日本を代表する霊峰・比叡山。その山中に「メチャメチャ傾いている駅」があるのを、皆さんはご存知だろうか? 今回ご紹介する秘境駅は、比叡山の登頂ルートに突如として現れる「もたて山駅」だ。

大自然の中を行くケーブルカーでの旅に、ちょっぴり怖さすら感じる急傾斜のホーム。そして世界遺産・延暦寺では思わぬ洗礼を浴びることに? 笑いあり涙ありの秘境駅巡り、それでは今回も出発進行!

・歴史あるケーブルカーに乗って

京都府と滋賀県の県境に位置する比叡山。山上には仏教の一大聖地・延暦寺があり、多くの参拝客で賑わっている。

その比叡山の東側の登頂ルートとして知られているのが、1927(昭和2)年より運行している坂本ケーブルである。山麓側の「ケーブル坂本駅」と山頂側の「ケーブル延暦寺駅」が両ターミナル駅となっており、ほとんどの人はこの2駅で乗降する。

今回の旅は、あえて利用者がほとんどいない中間駅「もたて山駅」で下車。そこから徒歩で延暦寺を目指すというものだ。

・下車には事前申告が必要!

利用者が少ない駅ということもあり、ケーブルカーは通常「もたて山駅」には止まらず通過してしまう。そのため当駅で下車する場合は、あらかじめ乗車前に係員さんにその旨を伝えておく必要がある(もうひとつの中間駅「ほうらい丘駅」も同様)。

ちなみにケーブルカーに中間駅が設けられていること自体、けっこう珍しいことでもある。1本のケーブルを巻き取ることで上り・下り双方向の車両を動かしているため、一方の車両が停車するともう一方も停車しなくてはいけなくなるからだ。

切符を買って、ケーブルカーに乗り込む。まるでジェットコースターのような急斜面をゴトゴト登っていく。途中の展望が開ける箇所では琵琶湖を望むこともでき、車窓からの眺めも抜群だ。

しかし、こんな急傾斜の途中に駅があるといっても一体どんな構造になっているのだろうか。ちょっと想像がつかないが……。お、そんなこと言ってるうちに到着したみたいですよ。

降りてみると……

おおお!! 情け容赦のない傾斜っぷり!

滑り止めに横板が打ち付けられているものの、それも気休め程度。油断すると転んでしまいそうな急傾斜だ。山を登るケーブルカーの中間駅だから当然といえば当然なのだが、これほど傾いている駅は見たことがない。秘境駅ハンターの血が騒ぐぜ。

ホームには簡単な待合所が設置されている。こちらは角度が調節されており、傾いていないのでご安心あれ。

・森の出会いと鐘の音

ここから延暦寺を目指して歩いていくわけだが、秘境ムード満点の当駅を少し楽しんでからにしよう。

周辺には当然何もなく、ただ森が広がるのみ。ケーブルカーの滑車がキュルキュルと回転する様を眺めたり、鳥のさえずりに耳を澄ませながら時間を過ごす。そして延暦寺の方角からは鐘の音が時折聞こえてくる。この鐘の音が結構いいのだ。

当駅を利用する人は少ないと書いたが、この日は筆者と同じタイミングで下車した方が1人いた。筆者が学生時代に住んでいた西宮から来たとのことで、しばし世間話に興じることに。一人旅には、こうした素敵な出会いが時としてあるものだ。

・参拝前にプチハイキングはいかが?

もたて山駅から10分ほど歩くと終点のケーブル延暦寺駅、そこからさらに5分ほど歩くと延暦寺へと到着する。

もたて山駅から延暦寺駅までの区間は、自然豊かな山道だ。参拝前に少しハイキング気分を楽しみたい人は、一駅手前で下車して歩いてみるのもいいだろう。ただし足場の悪い箇所も多いので、体力に自信のない人はケーブルカーで山頂まで行ってしまう方が無難かもしれない。

ケーブル延暦寺駅へと到着した。あと少し歩けば目的地の延暦寺である。缶ジュースを飲んで小休憩し、再出発。この時点では、まだ楽しかった!

・YOUは何しに延暦寺へ?

ちなみに筆者は30年関西に住んでいるが、実は延暦寺に来るのは初めてである。ちょっぴりウキウキしながら歩き始めたのだが……。

先ほどまで快晴だったのに、筆者が参道に足を踏み入れたとたん急に大雨が。ずぶ濡れになってしまった。俺、仏さまの怒りに触れるようなこと何かした? まあ後ろめたいことが日頃ないわけではないが……。

気を取り直して境内へ。世界遺産・延暦寺の境内には貴重な建物がたくさんある。なかでも国宝に指定されている根本中堂は、ぜひとも見ておきたいところだ。

これが根本中堂かあ。……って、え?

た……体育……館……ですか?

なんと現在「平成の大改修」なるものが行われているらしく、建物の外観は工事用の仮囲いにスッポリ覆われてしまっていた(内部は見学可)。人生で初めて訪れた延暦寺でメインの建物が工事中とは……このあたりが筆者の「持ってない男」たる所以である。

今度こそ気を取り直して、宿坊の延暦寺会館へ。こちらの1階にある喫茶スペースでは「梵(ぼん)字ラテ」なるメニューがいただける。自分の十二支にちなんだ梵字をラテアートにしてくれるというものだ。これはぜひ飲みたいと思ったのだが……。

こちらのメニューは終了しました、と無情の宣告が。

どうやら16時までの時間限定メニューらしく、時計を見ると16時10分。球際に弱いというか何というか……。結局、何の変哲もないアイスコーヒーで喉を潤した。

ツイてないことの連発で、人生初の延暦寺はイマイチ何をしにきたのか分からない感じになってしまった。おまけに雨にも降られて……もう帰るもんね!

・ここから乗りま~す!

せっかくなので、もたて山駅から帰りの便も乗車することにしよう。利用者のいない限りケーブルカーが当駅を通過してしまうことは、前述のとおりだ。では乗車するときはどうするのか。それもユニークな方法があるので、最後にご紹介しよう。

駅のホームに備え付けられているインターホンを押して山頂の延暦寺駅へと連絡する。駅員さんが出てくれるので、もたて山駅から乗車したい旨を伝えよう。そうするとケーブルカーが停まってくれるぞ。


ケーブルカーに揺られての比叡山の旅、いかがだったろうか。山の上は平地と比べてかなり涼しかったので、暑い時期のお出かけ先としてもオススメだぞ。ではまた次回の秘境駅巡りでお会いしましょう。

参照元:坂本ケーブル
Report:グレート室町
Photo:RocketNews24.

▼森の中を行くケーブルカー。車窓からの眺めも楽しい

▼急斜面に沿う板張りのホーム。ちょっと怖いかも?

▼もたて山駅から延暦寺と逆方面に歩くと、平安時代の歌人・紀貫之の墳墓もある

▼坂本駅の窓口で「HP見ました」と告げると、特製カードをもらえる。詳しくはHPをチェックしてね

▼延暦寺は見所いっぱい。次は梵字ラテ飲むんだ……