JRの普通列車が乗り降り自由となるフリーきっぷといえば『青春18きっぷ』だ。販売価格は5回分で1万1850円。つまり1回分2370円を有効活用すれば “安く遠く” 鉄旅を楽しむことができる。たとえば、1日で東京駅から福岡県の小倉駅まで行くことも可能だ。
そこで今回は、平成最後の夏を締めくくるべく、東京駅始発の列車に乗って東北・北海道を目指してみたぞ。札幌で味噌ラーメンを食べるまでのハードすぎる2日間の旅行記をさっそくご覧いただきたいッ!
・青春18きっぷのルール
まずは、青春18きっぷのルールを簡単に確認しておこう。1回分は原則乗車日内であれば、1日に何度でも乗降や途中下車が可能で、日付をまたいで運転する列車については、0時を過ぎて最初に停車する駅までは有効というルールだ。誤解されがちだが、年齢制限はナシである。
今回2日間の旅程でハードなのは1日目。乗り継ぎミスはもちろん、悪天候等で列車の運行に大幅な遅れが出た場合、大館駅21時21分発の奥羽本線「青森行」終電に乗ることができない。すなわち運にも左右されるのが「18きっぷ旅」なのである。
・東京から上野へ
まずは東京4時44分発の山手線内回りで上野へ。なんだか縁起が悪いな。乗車時間は8分、上野で5時13分発の高崎線普通「高崎行」に乗り換える流れだ。さっそく上野で約20分待つことに。これから長い長い旅が始まるんだなァ~。人の少ない上野駅6番ホームは涼しかった。
・朝食は「朝がゆ」狙い
上野・高崎間は約1時間40分と長いので、トイレのある1号車で席を確保。朝食は6時55分に到着する高崎名物「上州の朝がゆ」狙いだ。上州の朝がゆは、毎日ソッコーで売り切れるため “幻の駅弁” と言われている。果たして買えるのか……高崎到着まで少し寝よう。
──定刻の6時55分に高崎到着。階段を上がって駅弁屋へ急いだが……朝がゆは売り切れって、マジかよ! なんでも6時30分の開店とほぼ同時に売り切れたらしい。結局2番人気の「だるま弁当(1000円)」を購入。1960年から販売されている名物駅弁とのこと。よしよし、楽しみだ。
・高崎から水上へ
駅弁を食べる時間的余裕はなく、7時12分発の上越線「水上行」に乗車。仕方がないから寝ておこうと思ったが……寒くて全ッ然眠れん! エアコンが効きまくりなのだ。座る位置をミスったぞ。沼田(8時着)で車内がガラガラになったため、エアコンが直接当たらない座席に移動した。
・新潟方面へ
8時17分に水上に到着。乗り換え時間は7分のため弁当は食べられず。消費期限は18時までだ。8時24分発「長岡行」は乗客が少ないが、鉄道ファンは多いもよう。途中、カメラを持ってダッシュする子供たちの後ろを追い、日本一のモグラ駅「土合」の駅名標を撮影した。地下70mにあるホームは薄暗くて涼しい。
長岡に着いたのは10時20分。乗り換え時間は9分あるが、1000円のだるま弁当はゆっくり食べたいから我慢だ。信越本線快速「新潟行」は新潟色(青)の115系。新潟までは1時間、田園風景が和みますな~。新潟に近づくにつれ、車内は混雑する。11時29分に新潟に到着した。
・新潟の13分間
長岡の9分待ちで食べられなかった弁当は、新潟の13分待ちなら食べられるのか……答えは「食べられない」だ。次の村上が50分待ちだから気持ち的に慎重になる。だるま弁当は村上で食べよう。あ、雨が降ってきたな。白新線「村上行」は11時42分に出発した。
村上行の車内は空いていた。田園風景も変わらず、とても穏やか。30分ほど寝て起きたら雨が止んでいた。よし、村上で弁当を食べたら少し散歩をしよう。そういえば、周りにいた青春18きっぷメンバーが見当たらない。みんな新潟で降りたのかな……12時57分、村上に到着。
・だるま弁当
だるま弁当は誰もいない待合室で食べた。真っ赤なだるまの容器がインパクト抜群。中身は山の幸がギッシリ。主役はゴボウに鶏肉を巻いた「鶏八幡巻」か、それともタケノコか椎茸か……栗も甘くて美味しいぞ。最後まで飽きずに完食。待ってて正解、大満足の弁当だった。
弁当を食べ終えた頃、ふたたび雨。しかもかなりの大雨だ。散歩は断念、ホームで待機している13時47分発の羽越本線「酒田行」に乗車。こちら2両編成の気動車(燃料で走る)であります。車内はガラガラ、ボックス席を乗客それぞれが1人占めできる感じであった。
・大雨の影響
酒田までは約2時間30分の長旅。日本海沿いをグングン北上して行く。景勝地として知られる『笹川流れ』が左車窓に登場。それにしても雨が強いな~と思ったその時! 「速度を落として運転します」とアナウンスが……おいおいマジかよマジかよ!
