アジアの裏路地にひろがる深淵を検証すべく、世界を旅して15年。

タイ・バンコクで「コピーゲームの殿堂」といえば、中華街の果てにあるドブ板市場「サパーレック(サパーンレック)」が世界的に有名だが、そのサパーレックと地続きに繋がった四階建ての小ぶりな「タワー」はあまり知られていない……たぶん……。

この建物。人呼んで「ピロムプラザ」は、かつて中古カメラ屋の集まる硬派な雑居ビルだった(この界隈は中古カメラ・双眼鏡の店が多い)。しかし今では階段脇に『テレビマガジン』の表紙が誇らしげに飾られ、崇め奉られていることからもわかるように、カメラ屋は隅に追いやられ、主にフィギュアだの雑貨だのトレカを扱うマニア向けショップが台頭。サパーレックとまた一味違った「趣味の世界」を形成している。

秋葉原でおなじみのレンタルショーケース&委託販売ショップも、狭いフロアで数店舗が営業中。アクリルケースにタイ語のレア(たぶん)マンガが恭しく陳列されている様を見るに、15年前に初めてバンコクを訪れた際、1冊2バーツで大量に買い漁った現地作家の気色悪い怪奇マンガも、今ここに並べりゃ1冊100バーツくらいで売れそうな気もしてきて、あんとき4万冊ほど買って寝かしておけば1200万円に大化けしたのに……これって株よりボロいじゃん!と、少し切なくなる私。

最上階はトレカを扱うカードショップが広場をコの字に取り囲み、中央の広場に置かれた折りたたみテーブルでは、子供たちがカードバトルに熱を上げ――否、ヒゲ面のおっさんも……。よく見りゃスキンヘッド&タトゥーの白人が、小学生とカードバトルしているよ。我が国なら通報されること請け合いの風景が和やかにひろがり、興奮の面持ちでそんな様子をカメラに収めていたその時だった!

「アッ……アー・ユー・ジャパニーズ?」

こ、殺される! 後頭部に噛み付かれたようなショックでハッと振り返ると、カード屋の主人が満面のほほえみをたたえ、店の奥から手を振っていた。

違法商品だらけのサパーレックが何もかも殺伐としているのに比べ、この異常な親日的態度とぬるさは何だろう? まるでオアシスだ……。

 ところがである! しばしの和やかムードからわずか5分後、このビルの最下層で積年のトラウマを蘇らせるとんでもないショップを発見、驚愕する私であった。(来週につづく)
(取材・文・写真=クーロン黒沢

▼これがピロムプラザだ!

▼レンタルショーケース。

▼崇め奉られている『テレビマガジン』。

▼カードバトルに熱中する子ども(?)たち。

▼スキンヘッドの西洋人カードバトラー。