急勾配の険しい山肌に、古ぼけた家々がしがみつくように密集するレトロな集落「九イ分(きゅうふん)」。
あの「千と千尋の神隠し」の舞台とも言われ、日本人の間でも台湾旅行の定番スポット。台北から列車とバスを乗り継いで約2時間。迷路のような石畳の路地にそって、ひなびた商店が軒を連ねている。
今回ご紹介する「泥人呉」という名の奇妙な家は、この「九イ分」の奥の奥。どん詰まりの急坂に面した一角にひっそりと建つ私設の博物館。革の面をつけた殺人鬼が隠れていそうな、薄気味悪い廃屋風オンボロ家の入り口で、よれよれのおっさんがふたり、しかめっ面で客をひいている。
普通の人ならまず間違いなく素通りするところだが──。実はここ、九イ分で一番……。いや、台湾でもダントツのおもしろスポットなのだ!
館に入ってびっくり。壁という壁が、館長が粘土でこさえたというリアル(?)・モンスターの面でびっしり埋め尽くされている。
全てのモンスターにはご丁寧にひとつひとつ名前がつけられ、顔中から無数のタバコが飛び出た面には「煙鬼」、頑固顔の面にはそのまんま「頑固鬼」などと殴り書きした紙きれが貼りつけてある。その数ざっと数百……。よくネタが尽きないもんだとまずは感心。
よく見ると、丁寧に作られた作品もあれば、テキトーに作ったっぽいもの、ヤケクソなもの──完成度にムラはあるが……。
これらはすべて、館長の妄想を実体化したオリジナル。国が違えば人間国宝、台湾では単なる変わり者の館長は、とにかく挙動不審で落ち着きがなく、迷い込んできた客に次々と声をかけ、主要な自信作を猛スピードで解説。どんだけ速いかというと、速すぎてピントが合わないほど。
気に入ったら1500元(約4500円)でオリジナルの面を作ってもらうことも可能。お土産用の「オリジナル怪人ストラップ」も一個300円で発売中。こちらも中々の出来だ。
近頃ゲームとご無沙汰な私だが、館長のデザインしたモンハンならやってみたいとマジで思いました。
(取材・文・写真=クーロン黒沢)