熱心なネットユーザーであれば、韓国アニメと聞いて真っ先に思い浮かぶ作品があるはず。それは、マジンガーZをパクったと言われる『テコンV』だ。実はこの作品、韓国アニメの礎(いしずえ)を築いたと言われており、数多くの韓国ロボットアニメ作品に影響を与えたらしい。そんな韓国のアニメ文化は、今や何とも奥が深そう……。

──ってことを教えてくれるのが、2017年9月4日発刊の『韓国アニメ大全』である。著者の「かに三匹」氏は、韓国アニメに造詣が深く、これまでに培った知識をこの1冊にまとめているそうだ。本作を読めば、パクリから端を発したはずの韓国アニメ文化が、独自の進化を遂げていることに驚かされる

・著者にインタビュー

韓国アニメの世界を、私(佐藤)はまったくと言っていいほど知らない。だが、献本いただいた書籍『韓国アニメ大全』に目を通すと、アニメ制作者たちが悪戦苦闘している姿を思い浮かべることができた。

その著者である かに三匹氏から、韓国アニメにまつわる話を色々と聞いてみたぞ。

Q 「かに三匹さんは、韓国アニメのオリジナルVHSを集めた上で、本を執筆されたそうですが、元々韓国アニメファンでもない一般人が簡単に韓国アニメを観る方法はあるのでしょうか?」

A 「あります。ネットですよ。ネット上の動画共有サイトで、多くの韓国アニメがアップロードされています。韓国のテレビアニメシリーズは、公式に公開されているんですよ。

もちろん動画名はハングルなのですが、コツをつかめば何本か観ることが出来るでしょう。放送が終わって何年も経った作品が無料で全話アップされていることなどから、日本と韓国のアニメの置かれている状況を考えるのも面白いと思います」

Q 「ビデオテープを集めたり、同人誌を出したり、本を書いたり……。なぜ、かに三匹さんは韓国アニメにハマっているのでしょうか? その魅力は? 日本で理解者はどれほどいるのでしょうか?」

A 「日本にも韓国アニメのファンは多くいると思います。韓国アニメはいくつも公開・販売されていますからね。本作では、自分の好みから古めの作品のレビューが多くなっています。こうした古めの作品から、懐かしさを非常に強く感じるのです。

書籍でも触れているのですが、韓国アニメは日本のアニメから大きな影響を受けているので、日本人が見ると懐かしく感じるのだと思います。どこかで観たような気がする作品なのだけれども、やはり海外で作られた作品だけにどこか違う。そういうところに惹かれました」

Q 「海外のインチキおもちゃなどでもそうですが、オリジナルの完全コピーだと面白くなくて、微妙な差異や作った側の創意工夫、余計なサービス精神が面白かったりしますね。『テコンV』以外でそういったインチキ臭がするお勧めのアニメはどれでしょう?」

A 「個人的に好きなのは『スーパー特急マジンガー7』です。タイトルからすぐにマジンガーシリーズのパチモンだとわかりますが、当時韓国でも人気があった『銀河鉄道999』にあやかってか、巨大ロボットが宇宙列車と合体し、ロボットが列車を牽引するのです」

Q 「そもそも、韓国人自身はマジンガーZを知っているのでしょうか? テコンVがマジンガーZからかなり影響を受けていると、認識しているのでしょうか?」

A 「マジンガーZはテコンVの公開前に韓国ですでに白黒で放送されていました。だから、テコンVがマジンガーシリーズから影響を受けていることは、韓国でも明らかだったことでしょう。

ちなみに、当初『マジンガーZはアメリカのアニメ』だと韓国で勘違いしている人が多かったそうです」

Q 「今現在の韓国のアニメの状況はどうなのでしょう? まだ日本のアニメの模倣をしているのでしょうか? それとも、韓流映画みたいに世界で流行ってきているのでしょうか? また、中国など他のアジア諸国のアニメはどういう状況でしょうか?」

A 「韓国アニメは、子供向けアニメが中心です。ヤングアダルト向けが中心の日本アニメとは違います。そして、韓国アニメは子供向けアニメとして一定の存在感があります。そうした状況下で日本のアニメを模倣する必要はないでしょう。

中国でもアニメは大量に作られています。子どもの人口が日本とはくらべものになりませんから。むしろ現在、日本アニメっぽい作品を作っているのは中国かもしれませんね


・「パクリ」の向こう側

本作に目を通すと、かに三匹氏が言うように、たしかに紹介作品からどこか「懐かしい」感覚を覚える。だが、何かが決定的に違うとも感じる。「観たことある」と感じると同時に、「初めて観る感じ」とでも言おうか。何とも複雑だ。

参考リンク:Amazon 『韓国アニメ大全』
執筆:佐藤英典
Photo・イラスト:Rocketnews24