アメリカ、ラスベガスへ数年前に行った時の話である。ラスベガスと言えば、カジノやショーなどが有名で、街全体がまるで、ディニーランドのようなネオンに包まれている、幻想的で楽しい都市だ。

そんなラスベガスで私は騙されかけた。もちろん、カジノでもないし、どこかの飲み屋でスリにあったことでもない。結論からいえば、日本で申し込んだ旅行代理店と提携している、ラスベガスのとある旅行代理店にだまされかけたのだ。日本で旅行代理店のツアーに申し込み、一方、現地では違う会社の代理店スタッフが案内してくれることはよくあることだ。

さて、ラスベガスからは距離や時差があるものの、レンタカーやバスなどでグランドキャニオンに行くことができる。だいたい、車で片道5時間(時速150km程度で)走れば、美しく広大なあのグランドキャニオンを拝めるのだ。私は、日本で事前にガイド本を読み、レンタカーで目的地に行けることを頭に入れていた。だが、現地の旅行代理店の案内人のキャサリン(女)は、ラスベガスで、こう私に話しかけてきた。

「アメリカの大手レンタカーは1日の走行距離数が限定されています。だいたい1日150マイルで、150マイルを超えた場合、1マイルにつき1ドル追加金が取られます。150マイルですとグランドキャニオンまでは行けませんね。また、コンパクトカーやセダンでは危険ですよ。道が舗装されていませんから。通常4WDで行きますからね。

今グランドキャニオンは天候が悪く、やはりレンタカーではおすすめできません。私たちの企画するバスツアーはどうでしょうか?1人130ドルです。所要時間は9時間です。食事が1回つきます。16時半までに、参加するようでしたらご連絡ください。」と。

うーむ、本やインターネットで調べた情報とは全く違うのだ。しかもこの1人130ドルというのは、レンタカーと比較したら高すぎる。私たちは友人4人で来ていたので、全部で520ドルも取られることになる。「これはおかしいぞ!」ということで、片言の英語で、レンタカー屋さんに訪れたのだ。すると、レンタカーのスタッフはこう話してくれた。

「走行距離は無制限。多分、問題なく、普通の車で行けると思う。天候諸事情はわからないけどな。値段は保険料含め99ドルくらいやで。」と。

そのスタッフは途中から愛想尽かしていたが、それにも負けず、何度も言い方を変え、なんとか聞きたいことを聞くことができた。ただし、グランドキャニオンまでの道が舗装されているかどうかまでは聞けなかったので、私はあえて、現地の案内人であるキャサリンに電話して聞いてみた。

「もしもし」

キャサリン「あ~さっきの方たちですね?私ジャスミンです。」

「ジャスミンさんですか?え~と、レンタカー屋に行って聞いてみたんですけど、走行距離の限定もないし車でも行けそうなんですけど。」

キャサリン
「そうですか~。」

私(心の声)「そうですか、じゃないだろう!!!」

「道は舗装されていますか?」

キャサリン「大丈夫ですよ。舗装されてます。」

私(心の声)「さっきは、舗装されていないって言ってたやんけ!!」

私は、「わかりました」の一言で電話を切った。もうそれ以上何も話す気力はなかったからだ。おそらく、私たちは、英語も話せない、ただのカモだと思われていたのだろう。

そして、驚くべき事実を現地の日本人から聞くことになる。なんと、キャサリンが案内しようとしたグランドキャニンオンは「グランドキャニオン・ウエストリブ」だったのだ。これは、基本的に地図に存在しない観光スポットで(当時は)、ラスベガスからも片路2、3時間で行けるスポットらしい。地層の深さも本場のものよりも約3分の1程度とのこと。本場のグランドキャニオンまで行けない場合に、このグランドキャニオンに行くのだろうか。

ここで、改めてまとめてみると、要は、キャサリンは、自社が企画するツアーに参加させるため、巧みにレンタカーで行くことを阻止していたのだ。やはり、ギャンブルの街「ラスベガス」は恐ろしい都市なのか。

もし、皆さんも、ラスベガスからグランドキャニオンに行く際は、現地の旅行代理店に騙されないように気をつけて頂きたい(グランドキャニオン・ウエストリブでも行ったら行ったで今ではネタにはなりそうだが…)。