ポルポト政権時代、国中の知識人が皆殺しにされ、文化と名のつくもの全てが焼き尽くされた、カンボジアの首都、プノンペン。

内戦が終わり平和が戻った今、町の書店は、あらゆる文化を吸収しようと貪欲に目を輝かせた若者たちで熱気ムンムン……とまではいかないが、まあ、そこそこ賑わっている。

そんな、プノンペンの目抜き通りにそびえる立派な本屋さんで今一番売れているのは、何を隠そう「表紙にアニメ調のイラストを多用した若年層向け小説」──そ、それってもしかして、カンボジア版ライトノベル?

ご覧の扉絵がアニメ調かどうかの判断は後世の歴史家に委ねるとして、かなり特殊なタッチであることは間違いない。

カンボジアのラノベは中身こそモノクロ60ページ程度。文字オンリーの地味な小冊子だが、表紙だけは極彩色のわけのわからないイラストと相場が決まっていて、こんなものが百種類も平積みされていた日には、表紙から漂う毒気に頭クラクラ。

絵師の皆さん、小説の内容をたった一枚の扉絵で表現しようとがんばっているようだが、がんばりすぎて何が何だかわからない不気味な構図が生まれ、書店の一角に謎めいたブラックホールを形成。人々が吸い込まれてゆくという図式だ。一体どんなストーリーなのか、中身が気になって仕方ない。読めないけど……。

残念な話だが、近頃、日本もどきのアニメ調イラストを描く扉絵師がじわじわ現れ、私は密かに、クメール伝統の画風がすたれつつある状況を危惧している。キムチが世界遺産なら、私はこれも立派な世界遺産だと思うんですけど。どうですか?
(取材・文=クーロン黒沢

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