ただシンプルに想像してみて欲しい。もし、憧れの人に怒られることが確定していたら、あなたはどんな気分だろう? しかも憧れの人とは初対面で、何なら30年以上も尊敬し続けた雲の上の存在だとしたら──。きっと、ほとんどの人が憂鬱になると思うが、私、P.K.サンジュンは……普通に吐いた

というのも、つい先日私は「ユニクロ・将太の寿司TシャツがUT史上最悪のダサさ」という記事を執筆した。仲介者によると、その記事をご覧になっていただいた憧れの存在、漫画家の寺沢大介先生から「ロケットニュースって失礼だな」(原文のまま)というメッセージが届いたというのだ。そんなもん吐く、吐くに決まってる──。

・奇跡のTシャツ

まずはユニクロの「将太の寿司Tシャツ」についておさらいしておきたい。2019年8月「週刊少年マガジン60周年UT」の一角として発売されたこのTシャツ。「GTO」や「金田一少年の事件簿」など、週刊少年マガジンを彩った数多の名作を抑え選抜された、まさに奇跡のTシャツである。

だがしかし、それは奇跡の序章に過ぎなかった。なぜなら2種類が発売された「将太の寿司Tシャツ」はどちらも絶望的なダサさで、我々が待ち望んだ「将太の寿司Tシャツ」とは程遠い、単なる「寿司Tシャツ」だったためだ。ハッキリ言ってダサすぎる。

・怒っているらしい……

私はそのこと包み隠さずに書いた。「将太の寿司」及び「ミスター味っ子」は、私の人生に影響を与えてくれた漫画TOP10に入る名作で、もちろん作者の寺沢先生は尊敬の対象でしかない。しかも記事を執筆する前から「寺沢先生にTシャツについて話を伺える」と決まっていたので、私なりの流儀で逆に思い切り書いた。ただ、その結果……冒頭の、


「ロケットニュースって失礼だな」


……である。不健康でもなく、酒も飲んでいないのに……静かに吐いた。だって、憧れの人に怒られるなんて誰だってイヤでしょう? もし「魁!! 男塾」の宮下あきら先生や、「キングダム」の原泰久先生に怒られることが確定していたら、やはり私は静かに吐くであろう。

・いよいよ対面

さて──。憧れの先生にお会いできる嬉しい気持ちと、死ぬほど憂鬱な気持ちが交じり合い迎えたインタビュー当日。足をガクガク震わせながら、私は先生が待つ都内のサイゼリヤに足を運んだ。大御所であるにも関わらず、私に合わせてサイゼリヤを指定してくれたのであろう。先生の目の前に立った瞬間、私は顔も見ずに頭を深々と下げ、矢継ぎ早に謝り倒した。


「はじめまして、ロケットニュース24のパクと申します! このたびはお話を伺えるとのことで誠にありがとうございます!! そして先日の記事では大変失礼しました! ただ、ミスター味っ子と将太の寿司を愛する気持ちに偽りはなく、寺沢先生にお目にかかれるなんて夢のようです!

できればこのような形でお会いしたくなかったのですが、先日の記事については30年分の味っ子愛と将太愛が暴走したとお考えいただければ幸いでございます!! とにもかくにも、大変失礼いたしましたッ!」


すると、寺沢先生はにこやかな表情で、以下のように応えてくれた。


「いやいや。こちらこそありがとうございます。なんかあの記事のおかげでTシャツも売れているみたいで」


神かよ──。


というか、神だった。少年漫画に料理というジャンルを根付かせた神というだけではなく、シンプルに神。吐き気もすっかり収まったところで、いよいよ寺沢先生に「将太の寿司TシャツにGOサインを出した理由」を伺ってみることにした。


──先生、そもそも今回のUT化はどのように始まったのですか?

「いや、始まるも何も “将太の寿司がユニクロのTシャツになります” って連絡があっただけですよ」

──おお、そうなんですね。先生が許可するとかしないではないんですか?

「ないですね。あとはデザインを見ただけです。私の方から “こうして欲しい” というリクエストはしなかったですね」

──なるほど。

「そもそも、ミスター味っ子のアニメ化にしろ、将太の寿司のドラマ化にしろ、こちらから何かを要望したことなんてないんですよ。例えば、俳優さんは誰がいい、なんてことは言ったことがないですね」

──そうなんですか。僕はもっと原作者の意見が反映されるものだと思っていました。

「なので今回も、出来上がったTシャツを2種類見せられて “これで行きます”って報告されただけですよ」

──ちょっと待ってください。デザインは2種類しかなかったんですか?

「そうですよ。確認した時点では、もう宣伝用の動画も完成してたんじゃないかな?」

──えええええええ!

「まあ、実際はあのデザインを見たとき私も “コレ?” って思いましたよ(笑)」

──それでも「ちょっと待った」はしなかったんですね。

「デザインはその道のプロの方がされているワケだし、特にユニクロはグローバル展開している企業じゃないですか。将太のTシャツも世界中で販売するなら、キャラクターより寿司そのものを前面に出した方がいいと判断したんじゃないでしょうかね」

──なんと……! 物分かりがイイというか、心が広いというか……!! 感動しました。

「いや、書いていただいた記事もそうですけど、20年も前の作品をまたこうしてみなさんに喜んでいただけることは、本当に嬉しい限りです」

一言でまとめるならば、寺沢先生が「将太の寿司Tシャツ」にGOサインを出した理由は「寺沢先生が神だったから」それに尽きる。実は、将太の寿司やミスター味っ子に関する面白い話をたくさん聞かせてくれたのだが、それは別の機会に改めてご紹介しよう。とにかく、感動した。

というわけで、ユニクロ史上最高にダサいTシャツが誕生した裏には「神がいた」という事実をぜひ覚えておいて欲しい。そして初めてでも久しぶりでも「将太の寿司」を読みたい人は、ぜひこちらのサイトをチェックしてみてくれよな!

参考リンク:マンガBANG!「将太の寿司」
Report:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.

▼先生にはTシャツにサインもしていただいた。

▼完成したのがコレ! 家宝にします。

▼寺沢先生に伺った数々の面白エピソードは、また別の機会にお届けするぞ!