2m50cmの巨大なクマと佐賀旅行してきた(その3)
一夜を共にすると、やはり違うのか、朝起きるとアンジェリカの様子が変わっていた。死んだ魚のようだった瞳には光が戻り、鼻は天を貫くように上を向き、毛並みは以前よりモフモフになっている。誇り高いかつての姿を取り戻したようだ。
さて、朝食時に仲居さんにリサーチした内容によると、日本3大稲荷の1つ祐徳稲荷神社がこの近くにあるという。ここは、京都の伏見稲荷ほどの知名度はなく、最近は外国人にも人気のスポットとのこと。この情報と位置関係を加味して、本日のスケジュールは以下の通りに決まった。
【2日目のスケジュール】
1. 竹崎城址
2. 牡蠣小屋
3. 祐徳稲荷神社
いろんな一期一会をくれた鶴荘をあとにし、まずは昨日部屋の窓から見えた竹崎城址に向かう。山道をちょっと走ると、すぐに竹崎城址が見えてきた。城を再現した展望台は、宿の窓から見てイメージしていたものずっとコンパクトだ。カワイイといってもいいだろう。とにかく登ってみよう。
・ふんぬれ!
コンパクトと言えども、石垣があり3階建て。そびえ立つのは20段ほどの階段。アンジェリカと共に登る階段はもはや凶器だ。1段1段が私の足腰にダメージを与えているのが分かる。自然と「ふんぬ……ふんぬ!」と声を出してしまっていた。
2階の広間を越えると再び20段ほどの階段がある。その階段をふんぬると、やっと3階の展望所にたどり着く。眼前に広がるのは、麓の太良の街と有明海を一望できる大パノラマ。スゲェェェエエエ! 遮るものが一切ない!! 吸い込まれてしまいそうだ。
……さて、降りるか。下り階段は楽かと思っていたら全然だった。アンジェリカがいる限り、階段はすべて凶器だ。フッ、まったく手間のかかるヤツめ。……すみませんマジでエレベーターください。もう階段は勘弁してつかあさい。……しかし、こんなのは序の口だということを私は後ほど知ることになる──
・牡蠣小屋を巡る冒険2
やっとの想いで車に戻り、出発。すぐにいくつかの牡蠣小屋を通りすぎる。適当に車を走らせれば牡蠣小屋に当たる。しかも、どこも駐車場のある広い敷地だ。どれにしようか選びたい放題である。
昨日の「雄神丸」はいかにも “小屋” なところだったので、今度は大きめの牡蠣小屋に入ってみることに。遠目からでも発見できた小さいパーキングエリアくらいの牡蠣小屋にIN。
この店の店内は海鮮市場のようになっており、そこで購入した食材を外にある七輪つきの席で焼いて食べるというスタイル。一口に牡蠣小屋と言ってもいろんな種類があるようだ。水槽には、牡蠣以外にも、カニや大あさり、ひおうぎ貝などなど気になる食材がプクプクしていた。私は牡蠣、ひおうぎ貝、サザエ、カニ飯、カニの味噌汁をチョイス。
昨日ちゃんミキに習ったやり方で貝を焼いていく。貝の口が開いたらOKだ。もはや慣れたものである。まずは牡蠣。大粒で火を通しても縮まずジューシー! 次にひおうぎ貝は、外見も味も巨大なホタテにそっくりだ。口一杯に海の味が広がる。こと食に関しては佐賀無敵!!
