっ!!!!!!!


「日本人に生まれてよかった」と、これほど強く感じる瞬間も他にあるまい。


不思議なもので2口目からは急速に「普通に吉野家を食っている人」へと化していく。こうなったらもう混ぜるなり味噌汁をすするなり、好きに吉野家を楽しめばよい。

最後の一口を食べ終えるころ、私の胃袋はすでに「フランスへ行ってバゲットを食べたい」という気持ちになっているんだから現金なものだ。……おや? ふと隣席の会話に耳を傾けると、大きなキャリーバッグを抱えた男性客が大量のトッピングを注文しているぞ。


男性客「牛皿定食とカレー。ご飯大盛りで、味噌汁は豚汁に変更してもらえます? あとサラダと納豆と卵、それからビールに、鯖のみそ煮を単品で……あっ、すみません。いっぱい注文しちゃって、なんか恥ずかしいなぁ〜(笑)」


分かる……分かるぞ!!! 何もかもおいしそうに思えるし、久々に日本語で喋れるのが嬉しいんだよね! 幸せに満ち溢れた光景が各所で見られる吉野家・成田国際空港第2本館店。長旅の後はぜひ「日本一うまくて幸せ牛丼」を味わってみてほしい!

執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.