この後、酒田16時30分発の「秋田行」に間に合わなかったら……全ての計画が台無しになる。相変わらず雨は激しく、15時39分予定の鶴岡到着が約30分遅れという状況。念のため車掌さんに「秋田行」について尋ねてみると「17時50分発になりそうですね~、すみません」とのこと。絶望ッ!
いったん冷静に時刻表を確認する。羽越本線「秋田行」17時50分発に乗れば19時36分に秋田着。20時25分発「大館行」に乗り換えたら大館に22時12分着……ということは「青森行」終電21時21分発には全然間に合わない。となると、忠犬ハチ公の故郷・大館で1泊することになるのか……と、天を仰いだその時!
・16時10分のアナウンス
16時10分。「秋田行の電車が待っていてくれる」という車内放送が……マジかよ本当にありがとうございます! 遅れた時間をいつ取り戻したのか、酒田には約20分遅れの16時35分に到着。そのままスグに発車の「秋田行」に乗車ァァァアアア! ヨッシャァァァアアアアーーーッ!!
・秋田へ
秋田行の車内は高校生ばかり。みんな疲れているのか寝ている。田園風景と寝ている高校生……とても平和だ。天候が悪く “出羽富士” と呼ばれる鳥海山は眺められず。仕方ない、電車に乗れただけでOKだ。少し寝て18時頃に目を覚ますと日が暮れていた。もう夜か。
秋田には約10分遅れの18時30分に到着。29分発の奥羽本線「大館行」に乗る予定だったが、19時発でも無問題ということで駅構内を散策すると……今夏の甲子園を盛り上げた金足農業高校の応援ボードと準優勝の横断幕キターーーッ! 金足農業、本当に感動をありがとう。
さて、応援ボードに「ありがとう」とメッセージを書いてから、駅構内の『しらかみ庵』で「白神きざみネギそば(380円)」を食べる。ネギがシャキシャキで美味しい。温かいつゆも飲み干した後、売店で人気No.1の「鶏めし(880円)」を購入した。あとで食べよう。
「大館行」は19時の定刻発。3両編成。仕事・学校帰りの方で座席は埋まっていたが、とても静か。駅員さんもキレイだったし、秋田の好感度が上がる。なんというか、東北の旅はずーっと穏やかだ。乗車時間は1時間46分、寝ようと思ったが、ケツが痛くてよく眠れない……。
・大館から新青森へ
大館には20時46分に到着。待ち時間が35分あるから、秋田で購入した「鶏めし」をいただこう。あきたこまちの炊き込みご飯に鶏肉の甘辛煮を乗せた「鶏めし」は、旅の疲れを癒すTHE駅弁だ。食後、駅構内の「ハチ公神社」で、賽銭を入れたらハチ公が吠えた……いきなり近代的だな。
そしていよいよ本日のクライマックス。目指すは終点・青森……ではなく、1つ手前の新青森。新青森にはタクシーを待たせている。「青森タクシー」に予約すれば、定額850円で青函フェリーの「青森フェリーターミナル」まで送ってもらえるのだ。
新青森には22時45分に到着した。そして23時30分発「函館行」フェリーに乗船するには、30分前までに乗船手続きが必要。タクシー運転手も事情を理解しているから頼もしい。無事23時前に乗船手続き完了。函館までの運賃は2000円だが、事前予約とWEBクーポンで10パーセント割引1800円であります!