そして、アンジェリカはやはりここでもモテモテだった。アンジェリカが間に入ることで、普段ATフィールド全開の私も佐賀の人たちと心の距離を縮めることができる。精をつけた私たちは満を持して祐徳稲荷神社へ。
・いよいよラストステージ
アンジェリカとの心の溝を埋める旅もいよいよラストステージ。佐賀空港から伸びる雄大な1本道から始まり、ちゃんミキや旅館の人々、有明海の豊かな恵みには、都会では味わえない温かさを感じることができた。これで旅も終わりかと思うと寂しさで一杯だ。そんなモラトリアムのような気分に浸っていると、2車線の道路を跨ぐサイズの大鳥居が見えてきた。
さらに進むと、永遠に続きそうな仲見世通りの入り口が見える。その入り口を横目に舐めるように車を走らせたら、奥にやっと駐車場が現れたので車をとめた。さらっと見ただけでビンビンに伝わってくるこの規模のデカさと距離を、アンジェリカを連れて歩くのはかなり厳しい。どうしたものか……。
・アンジェリカ・ランデブーモード
おんぶしてみたり、だっこしてみたり、持っている道具を全部使って楽な運び方を探す。ここまで来てアンジェリカを置いていくなんてことはできない。結果、背負子(しょいっこ)を前につけアンジェリカを乗せてだっこ状態にした上、フライハイモードの時に使用したベルトで私の体に縛りつけるというスタイルに落ちついた。名づけてアンジェリカ・ランデブーモード!
だがしかし、持ちやすくなっても重さは変わらない。駐車場から神社に続く太鼓橋を渡るだけでも足腰が悲鳴を上げる。おまけにアンジェリカが邪魔で足元が一切見えない。そんな私を神社で迎えたのは、この旅のラスボスとも言えるような存在だった(※体を痛める可能性があるので、みんなは真似しないでね!)。
・本殿は遙か上空
境内に入ると私は思わず空を仰いだ。見上げた先には神社の本殿……そう、祐徳稲荷神社の本殿は、超ロングな階段の先にあったのだ。ざっと見て300段くらいありそうだ。軽い山登りやでこれ……。ちくしょー! やってやろうじゃねえか!! 最後にアンジェリカに最高の景色を見せてやるぜ!
バランスを取りながらゆっくりゆっくり登る。1歩踏みしめるごとに悲鳴をあげる足腰。すみません……すみません……すみますみません……あまりのしんどさに誰にともなく謝ってしまう私。もう帰りたい……けど、ここで帰ったら今までと同じだ。
思えば、これまでの人生いろんなことがあった。卒業文集の将来の夢に「漫画家」と書いた小学6年生……友達ができなくてギターを弾き始めた中学時代……そして、バンドでプロを目指して上京した23歳。数々のことで挫折を繰り返した……これを登り切ったら変わることができる気がするんだ! そうだろ!アンジェリカ!
すると、本殿が見えてきた……あと3段……2段……ふんぬれ! あと1段で大金持ちになれるし戦争もなくなる!! うおおおお! いっけェェェエエエ!!! ……本殿からの景色を見た瞬間、アンジェリカは泣いていた。
……いや、泣いているのは私だった。そして、その時すべてを理解した。私はアンジェリカを通して自分を見ていたのだ。話さなくなったのも、目の輝きを失ったのも、すべては鏡に映った私自身だったのである。祐徳稲荷神社の本殿から見渡す絶景は、忘れていた大切なものを思い出させてくれたのだった。
あなたは子供の頃どんな夢を描いていただろう? 様々な挫折を経験するうちに固まってしまった「こうでなければならない」という常識。その壁にぶつかり、へこたれそうな時は大事な人と佐賀に行ってみるといい。荒唐無稽だが自由だったあの頃の自分に出会うことができるはずだ。少なくとも私はそうだった……。
▼宿であった夫婦。気さくに話かけてくれた!
▼ちゃんミキの笑顔は一生の宝物となった……
▼宿のおかみさん。アンジェリカを宿に入れようとした際、「動物の持ち込みは禁止です」って言われ、後に冗談だと知る。
▼ちゃんミキのカキ小屋に遊びにきていた子供。めっちゃかわええ!
▼なお、旅が終った後メールを見ると、航空券が当たっていたことが判明。マジかよ!
▼アンジェリカとの旅はまだまだ終らない!?
▼佐賀、マジで最高!