大手回転寿司チェーンの中でも、根強い古株としての地位を築き上げている「かっぱ寿司」。私(西本)にとっては「回転寿司と言えばこのお店」というイメージが強い。だがしかし、驚くべきことに、そんなことを言っておきながら私はかっぱ寿司に行ったことがない

かっぱ寿司はおろか、もはや回転寿司自体にも約20年は行っていない。そんなカラッカラに乾いた化石状態から脱するべく、今回かっぱ寿司に初挑戦することにした。しかも、「日本でトップレベルにかっぱ寿司に詳しい超強力な助っ人」の力をお借りして、である。

・離れてしまった距離

超強力な助っ人にご登場いただく前に、もう少しだけ私自身の寿司事情についてお話させてほしい。

寿司を食べる時はもっぱら持ち帰り寿司か宅配寿司で、お店で寿司を食べる概念が欠落している私。明確に理由があるわけではなく、何となく、知らぬ間に回転寿司との距離が離れてしまったのだ。このままの関係で終わってしまうのは嫌だと思い、今回急接近を試みる次第である。

しかし20年の空白は大きい。回転寿司に関しては古(いにしえ)の知識しか持ち合わせていないうえに、20年前に訪れたのもあまり有名ではないお店で、大手チェーンは未経験。しかもビビりな性格だし、初めての場所では途方に暮れやすい。

こんな適応能力ゼロの寿司原人が単騎突入しようとしたところで、自動ドアの前でうつむき加減のまま立ち尽くすのがオチだ。そこで助っ人をお呼びしようというわけである。


・時の流れ

さて、初挑戦を果たすべくやってきたのは、かっぱ寿司板橋店だ。

外観から伝わる広さにすでに少し緊張しつつ、お店の前で「ある方」との待ち合わせをする。ほどなくして、1人の男性が颯爽と現れた。

その男性こそが、寿司原人を導いてもらうためにご足労いただいた助っ人。かっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイト株式会社、そのマーケティング部の部長である牛尾さんだ。

肩書きからしてかっぱ寿司を知り尽くしていることは疑いようもなく、ガイドしてもらえれば大助かりに違いないのだが……この方がガチですごい人物であることを、この時の私はまだ知らなかった。

初めての顔合わせなので挨拶を交わしてから、牛尾さんに座席に案内していただく。しかし、後をついていく私の足はものの数歩で止まった。


あの……ここって本当にお寿司屋さんなんですか……?


店内は外観の印象よりもずっと広く、動揺のあまり丁寧に驚いてしまう。

白色と木目を基調とした空間に、横列の座席が整然と複数並んでいる。一瞬どこかのシンポジウム会場に来てしまったかと思った。

というか……どこにも回転要素がない。寿司はクルクルと回っておらず、あるのは上下2段の直線状のレーンのみ。何だこれは。何が起きているんだ。

20年という時の流れの中で、「円」が「線」になってしまったというのか。「点が線になる」は聞いたことがあるが、こんなことってあるのか。一体なぜ……?

横列のカウンター席を通り過ぎ、テーブル席に案内してくれた牛尾さんが、うろたえる私に事情を教えてくれた。この店舗では、注文を行うと商品の乗った皿が直線レーンの上を走る形で運ばれてくるらしい。

そもそも昨今の回転寿司ユーザーが寿司を食べる方法は、「注文して食べる」のが8割、「回転レーン上のものを取る」のが2割なのだそうだ。この「回らない回転寿司」形式はそうしたニーズや、「なるべく新鮮で作り立てのものを」という時流に合わせた結果だという。

現在「回らない」形式の店舗数は42。それ以外の全国の「回る」店舗も、「回らない」形式に鋭意リニューアル中とのこと。今の回転寿司って、そんなことになっているのか……!