・青函フェリー
フェリーの乗船時間は約4時間。3時20分に「函館フェリーターミナル」に着く予定だ。乗船後、ソッコーでシャワールームへ。気持ちよく汗を流してからカーペット席で横になると……一瞬で深い眠りについた。しかし……
3時に爆音の到着アナウンスが流れて起床。マジかよ。そして寒いな北海道。下船後、函館フェリーターミナル内で小休憩。ターミナル発「函館駅行」の始発バスは8時過ぎだが、ずっと待機するわけにもいかないので、5時40分に函館朝市を目指して出発。寒いいいい~。
・函館朝市
6時30分、函館朝市に到着。そのまま開店直後の『朝市食堂二番館』へ。人気の500円丼メニューから「鮭親子丼」を注文。腹六分目のボリュームだが、味は良し。食後に富良野メロンを一切れ(300円)食べる。甘くてウマい。メロンはどこで食べても一切れ300円くらいのようだ。
・長万部へ
朝食を終え、2日目の鉄旅は函館からスタート。函館本線「長万部(おしゃまんべ)行」8時18分発に乗車。1両のワンマン列車だ。乗客はほとんど旅行客、大きなバックパックを背負っている外国人も。空調は扇風機。うん、ちょうどいい。気がつくと寝ていた。
・森で休憩
森に9時34分に到着。20分ほど休憩して長万部に向かうそうだ。海風が気持ちいい。改札を出てスグ『柴田商店』で名物「いかめし(780円)」を購入。秘伝のたれが染みこんだイカとモチモチのご飯が最高に美味しい。こちらも駅弁不動の王者なのだとか。
ただ、あまりにメジャーだからなのか、乗客みんなが「いかめし」を購入 & 休憩中の車内で食べるため、車内がやたらとイカ臭い。爽やかな海景色とイカの香り……平成最後の夏の思い出。さあ、長万部に向けてグイーンと北上して行きます。
・長万部で2時間待ち
11時22分に長万部着。「倶知安(くっちゃん)行」は13時18分発だから約2時間待ちだ。観光案内看板によると、駅裏に温泉街があるということで温泉へ。長~い歩道橋を渡り、たどり着いたのは入湯料440円の『長万部温泉』。いわゆる昔ながらの銭湯だ。う~んたまらん。
さっそく体を洗って湯につかったら……おいおいウソだろ死ぬほどアチィィィイイイイー! 札には「39~41度」と書いてあるが「44~45度」くらいあるぞ。上がってから脱衣所の業務用扇風機を「風量MAX」にして体を冷やした。
さて、もう少し時間があるので、長万部温泉の女将から教わった『かなや本店』へ。全国区の知名度を誇る「かにめし(1180円)」は、風味豊かで噛むたびにカニの旨味がじわ~っとあふれ出す極上の味。食べ出したら止まらない究極の一品だ。一気に完食。駅に戻ろう。
・倶知安・小樽へ
13時18分発「倶知安行」の電車に乗った頃、また大雨。車窓を楽しみにしていたが仕方ない。一眠りして起きたらニセコ。『桃鉄』で「スキー場」が買えるニセコだ。雨はまだ降っている……倶知安には14時57分に到着した。羊蹄山(ようていざん)は分厚い雲に隠れたまま姿を見せず。残念。
15時18分発「小樽行」は2両編成。小樽までは携帯電話の電波がほとんど届かない森の中を進んで行く。景色を眺めていたら眠くなり、いつの間にか寝ていた。小樽には16時26分に到着。雨が上がっていたので16時30分発「札幌行」には乗らず、少し小樽散歩をすることにした。
まずは、俳優の故石原裕次郎さんの等身大パネルが設置してある4番線『裕次郎ホーム』を見学。そして北海道で最初の鉄道廃線跡『旧国鉄手宮線』からの『小樽運河』。駅に戻る途中『桑田屋』で小樽の名物おやつ「ぱんじゅう(1個89円)」を買ってその場でパクリ。パンのように焼く饅頭だから「ぱんじゅう」なのだとか。
・札幌へ
長い長い旅もいよいよラスト。17時30分エアポート180号「新千歳空港行」に乗って札幌を目指す。どこでラーメンを食べようかな~なんて店選びをしていたら……いつの間にか、札幌に到着してるゥゥゥウウウウウーーー! 終わってみれば、意外とあっという間だった。
長旅のシメは、札幌味噌ラーメンの名店『すみれ』の「味噌ラーメン(900円)」に決定。ラードの油膜で最後まで熱々のラーメンは札幌ならでは。中太の縮れ麺を豪快にすすって、汁まで一気飲み。あああ~本当にありがとうございました。感謝・感謝・大感謝である。
ということで、東京から新青森、フェリーを乗り継いで函館から札幌まで2日間で来ることができた。総移動距離は1100キロを超える長旅だったが、青春18きっぷならではの達成感は異常。旅を締めくくる「味噌ラーメン」を最高に美味しく食べることができたぞ。
──最後に、今回の取材から一週間後に発生した北海道地震により被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます。被災者の方々が1日も早く安心して暮らせる生活を取り戻すことができますように。
Report:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.
▼今回のルート
▼乗換駅
▼グルメ
▼電車(撮影できなかった電車もあります)
▼秋田駅
▼大館駅
▼新青森駅
▼フェリー
▼函館フェリーターミナル
▼函館駅
▼朝市
▼小樽の『旧手宮線』
▼休館中の札幌時計台
▼さっぽろテレビ塔
▼すすきの