とある服飾デザイナーさんと話していた時のこと。


その人が働いているのは、オーダーメイドで衣装などを作ってくれるお店である。


お客さんは私のような個人はもちろん、企業も多い。ゲームショーなど、大きなイベントの前になると、とても忙しくなるようなお店だ。


私はそこで働くデザイナーさんと仲良くなった。


・AIと一緒に作った「理想のマスク」

きっかけは、私がポールダンス用の衣装をオーダーしたことだった。


それはもう見事な出来で、すでに2ステージほど、その衣装でパフォーマンスした。


さらなる進化や変化を狙い、プロレス的なマスクを作ってもらおうとお願いしに行った。


その時、私は自分で作ったマスクのデザイン案を持っていった。


といっても、完全に自分だけで作ったわけではない。


AI(まあ、チャッピーなのだが)と相談しながら、どんどんブラッシュアップして作ったデザインである。


自分ではかなり気に入っていた。


ただし、完璧ではない。


よく見ると細かいところに矛盾がある。「これ、実際にどうやって作るんだ?」みたいな部分があるのだ。


でも、それは私自身も理解していた。


AIが出した絵をそのまま現実にできるとは思っていない。


「ここは矛盾しているのも分かっています。実際には作れないと思います。でも、イメージとしては大体こんな感じです」


そんな説明をしながらデザインを見せると、デザイナーさんも「なるほど」と理解してくれた。


そして実際にマスクを作ってもらうことになったのだが、その時、興味深い話をしてくれた。


・『AIのデザイン』を持ってくる客が増えている

最近、私のように「AIで作ったデザイン案」を持ってくる人が非常に増えているらしい。


ところが、それがデザイナーさんにとって、あまり好ましい状況ではないという。


最初、私は「AIに仕事を取られるからかな?」と思った。


しかし、そうではなかった。


「羽鳥君は、その矛盾点に気づいてるから全然いいんだよ」


デザイナーさんはそう言った。


「でも、それに気づかないで持ってくる人が非常に多いんだ」


なるほど。


では、矛盾点に気づかないままAIのデザインを持ってくると、何が起きるのか。


ここからの話が非常に興味深かった。



・AIは、ものすごく自然に「嘘」を描く

お客さんやクライアントは、AIで「こんなのが欲しい!」というデザインを作って持ってくる。


その時点では、本人の中では100点なのだという。


「これを作ってください!」


目を輝かせながら持ってくる。


しかし、AIは嘘をつく。


ものすごく自然に、さりげなく、嘘を描く。


服でも小物でもマスクでも、AIは「どうやって作るのか」まで完全に理解して絵を出しているわけではない。


ところがデザイナーさんたちは、実際にそれを作らなければならない。


素材はどうするのか。

どう縫うのか。

どこで固定するのか。

人間が着られる構造になっているのか。

強度は大丈夫なのか。


実際の制作工程まで考えながら打ち合わせをする。


そうすると当然、AIが描いた「嘘」が見えてくる。


・100点だった「理想」が、どんどん崩れていく

「この部分は、このデザインのようには作れません」


「実際にはこうなります」

「ここは構造的に無理です」


そうやって、現実を説明していかなければならない。


だって仕方がない。


AIが描いたものの中には、そもそも現実には存在できない「幻」が紛れ込んでいるのだから。


ところが、その説明をするたびに、さっきまで輝いていたお客さんの目が曇っていくのだという。


「そうなんですか……」


どんどん残念そうな顔になっていく。


テンションが落ちていく。


・100点、80点、70点、そして50点……

最初は100点だった。


しかし打ち合わせをして、現実に作れる形へ落とし込んでいくうちに、


100点。

80点。

70点。

50点……。


どんどん下がっていく。


場合によっては『じゃあ、やめます』とキャンセルに至ることだってあるのかもしれない。


デザイナーさんは、それが本当にしんどいのだと言っていた。


私はこの話を聞いて、なるほどなぁと思った。



・昔は「逆」だった

以前は逆だったのだ。


まず、お客さんが「こんなものを作りたい」と相談する。