・いざ実食

前提知識を授かったところで、いよいよかっぱ寿司のメニューを注文してみる。

注文はタッチパネルで行うと告げられ、またしても驚く。20年前ではありえない技術だ。「これがIT革命か」と周回遅れの感慨を抱きつつ、牛尾さんにメニューの構成を教えてもらいながら画面を操作する。

にぎり寿司や軍艦、巻物、サイドメニューにデザート……品目が多い……! まるでファミレスのようなバリエーションだ。

それらに加え、6月5日から実施されている期間限定メニューとして、プレミアム感のある三陸生サーモンや……

おまけに「寿司屋が本気で考えた肉ネタ三貫」なんてのもある。「牛Kingの肉三昧」と「豚Queenの肉三昧」の2種類のセットがあり、それぞれ牛肉、豚肉を使った珠玉の品が楽しめるようだ。

店内POPには、「回転寿司なのに、肉大好き牛King」の文言とともに、人物のイラストが添えられている。この方が牛Kingなのだろうか。

いやはや、肉の寿司まであるとは。大手チェーンならではの豊富さに圧倒され、どのメニューを選ぼうか悩んでしまう。そんな折、牛尾さんが何気なく衝撃的な事実を漏らした。


「これ、私なんですよ」


そう言って牛尾さんが指し示したのは牛Kingのイラストだった。え? は? ちょっ……ちょっと待ってください。


牛Kingが牛尾さんだって……?



うわっ!! よく見たらこれ牛尾さんじゃないですか!!!!


なんと「牛Kingの肉三昧」というメニューを考案されたのは牛尾さんなのだとか。さすがはマーケティング部の部長……そのうえイラストとなって広告に登場しているなんて。ちょっとした「かっぱ寿司の顔」ではないか。

「牛尾だから牛Kingなんて勝手に名乗っちゃってますけど」と気さくに語る牛尾さん。信頼と実績がなければ、公式2次元キャラになどなれないはずだ。改めてすごい方に来ていただいたのだなと実感する。

肉寿司は後の楽しみに取っておくとして、ひとまずまぐろやサーモン(各税抜100円)などの王道メニューを注文。

あとは寿司が来るのを待つだけだが……先ほど「直線レーンの上を走ってくる」とは聞いたものの、いまいち信じられない。回転寿司はクルクル回るものという固定観念がまだ捨てきれずにいる。本当にこんなやり方で寿司が……


あっ! マジで来た!!



しかも新幹線の模型に寿司が乗ってる!! ヤバッ!!!!!!



すごい勢いでこっち来る!! うわあああああああああ!!



ああああああああああぁぁぁぁぁ……



SUSHI STATION……!!


寿司を乗せた新幹線が高速で到来するさまは、「SUSHI STATION」としか言いようがなかった。何だよこれ、メチャクチャ楽しい……!! 自分の頼んだ品に走ってこられると、これほど高ぶるものなのか。こんなの子どもには大ウケでは?

大の大人である私でさえ、年甲斐もなくキャッキャしてしまったのだ。属性が原人なのでなおさらである。目にするものも耳にするものも、全てが新鮮だった。

果たして「口にするもの」はどうだろうか。さっそく届いた寿司をいただいてみる。

人が初めてかっぱ寿司を食べる瞬間」を牛尾さんに見守ってもらいながら、まぐろのにぎり寿司をほおばる。


ンフッ、美味しい……!


高ぶりのせいで薄気味悪い笑みがこぼれてしまったが、とにかく美味しい。風味と食感から新鮮さが伝わってくる

間違いなく、新幹線が寿司を運んでくる「特急レーン」システムのおかげだ。注文から到着までは数十秒程度だった。店舗の混み具合によって到着時間は変わるだろうが、画期的であることは確かである。

お次はサーモン。こちらも活きが良くて美味しい。あぁ……これがかっぱ寿司の味……! 私は今、あのかっぱ寿司を食べている……! 


・失われた時間を取り戻すように

タッチパネルのボタンを押すと、新幹線は帰っていった。興奮のままに次の注文に移る。始めはメニューの豊富さに圧倒されていたが、徐々に慣れてくるとワクワクしかしない。

「握られた寿司がすぐに出てくる」という寿司屋本来の形に限りなく近く、それでいて気軽に注文できる雰囲気が心地良い。また、「回らない」店舗だと1貫から寿司を頼めるのも特徴だと牛尾さんに教えてもらった。

というわけで、まぐろたたきと、とろサーモン炙(あぶ)りを一貫ずつ注文(各税抜50円)。この食べ方だと、ちょっと味見してみたいという時にちょうど良い。

うーん、美味しい。ふわふわのまぐろたたきも、香ばしく炙られたサーモンもペロリと平らげていく。「何度でも新幹線呼んじゃってください。寿司は売るほどあるので」と牛尾さんがジョークを飛ばす。今日は牛尾さんがごちそうしてくれるらしい。恐縮だが嬉しすぎる。

