2018年3月の終わりに、あるニュースが世界中に衝撃を与えた。そのニュースとは、最後のオスのキタシロサイ「スーダン」の死。その結果、地球上のキタシロサイはスーダンの娘と孫娘の2頭のみとなってしまう。
どちらもメスということで自然繁殖は不可能。体外受精は過去に例がなく、もはや絶滅は時間の問題か……そう思われていた。しかし、ここにきて彼らの絶滅を回避できるかもしれない朗報がもたらされた。スーダンの死から今日までの1年半で研究が進み、人工授精に成功したってよ!
・まずは卵子ゲット
海外メディアScience Alartが報じたところによると、人工授精に成功したのは最後のキタシロサイが住むケニアのオルペジェタ自然保護区にて活動していた国際的な研究チーム。8月23日金曜日の時点で、生存している最後の2頭のメスから10個の卵子を採取。
卵子の採取時には麻酔が用いられるが、それでもサイへの負担は避けられないもの。最後の貴重な2頭なため容態が案じられるが、スーダンの娘と孫娘は順調に快方に向かっているとのこと。サイの場合は、人間よりもはるかに卵子をゲットするのが大変なのだ。
・イタリアで人工授精
そして、これまた人間と違い、冒頭で述べたとおりキタシロサイの人工授精に成功例は皆無。それでもやらなければ絶滅待ったなし。ということで、採取した卵子をケニアからイタリアの研究施設まで護送。そこで顕微授精という、ざっくり言うと卵子に直接精子をブチ込む手法を実行。
後はどうなるか祈るのみという状態で見守っていたところ……10個のうち、7個が受精卵になったそうだ。ちなみに使った精子は、冷凍保存しておいた既に亡きキタシロサイのオスのものだとか。
やったじゃん! と思うが……実はまだ安心できない。7つ受精したとはいえ、ちゃんと胚になるまで育つかは、やってみないとわからないのだ。人工授精も含めてそこから先は、全て前例が無い手探り状態である。
・待ち受けるハードル
全てが順調にはこび、受精卵が胚になったとしても、もう一つ大きなハードルが待ち受けている。それは、母親の子宮への胚の移植。卵子の提供元である2頭のキタシロサイは、健康上の理由で妊娠・出産にはリスクが大きすぎるのだそう。
そこで予定されているのが、近縁のミナミシロサイのメスを代理母として出産までこぎつける作戦。ここまでの全ての工程同様に、この移植手術も史上初の試みだ。もちろん世界中のエキスパートたちによって練られたプランの元に実行されるわけだが、リスクが大きいことに変わりは無い。
そもそもキタシロサイが絶滅寸前なのは、人間による乱獲の結果である。ツノが漢方薬やら装飾品やらになるからという、象牙と似た様なパターンのヤツだ。日本人的にはあまりなじみの無いキタシロサイだが、同じ地球上の生物同士として、彼らが絶滅を回避できるよう願うばかりである。
参照元:Science Alart、Instagram @olpejeta
執筆:江川資具
Photo:WikimediaCommons.
▼最後の2頭から卵子を摘出するようす(英語)
▼冷凍していた精子で受精させたりするようす