th_0

レトロゲームと言われてまず頭に浮かぶのは、ファミコン、メガドライブなどの家庭用ゲーム機。ゲームセンターで遊んだアーケード機などだろう。しかし忘れてならないのが、WindowsもMacOSも無かった80年代、日本に群雄割拠していたパソコンの数々である。

NEC、富士通、シャープ、日本の誇る有名メーカーが怒涛の勢いでリリースしていた独自仕様パソコン。様々なゲームが発売されていたが、お世辞にも丈夫と言い難いフロッピーディスクに記録されたそれらは、数も少なく、日々劣化し腐りかけている。

悲しいことに、当時の作品を「黒歴史」と捉えるゲームメーカーも多く、それが証拠に今や年間数百億の売上を誇る某社の社史からも、80年代の作品はバッサリ無かったことになっている始末。そんな状況のなか、ひとりのフランス人が立ち上がった!

・涙なしには語れないルドン理事長のマイコン少年時代

80年代のパソコンゲームを中心に、あらゆるレトロゲームの保存活動に力を注ぐ非営利団体「ゲーム保存協会」は、ゲーム研究者やジャーナリストなどを対象に、東京・世田谷区の本部にある2000冊以上のレトロPC・ゲーム雑誌を揃えたアーカイブ「ゲーム資料室」の無料公開を開始。今回は資料室を訪問がてら、完璧な日本語を操るルドン・ジョゼフ理事長から壮絶な半生記を聞くことができた。

th_2

生粋のフランス人であるルドンさんは、フランスの田舎町で暮らしていた少年時代、どういうわけか当地でもマイナーだったPCエンジンを購入。目についたゲームを片っ端から集めるうち、フランスに入ってこない未発売作品(ローカライズされていない日本語のRPGなど)がどうしても欲しくなり、秋葉原の存在すら知らないまま、PCエンジンゲームの買い物リストだけを握りしめ来日した。

到着早々、なんの情報もないまま、ふらりと迷い込んだ中古ゲーム販売店の値段を見て驚愕。定価で買うつもりだったゲームが100円で売ってるじゃないか! 何かの間違いじゃないか? と、怖すぎてしばらくレジに持っていけなかった。それほどショックだったそうな。

・大好きな作品『夢幻戦士ヴァリス』

国に帰ると、唯一のテキストである和仏辞書をひもときながら、買い漁った日本語RPGやアドベンチャーゲームを次々クリアし、日本語をマスター(!)。数年後、日本へ移り住むと同時に、大好きな作品『夢幻戦士ヴァリス』のルーツである80年代のパソコン「PC-8801」を入手した。

それ以降、「信長の野望の88版について語れるフランス人は、僕ともう一人、探しても二人しかいないでしょう」と言い切るほど日本のレトロゲームシーンを研究するが、このとき同時に、ゲームの保存事業に関心を持つコレクターがほとんど見当たらないことに危機感を覚え、自ら先頭に立って「未来に遺すための保存活動」に乗り出したという次第。

th_11

「そこにあるのはラブマッチテニス、堀井雄二のデビュー作だから相当貴重ですよね。でも僕が一番好きなのはテレネットの作品ですけど」とつぶやくルドン理事長。もはやわかる人にしかわからないレトロ愛に引き寄せられ、志を同じくする人々がひとり、ふたりと加わり、現在は正会員17名と、20名余りのサポーターが保存活動にいそしんでいる。

80年代のフロッピーや磁気テープはすでにカビていることも珍しくない。会員たちはそんなカビだらけのフロッピーを前にしてもあきらめず、麺棒と薬品で根気良くカビを除去。棚に並べたり飾るのではなく、密封・分類して劣化を防ぎ、公開するための準備をコツコツと続けている。

「分類が間に合わず不完全な形ではあるが、なんとか今年中に、レトロゲームのアーカイブを一部公開したい」と目標を語るルドンさん。まさに前人未到の事業。しかし、この情熱があれば必ずや実現できるだろう!

・今回ご紹介した団体のデータ

名称 特定非営利活動法人ゲーム保存協会
住所 東京都世田谷区等々力8丁目
時間 事前予約制(研究者のみ)

Report : クーロン黒沢
Photo : Rocketnews24.

▼分類・整理された収蔵品
th_4
▼湿度と温度には特に気を配っている。
th_3
▼堀井雄二のデビュー作「ラブマッチテニス」激レア。
th_6
▼劣化を食い止めるため、中性紙のエンベロープに入れ替える
th_8
▼特別な保存箱に入れて密閉保存する
th_9
▼パッケージは折り目をのばすため、この状態で何年か寝かすそうだ!
th_10
▼同じ作品もバージョンごとに収集・管理していた
th_11
▼さらにレトロなカセットテープ版のソフトも保存対象である
th_13
▼昔の人はこんなものを何十ページも入力してゲームしていた
th_14
▼ゲームプログラムを記録したレコード(ソノシート)付録付きの雑誌
th_15