私(中澤)は男である。面と向かい合えば、おそらく現在の私を女性だと思う人はいないくらいには男っぽい。そんな私が痴漢された話をしよう。大事なことなので繰り返すが、痴女ではなく痴漢だ。相手はバッチリ男。振り返れば奴がいた。
・田舎町の書店
それは私が小学校4年生の頃の出来事である。田んぼだらけで駅から近所の山が見えるようなレベルの田舎である私の生まれた町。マクドナルドは車で20分、コンビニなんて余裕でない。
そのため、子供たちの遊び場と言えば、町唯一の大型スーパー「ジャンボ・ニチイ」のゲーセンか、田んぼの中に立つ広大な書店での立ち読みが主流だった。
そんな中でも、ヤンチャな子はゲーセン、文系は書店というような住み分けがなんとなく決まっていたように思う。どちらかと言うとおとなしいタイプだった私は書店に入り浸ることが多かった。
・『ドラゴンボール』を読んでいると……
その日も、私は書店で立ち読みをしていた。冷房が効いていたから季節は夏、日が高かったことを覚えているので、土曜日の昼間だったのかもしれない。平積みのジャンプの前に立つ何人もの小学生に混じる私。
夢中になって『ドラゴンボール』を読んでいると、尻にくすぐったいような違和感を感じた。なんかムズムズする。ズボンの布がすれてるのかな? 手で尻の辺りを払ってみるとその感覚が消える。再び『ドラゴンボール』に集中する私。
すると、またくすぐったい感覚。ムズムズ……ムズムズ……おいおい、このズボンヤベエな。ともかく、これじゃあ全然『ドラゴンボール』に集中できない。そこで、1回離脱しようと振り返ったところ……
・振り返れば奴がいた
角刈りの小6男子と目が合った。ニヤリと笑う角刈り。知り合いだろうか? 狭い町なので顔は見たことがある。おそらく同じ学校の先輩だ。でも、少なくとも話したことはないし挨拶を交わすような仲ではない。っていうか、小6は普通に怖い。
そう思った私は、軽く会釈して隣をすり抜け、月刊誌が置いている別のコーナーへ。場所を変えると、くすぐったい感覚はなくなった。ズボンじゃない?
そこで、立ち位置を微妙に変えて『ドラゴンボール』の続きを読み始めると、また感じるあの感覚。肩口に後ろを見ると、先ほどの角刈り小6が後ろに立っていた。二ヤッと角刈り。これ、ひょっとして尻をなでられてる!?
・マジで怖い
他人に尻を触られるのも初めてだった私。触られているということにその時初めて気づいた。そして、気づいた瞬間、全身に立つ鳥肌。怖い怖い怖い……!
小4にとっての小6はかなり絶対的な存在だ。しかも、私はヤンチャなタイプではなくケンカもほとんどしたことがない。なんか言ってシバかれたらどうしよう。頭がぐるぐるして『ドラゴンボール』が入ってこない。セリフほとんどないのに全然読み終わらねェェェエエエ!
そんな混乱の間、私の尻をモミモミニヤニヤし続けている角刈り。というか、私のドラゴンボールを掴もうとしている気配さえ出し始めた。とんだ摩訶不思議アーッ!ドベンチャーもあったものである。世界でいっとースリルな秘密ー♪ 言うとる場合か!
・男である私が取った行動
結局、私にできたのは、その場を離れることだけだった。髪が伸びた時は「女の子みたい」と言われることも多かった当時の私。角刈りが女子だと思って痴漢したのかどうかは分からないが、触りに来ていたことだけは明白である。
そして、いざ触られると、男の自分でも怖くて声を上げられなかった。得体の知れない相手というのはそれほどに恐怖なのである。きっと男性でも同じ状況になったら声を上げられない人は多いのではないだろうか。
なお、私はその角刈りが怖くて、書店にしばらく近寄れなくなった。もし、これが電車内での出来事だったら、どれだけ一般生活に支障をきたすことか、電車に乗る時にどれだけ気を張り詰めないといけないのかは考えずとも分かるだろう。
「痴漢されたくない女は服装を選べ」などの極端な意見も見受けられる痴漢問題だが、何を言ったところで痴漢はアカン。ホンマにアカン。
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.