kabuki

2013年9月、東京・新宿区で「客引き行為禁止条例」が施行された。実はこの条例に罰則はなく、もし条例に違反していても、注意することしかできない。施行当初は、歌舞伎町の客引きの数も減ったように見えたのだが、1カ月と経たないうちに、すぐに元通りとなった。

12月の宴会シーズンに入ると、普段よりもキャッチの数が増えたようにさえ感じられる。特に黒人のキャッチが通りの入口に陣取っており、物々しい雰囲気がしているのは気のせいではない。ある日のこと、私(記者)は驚くべきキャッチに遭遇し衝撃を受けた。これから飲み会で出かける機会のある方は、参考にして十分に注意して頂きたい。

・何回声をかけられることか……

時々足を運ぶビールバーがある。そのお店は歌舞伎町の、まさにど真ん中、もっとも繁華な通りにあるため、店にたどり着くまでに何人ものキャッチに声をかけられる羽目になる。その日、マスターにちょっと変わったビールを紹介してもらったのだ。「そこの酒屋さんに売ってるよ」と教えてもらったので、帰りに立ち寄ってみることにした。

・キャッシュで400万

バーを出ると、やはりすぐさま「先輩! お疲れ様です」とか「社長、もう一軒どうですか?」と声をかけられる。いちいち相手にしても仕方がないので無視して歩いていると、キャップを被った男が近づいてきて、こう言ったのだ。

キャッチ「400万、キャッシュで400万ある?」

は? 今まで何度となくキャッチに声をかけられたことはあるが、こんなことを言う男は初めてだ。思わず「は? ナニ言ってんの?」と聞き返すと、もう一度「キャッシュで400万ある?」と尋ねてくる。

いくら何でも現金で400万円を持ち歩いている人は、そういないだろう。まして、こんな物々しい街で、よほどの事情がない限り、そんな大金を持っているはずがない。

・大物女優「U」

意味も分からずキョトンとしていると、彼は追い打ちとばかりに、とんでもないことを言い放ったのだ。

キャッチ「U(大物女優)とイケるよ」

ウッソーッ!! マジでーーッ! あの「U」とーーーッ!! ……と興奮する訳がなかった。あまりの衝撃に言葉を失って、何も言えない。「なんでやねん」と心のなかでツッコむのが精いっぱいだ。

その「U」とは、誰もが知っている国民的な女優である。某ボーカルグループのリーダーだった男性と結婚し、人気ドラマやCMに出演している人物なのである。キャッチとの接点は完全にゼロだ。どう考えてもつながらない。どうやってそんな言葉を信じたらよいのか見当もつかない。私の頭のなかには疑問しかなかった。

・キャッチに抱いた疑問

1.私が400万を持っているように見えるのか?
2.貯えがあったとして、キャッシュで持っているように見えるのか?
3.通りの真ん中で大金の受け渡しをするつもりだったのか?
4.大忙しの大女優が、キャッチに仕事を融通してもらわなければいけない理由があるのか?
5.このキャッチと「U」の距離が、天と地ほど離れているのは気のせいか?
6.400万円は超テキトーにつけた値段なのではないか?
7.このキャッチは暇なのか?

などなど……、疑問は尽きない。私はあきれ果ててしまって「何を言ってんだ!」と、嫌悪感をあらわにして突き放してしまった。これはもはや、ぼったくりとかそういうレベルではなく、出まかせを言っているに過ぎない。投げやりか! と突っ込みたい気持ちをグッとこらえてその場を立ち去った。

今回はこれで済んだが、口車に乗せられてしまう人もいるかもしれないので要注意だ。幸い、私は貧乏なので、キャッシュで400万と言われても用意できないし、用意できてもその先の生活が今以上に困窮すること間違いなしだ。お金にゆとりのある人は騙されてはいけない。知っている芸能人の名前が出てきても、「なぜキャッチが仕事をとってくる必要がある?」と疑って欲しい。

もっとも有効なのは、相手にしないことだ。この時期は普段に比べて、はるかに性質の悪い輩もウヨウヨいるようなので、とにかく用心してほしい。

執筆:元ほぼ津田さん(佐藤)
Photo:RocketNews24.