寿司と一緒に談笑も楽しみながら、お言葉に甘えて続けざまに新幹線を呼ぶ。普通の寿司屋だとお高いイクラ(税抜100円)に手を出したり……

サイドメニューに焼き海苔の味噌汁(税抜180円)を付け添えちゃったり……

期間限定の三陸生サーモン(税抜180円)も注文した。通常のサーモンも美味しかったが、こちらはよりいっそう脂が乗っている

牛尾さんが考案した「牛Kingの肉三昧(3貫・税抜280円)」にも挑戦。同じく牛尾さんの案だという肉いなり(税抜100円)も頼んだ。牛カルビ・ローストビーフ・牛タン炙りがセットになった肉三昧は、どれも寿司屋とは思えないクオリティだった。

肉いなりの方も、一口では食べきれないほどボリューミーでありながら、甘みが染みていてたまらない。というか、どのメニューも想像以上に高水準。なのに手頃な価格に抑えられているから驚きだ。

なんだか自分1人だけ食べているのが申し訳なくなってきたので、牛尾さんにも食べてもらうよう勧める。

牛尾さんは「えーっ!」と戸惑いを見せていらっしゃったが、しばらくして自身の考案した肉いなりに箸をつけた。

そして思いのほか豪快な勢いで食らう。メチャクチャ美味しそうに食べるなこの人……!

話しやすくて良い人だとすでにわかってはいるが、個人的な経験則として、食べ物を美味しそうに食べる人に悪い人はいない。一方的に好感を募らせつつ、私も失われた時間を取り戻すように、「初めてのかっぱ寿司」にのめり込んでいった。


・牛尾スペシャル

しかし、私はまだまだかっぱ寿司の奥深さには気づけていなかった。ここからそれを思い知らされることとなる。

「おすすめがあるんですよ、牛尾スペシャル」と、牛尾さんが口火が切り、あるメニューを注文した。まもなく届いたのは「鮮極(せんごく)生えび(税抜100円)」だ。

食欲をそそる色味をした生えびにかぶりつけば、ぷりぷりの食感が口の中で弾ける。尋常じゃなく美味しい。このネタも牛尾さんがプロデュースを担当されたそうだ。

生の食感を損なわず鮮やかな色味を残すのは相当に難しく、ある水産メーカーとの共同開発でそれを成し遂げたのだという。製造方法に特許も取ってあるんだとか。ものすごい企業努力だ。さらっと言ってのける牛尾さんからも並々ならぬオーラを感じる。

牛尾スペシャルはまだ止まらない。続いて届いたのはサラダ軍艦とコーン(各税抜100円)。こちらは牛尾さんが商品を開発したというわけではなく、オリジナルの激ウマアレンジ方法があるらしい。

それぞれにかっぱ寿司特製の甘たれをかけていく。ここまではお客さんもよくやるアレンジのようだが、牛尾さんはさらにそこへたっぷりのわさびを乗せた。「待って牛尾さん、その量は嫌がらせでは?」と思いながら食べたところ……

ビックリするほど美味しい……! マヨネーズの油分のおかげで絶妙な甘辛さが演出されている。舌鼓を禁じえない。

そろそろお腹いっぱいになってきたなと思っていたら、「牛尾スペシャルですよ」と言って牛尾さんはデザートをテーブルに置いた。1日にどれだけ出るんだ牛尾スペシャル。

プレミアムホイッププリン(税抜200円)のクリームを黒蜜きなこわらび餅(税抜100円)に乗っける牛尾さん。今度はどんな牛尾流アレンジなんだと見守っていると……

クリームまみれのわらび餅に、さらにプリンを絡め始める。とんでもなく甘そうだが最高に美味しそうだ。「黒蜜とキャラメルが混じり合って、プリンの柔らかさのあとに来るわらび餅のもっちり感がいいんですよ……!!」と、寿司の時以上の熱量で語られる。

ナチュラルに自分の口にデザートを運ぶ牛尾さん。あっ、それは牛尾さんが食べるんですね……。

いやホントメチャクチャ美味しそうに食べるなこの人……!

