職:そうですね。師匠は職人的な感覚じゃなく、すごく芸術家の感覚で刀を作るんだよ。字を書かせても、絵を描かせても上手い。何をやらせても常人レベルを超えていて、いろんな魅力があったんだよ。いわゆる刀だけしかできない人間じゃなくて、幅広く教養があった。

それが相まって、創意創作になっていると思う。仕事も作品も斬新。それが魅力的だった。結局は自分が作る物だから、周りのことを気にする必要はない。それで師匠に就いたんだよね。

記者:なぜ周りの人たちにそこまで反対されたのでしょうか?

職:刀の世界って、すごく保守的なんだよ。相撲部屋と同じで。一門(いちもん)意識が強い。今でもそうだけど、日本の刀鍛冶の世界には「宮入一門」「月山(がっさん)一門」「隅谷一門」の三つの大きい流派があって、直系が他の流派にいくっていうのは、やっぱり反対するよ。

記者:過去に事例はあったのでしょうか?

職:ないない。

記者:画期的だったんですね。

職:それは本来、許されないことだから。

記者:隅谷師匠はどう対応されたのでしょうか?

職:師匠は受け入れてくれたよ。私が弟子入りを申し出たということは、ある意味宮入一門が自分の技術を認めたことになるし、師匠にとっては悪いことではなかったから。

▼宮入さんが作った紫牙撥縷把鞘刀子。正倉院に伝わる刀子の復元も手掛ける
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▼刀子とは奈良時代の小刀で外装にさまざまな意匠をほどこし貴族の間でお守りとして用いられていた
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記者:ご自身が作られた刀を、将来の持ち主の方にどう使われてほしいですか?

職:家に伝わるならば、家のお守りとしてずっと伝えてほしい。

記者:お守りというのは邪気から守るとか、そういったことですか?

職:そうそう。三種の神器は勾玉(まがたま)、鏡、刀でしょ。皇室でも皇族にお子様が産まれた時に、「賜剣(しけん)の儀」という天皇陛下が刀を授ける儀式がある。あれは健やかな成長を願ってやるものなんだ。

記者:極端な話、これから刀の知識や文化が広まって、日本の全家庭に家のお守りとして刀を持ってほしいなど、理想の刀の広まり方はありますか?

職:できるだけ多くの人に刀に興味を持ってもらいたいのと、僕らが後継者を育てても、若い連中が食っていけなければ、その後の時代が育たないから、若い連中もバックアップできるような体制を作り、刀匠人口が増えてくれればいいなと思う。

記者:刀鍛冶をサポートする制度ということですか?

職:そうだね、国の制度も対応していってくれれば一番いいんだけど。海外への道でも開ければ、若い連中も楽になるから、海外にも目を向けて刀鍛冶の世界をPRできればいいなと思う。

▼刀の材料となる鉄を四角い形にしていく”まとめ”という作業を見せてくださいました
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▼火花の温度は約1300度。近くで見ているだけで、すごく熱い!
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記者:海外から注文はあるんですか?

職:ありますよ。

記者:どういった方が多いのでしょうか?

職:やっぱり海外の愛好家。

記者:どこの国が多いですか?

職:僕の場合は、スウェーデンやデンマーク。北欧が多い。

記者:北欧でも流行っているんですね。

職:たまたま北欧に刀が好きな人がいて、その人が刀の会を作っているの。その人を通じて、何本か頼まれてる。

記者:海外の愛好家というのは、コレクターに近いのでしょうか?

職:そうですね。

記者:そういった海外の方たちは、日本の文化を知った上で刀を欲しいと思っているのでしょうか?

職:彼らは日本に来て、刀の勉強をしっかりしてる人たち。日本人より刀の見方を知ってるよ。それで向こうで会を作って、ちゃんと刀の勉強をしてる。
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▼機械のハンマーでしっかり叩いて、成形していく
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記者:最近、若い女性の間で「刀剣乱舞」っていう、刀を擬人化したゲームがありますが、それについてはどう思われますか?

職:刀の認知度が広がるのはいいと思う。そこから例えわずかでも、本当の刀に興味を持って勉強してくれるような、そんなきっかけを作ってくれれば良いと思う。例えば寿司と同じで、日本の寿司の形があるけど、それが海外に出て色んな形に変化してるでしょ。それはそれでいいと思う。

そして日本の本当の寿司が食べたくて、日本に来る人もいる。さらには実際に日本の寿司を食べて、本当の寿司のうまさに驚くってこともあるから。だからそういった形で、刀を知る最初のきっかけになってくれれば、いいかな。

記者:ゲームをやられたことはありますか?

職:ない。

記者:生活の中でテレビを見ることは?

職:NHKのニュースぐらいだね。バラエティ番組とかは見ないね。

記者:娯楽というと、映画とかは観られるんですか?

職:めったにない。

記者:じゃあ息抜きは?

職:リビングで酒飲むことかな。

記者:すごい!

職:なんで?

記者:なんだか仙人みたいな。本当に煩悩なく、生活されていて。

職:だってここにいれば、何も必要ないから。

記者:逆に、ストレスとかはたまらないんですか?

職:うん、たまらないね。欲望もないし。東京あたりだと、いろんな誘惑もあるからね。

記者:欲しいものもないのですか?

インタビューの続きは次ページ(その4)へ。


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