そこからお互いに意見を出し合う。


そしてプロのデザイナーさんが、それを形にしてデザイン案を描いてくれる。


私も以前、それをやってもらったことがある。


その時は本当に感動した。


「こんなに考えてくれているんだ」と思ったし、私の頭の中にはまったくなかったアイデアまで提示してくれた。


「デザイナーさんって、すげえな」


そう思った覚えがある。


・50点が100点、そして150点になる仕事

つまり昔は、打ち合わせをすればするほど「プラス」になっていったのだ。


最初は50点くらいのぼんやりしたイメージだったものが、プロと話すことで70点になり、80点になり、100点になっていく。


しかも、そのデザインは実際に作る人が考えている。


当然、現実に作れるデザインである。


そこから実物が完成した時、


「うわ、想像していたよりすごい!」


となれば、100点が120点、150点になることだってある。


デザイナーさんにとって、それが楽しかった。


それが、やりがいだった。


・AIによって「100点から始まる」ようになった

ところがAIが登場して、順番が逆になってしまった。


いきなり100点の「理想」が出てくる。


しかも一瞬で。


お客さんは、その100点の画像を見て目を輝かせる。


「これが欲しい!」


しかし、そのままでは現実には作れないことがある。


そこでプロが現実を説明する。


「ここは無理です」

「こう変更しなければ作れません」

「実際にはこうなります」


すると、


100点が80点になり、

60点になり、

50点になり、

完成した時には30点に感じてしまうことすらある。


打ち合わせをすればするほど、マイナスになっていく。


これは、たしかにキツい。



・プロが「AIの理想」を現実に戻す/h3>
AIが作った「嘘」に目を輝かせる。


そして、その嘘が現実になると信じて持ってくる。


プロが事実を伝えると、意気消沈する。


デザイナーさんが「本当にやってられない」と嘆いていた理由が、私にも少し分かった気がした。


・「羽鳥君は分かってるからいいんだよ」

では、なぜデザイナーさんは、そんな話を私にしてくれたのか。


おそらく、私が持っていったデザインの過程まで説明していたからだと思う。


最初にAIが出したデザインはこうだった。


でも、これは現実には無理。


だから、こう落とし込んだ。


さらに「ここはつまらないから、こうしたい」と修正した。


そんな流れまで含めて提示していた。


つまり私は最初から、AIが出したデザインがそのまま現実になるとは思っていなかった。


矛盾点も分かっていた。


そのうえで、できる限り現実的なところまで落とし込み、最後はプロであるデザイナーさんに相談した。


だから、


「羽鳥君は分かってるからいいんだよ」


と言ってくれたのだと思う。


・AIは「完成形」ではなく「道具」

もちろん、「AIでデザインを作って持っていくな」という話ではない。私自身、それをやっている。


大切なのは、AIが描いたものを「完成形」ではなく「たたき台」として見ることなのだと思う。


AIが出すデザイン案は、ものすごく参考になる。私自身、実際に使っている。


自分の頭の中にあるイメージを可視化したり、アイデアを膨らませたりする道具としては、とてつもなく便利だ。


でも、それは「現実」ではない。


現実には存在できないものを、あたかも存在するかのように描くこともある。


それを理解したうえで使うならいい。


しかし、AIが出してきたものを「正解」や「完成形」だと思い込み、信じすぎてしまうのは危険なのだと思う。


・AIを信じすぎてはいけない

どこまでAIを信じるのか。

どのようにAIを使うのか。

どのようにAIと付き合っていくのか。


AIは、ものすごいスピードで進化している。


だからこそ私たちは、AIが出してきたものが本当なのか、現実なのか、自分自身で見極めながら生きていかなければならない。


信じすぎてはいけない。


どれだけすごくなっても、AIはあくまで道具なのだから。


【完】


執筆:GO羽鳥
Photo:RocketNews24

▼そのデザイナーさんが作った衣装でのパフォーマンス

▼今後、どこかのステージで、そのマスクが登場する……かも?