「長く働いてると同じ味に飽きてきちゃうんですよ。でも、こうやってアレンジを楽しめるのが魅力でもありますよね」と軽口混じりに言って、牛尾さんは私の分のデザートも頼んでくれた。

商品の開発力も、広報としての能力も持っているうえに、茶目っ気まである。そしてこの食べっぷり……!

新たにデザートが届くやいなや、「牛尾さん、せっかくなので『あーん』してくれませんか」と私は口にしていた。何が「せっかく」なのか自分でもわからなかったが、牛尾さんのナイスガイぶりがそうさせたのだと思う。

「えっ、私がですか!?」と牛尾さんは驚いていたが、しばらくして私の口元に「あーん」してくれた。

うーん、おっしゃる通り絶品だ。複数の食感と甘さが高次元で融合している。牛尾スペシャル恐るべし……!


・ありがとうかっぱ寿司、ありがとう牛尾さん

アレンジレシピもさることながら、こうして誰かと和気あいあいと過ごすことができるのも、かっぱ寿司の魅力の1つなのだなとしみじみ感じる。豊富なメニューを見た時の「ファミレスのようだ」という感想が、今は別の意味を持って心に響いている。

一方で、頼んだ品が迅速に提供される「回らない回転寿司」の快適さは、ファーストフード店のようでもあった。ササッとでもじっくりでも、1人でも2人以上でも、どんなスタイルでも楽しめる懐の深さに包まれていたような1日だった。

最後に、持ち帰りのドリンクとしてタピオカ台湾ミルクティー(税抜300円)をおすすめされたのでいただいていく。業界では珍しいメニューで、テレビでも話題になったほどの美味しさだそうだ。1口飲んでみると、シメに最適なすっきりとした飲み口だった。

そして、お別れの前に牛尾さんと一緒に写真を撮らせていただくことに。「牛尾さん、せっかくなので抱き着いてもいいですか」と私は口にしていた。何が「せっかく」なのかわからなかったが、心が牛尾さんになついてしまったのだと思う。

突然の私の挙動に、「えーっ……」と引き気味の表情を浮かべる牛尾さん。まずい、距離感を誤ったか? そんな……最後の最後に……。いや、よく考えたら終始誤っていたような気もするが、とにかく嫌われたくない。

牛尾さん……! 私はあなたがいたから、初めてのかっぱ寿司を緊張せずに楽しめたんだ……!

あなたがいたから、これほどあっという間に時間が過ぎたんだ……! こんな終わり方は嫌だ……!

と思っていたら、2ショットに向けて謎のキメ顔を披露しだす牛尾さん。何なんだこの人。

かっぱ寿司もマーケティング部の部長も底が知れない。最後には笑顔を見せてくれたので一安心。

写真を撮り終え、別れの挨拶も終え、確かな満足感を胸にお店を後にする。温かな空間のかっぱ寿司と、心優しい牛尾さん。そのどちらとも距離を縮めることのできた充実感は、何物にも代えがたい。

かつての私と同じように、まだかっぱ寿司を訪れたことのない方がいたら、ぜひこの記事を参考にしてチャレンジしてみてほしい。私もまだ見ぬメニューを制覇するべく、必ずまた来ようと思っている所存だ。


ありがとうかっぱ寿司、ありがとう牛尾さん……!


次は寿司原人としてではなく……


かっぱ寿司大好き人間として来ます……!!


<完>


・今回紹介した店舗の情報

店名 かっぱ寿司 板橋店
住所 東京都板橋区東新町1-48-10
営業時間 月~金 11:00~23:00 / 土日祝 10:00~23:00
定休日 年中無休

参照元:かっぱ寿司
Report:西本大紀
Photo:Rocketnews24.

スターバックスに初挑戦した時の記事はこちら

▼広々とした店内と直線レーン

▼マーケティング部の部長、牛尾さん

▼牛尾スペシャルその1「鮮極生えび」

▼牛尾スペシャルその2「サラダ軍艦とコーン(甘たれ・わさび乗せ)」

▼牛尾スペシャルその3「わらび餅プリン」

▼牛尾さん、本当にありがとうございました!