言わずと知れた大手牛丼チェーンの吉野家。早・安・旨の三拍子揃ったフード界のユーティリティプレイヤーだ。だがしかし、驚くべきことに私(西本)はそんな吉野家に行ったことがない。
ビビりの私はこれまで吉野家にハードルの高さを感じて敬遠したまま生きてきた。とはいえ、私も30才。ビビってばかりもいられない年齢である。そこで、勇気をもって初チャレンジしてみることにした。
・敬遠の理由
無趣味・無特技・無職歴という「無」尽くしの男である私。4回も無を連呼して申し訳ないが、事実なので許してほしい。そんな無を司る私は、前述の通り、吉野家にも行ったことが「無」い。
私の吉野家に対するイメージは「男の巣窟」。いや私も男だし、全然駅の男子トイレとかも行っちゃうタイプだ。ただそれでも1人で「男の巣窟」に突入するのには抵抗があったのだ。
店に向かっている今もできればこのまま回れ右して帰りたい……いや、逃げちゃダメだ。もう十分逃げたじゃないか。ついでに8年間就職からも逃げているじゃないか。そんな自分を変えなければ。
・入店
今回やってきたのは吉野家新宿1丁目店。初入店に対する抵抗感で、姿勢がおぼつかない。けれどまあ、ここまで吉野家に肉薄しちゃったら……やることは1つしかない。
行きますか……。
小癪(こしゃく)な態度を取ることで虚勢を張りつつ、無事入店に成功。しかし私はそこで思いもよらぬ事態に遭遇した。
――食券機がない。
食券機がないのである。ショックのせいで、しばし棒立ちしてしまう。
食券は店員との会話無しで注文を成立させる、コミュニケーション弱者にとっての夢のツールだ。食券を受け取った店員に「〇〇ですね」と注文を復唱されても最悪「……ッス」とだけ返しておけばその場をやり過ごすことができるのだ。食券さえあれば。
しかし、無い。食券が無いことは、コミュ弱者の私にとっては命綱が無いことにも等しい。何とか前方にメニューが置いてあるのを発見し、平静を装って着席する。
「一周回ってメニューをじっくり眺める上級者」のフリをするが、単なる初心者である。
眺めながら急速度で思考を巡らす。ここは「牛丼・並盛」が最善手だろう。羽生名人だって初めて吉野家に来た時はそうしたに違いない。「ここで冒険する必要はないでしょう」と脳内の解説者も言っている。
ようやく注文を終え、メニューを見ながら丼を待つ。ほうほう、他にはこんなメニューがあるのか。セットで頼めば味噌汁も――
「お待たせしましたー」
はっっっっっっやぁ………。
貴様っ……こっちはようやくひと息ついたところだぞ!? 待ってないよ微塵も! 前もってこちらの注文を読んでいたとしか思えないスピードだ。まさか……エスパーか……? まあエスパーではないか。
いやしかし、早いとは聞いていたがまさかここまでとは。食べる前から吉野家の凄さを思い知らされる。
・実食
そんなこんなで、いざ牛丼並盛(380円)を実食。ただただ美味しそう。しかも380円とは思えない、安価だからといって手抜きなど一切ないボリュームだ。
肝心の肉も安っぽさなど全く感じさせない。よっしゃ、いただきます!
周囲に溶け込むように黙々と食べ進める。うーん、これが吉野家の味か。
お腹も減っていたので、ぺろりと平らげてしまった。
ごちそうさま。
お金を払って退店。お世話になりました。
…………。
……うん。
よくわかんなかった……。
色々あったせいで頭がバカになったのかと思ったが、そうではない。いや、味は普通に美味しかったのだ、文句無しに。「早い・美味い・安い」を全て実感もできた。しかしあっという間の出来事すぎて、1回味わっただけではどうにも吉野家の真髄に触れられていないような気がしたのだ。
じゃあもう1回行こ。
・再入店&再実食
やってきたのは吉野家新宿御苑店。
一度チャレンジを終えているせいか、緊張が解けている。それどころか、いっそ変な勢いまでついている。
とはいえ、さすがに同じ店舗に即座に戻るのは恥ずかしかったし、戻った上に牛丼並盛を再び頼んでしまったら「特盛とかを食べればいいのに2回に分けて並盛を食べに来るメチャクチャ効率の悪い人」に思われてしまうので避けておいた。
吉野家の真髄に触れるべく、別店舗で再び並盛を頼み、いざ再実食。
あんぐ。
うん……普通に美味い。
肉も柔らかいし、タレは主張しすぎることない甘辛さで舌を飽きさせない。ご飯も温かで、何の違和感もなく安心してモリモリと食べ進められる丼だ。長い歴史に裏打ちされた確かなクオリティを感じる。
そこで私は気付く。この「普通に美味い」というのが吉野家の核なのではないかと。
当然いま味わっている味は先ほど訪れた店舗と同じものだし、どの吉野家を訪れても、万人の思い浮かべる「これが牛丼だよね」というクオリティが私たちを待ってくれている。言わば牛丼の丁度良い理想形、「みんなの牛丼」がそこにはあるのだ。
とうとう吉野家の核心に触れることのできた私は、確かな満足感を得て退店した。ごちそうさまでした。本当にお世話になりました。
・ありがとう吉野家
というわけで、吉野家にデビューしたあとで別店舗に「ハシゴ吉野家」する男の模様をお送りしてきたが、いかがだっただろうか。もし同じように吉野家に行ったことのない方がいたら、参考にしていただけたら幸いだ。
私としては、どの店舗を訪れても温かく迎えてくれた吉野家には感謝しかない。今後も熱心なユーザーになってしまうかもしれない。そうなってしまうのもいいだろう。私の知る「吉野家」は、確かにどこにでも存在しているのだから。
・今回紹介した店舗の情報
店名 吉野家 新宿1丁目店
住所 東京都新宿区新宿1-33-10 スペーシア新宿
営業時間 24時間営業
定休日 無休
店名 吉野家 新宿御苑店
住所 東京都新宿区新宿2-6-3 藤和新宿コープ
営業時間 24時間営業
定休日 無休
Report:西本大紀
Photo:Rocketnews24.