平成最後のコミケ」と言われると、もったいないような気がしたので人生勉強のつもりで初めて行ってみることにした。

会場付近の駅がコミケ客で始発から大混雑している光景は、ニュースなどで何度か見たおぼえがあった。「コミケってずいぶん早くからやってるんだなァ」と思っていた。

しかし公式HPを見るとコミケの開場時刻は午前10時とのこと。どうやらあの人たちはお目当ての品を確実にゲットするため、1分でも早く入場しようとわざわざ始発に乗っているようなのだ。

しかも注意書きには「入場待機列がありますので、初めて参加される方は午後到着するように来て下さい」とある。初心者には危険なくらい長い列ができるというのだろうか? 非常に不安になってきたのでここはおとなしく午後から参加しようか……いや、でも記者として、そのスゴそうな待機列を見てみたい……。

・混んでるけどそこまでではない

冬コミ初日。優柔不断な性格により、結局あいだをとって午前11時に国際展示場駅へ到着した。

駅のコンビニには長蛇の列ができていて、使い捨てカイロやお茶などの段ボールが店の外まで山積みされている。近隣の商店にとってもこの日は一大イベントなのだ。

改札へ降りてふと、会場へ向かう人より帰る人のほうが多いことに気づいて焦る。えっ、もしかして遅すぎた……?

コミケの1日の来場者数は20万人にもなるそうで、この日も「人がゴミのよう」とつぶやく声が会場のあちこちから聞こえたが、しかしビッグサイトはとにかく広い。普通の速度で歩けば、誰かにぶつかるほどではない。満員電車みたいなのを想像していた私はひと安心した。

・アニメとマンガだけじゃない!

物販スペースへ足を踏み入れると、永遠に続くかと思われるほど、どこまでも長机と椅子が配置されていた。その場から見渡せる全ての机には「おそ松さん」の本やらグッズが並べられている。

自慢じゃないが、私は「ワンピース」も読んだことがない女なのだ。おそ松「くん」じゃなくて「さん」だと知ってただけでも褒めてほしいくらいである。最近のアニメもマンガもよく分からない。

そんなわけなので物販スペースはサッと見るだけのつもりでいた。

が、しばらく進むとアクセサリーやら小物を売るブースばかりが並んでいるエリアに突入したので驚いた。アニメ関係のアクセサリーかと思ったが、どうやら違うらしい。その風景だけ切り取ると、まるで街のフリーマーケットのようである。

私を含め多くの人が知らなかったのではないだろうか……コミケとは、アニメやマンガのグッズだけを扱うイベントではないのである。アクセサリー以外にも文具、洋服、フィギュア、自分の写真集など、実に幅広い自主制作のグッズが売られていたのは目からウロコであった。

80歳代とおぼしきご夫婦が、仲良く置き人形を売るブースに行列ができているのを見たら、なんかちょっと泣きそうになってしまった。

出店する側になることも、誰にだって可能なようだ。

・ジャンルが幅広すぎる

さらに進むと、スポーツ関係の本が並ぶエリアに突入した。こ、この感じはもしかして……私の得意分野たる大相撲、もしくは格闘技のエリアもあるんじゃなかろうか!?

期待が高まるあまり、つい早足になって何人かにぶつかってしまった。しかし街中のように「チッ」と舌打ちされるようなことは決してなく、だれもが気持ちよく「すみません」と言い合える素敵な空間だったということも記しておきたい。

ちなみにこの後、スポーツエリアに戻ってこようとしたら会場が広すぎて二度と戻ってこれなかった。気になるものがあったらその場で立ち止まることをオススメする。

・同士と出会える場所

大相撲エリアを探して歩いていると、なんだか気になる本が置かれているブースが。

ん? なんだろう、この既視感は…………

あっ!!!!

「中国の映画館でたまたま見たらすごく面白かったから帰国後に探したけど日本では公開されてなくて諦めた中国の映画」だっ!!!!

もちろん周囲に同ジャンルを扱うブースなど見当たらない。感動に震えている私を見て、ブース内にいた作者の方が不思議そうに「どうしました……?」と声をかけてくれた。おそらく作者本人とて「このジャンルを知っている人間がそのへんをウロウロしているはずがない」という自覚を持っておられるのだろう。

私がこの映画を見たいきさつを話すと、作者の方は非常に喜んでくれて、初対面とは思えないほど話がはずんだ。私もとっても嬉しかった。

なぜコミケにこれだけ多くの人が集まるのかというと、こうやって同じ趣味を持つ仲間と出会えるという部分が大きいのではないだろうか。ジャンルがマイナーであればなおさらである。

本を買ったら、オマケもつけてくれたよ!

・コミケを支えるスタッフの皆さん

とにかく会場が広く、慣れていない私はすぐに迷子になったが、ピンクの帽子をかぶったコミケスタッフの方々がいたるところに配置されていて助かった。皆さん非常に明るくて親切である。

驚くべきことに、全員ボランティアなのだそうだ。

大変ですねと言うと、「みんなコミケに恩返しがしたくてやっています」という粋な答え。

そういえばコミケは入場無料なのである。寒空の下で走り回るスタッフの皆さんを見て、私はタダで楽しんで帰ろうとしている自分を恥じた。何かコミケに恩返ししなくては……!

同じような気持ちになる人が多いのだろうか……会場内には献血ブースがあって、大勢が並んでいる。私もその列に並ぼうとしたが、2時間待ちと言われて断念。コミケへの恩返しは次回へ持ち越しになってしまった。時間によっては待たずに献血できるそうだ。

・初心者こそ行ってみたらどうだろう

とかく人の多いことがクローズアップされがちなコミケ。確かに人気のあるブースに並ぶ人々の行列などはギョッとするが、そういう目的がないのなら臆することはない。逆にミッションのない初心者のほうが、驚きとともにこの祭りを楽しめるのではないだろうか。

平成最後のコミケはまだ間に合う

Report:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.