ごく普通の大学生が木下サーカスに入団して10年。気づけば33歳、中堅団員である。裏方も舞台も経験したことで、サーカスの世界をより深く理解できるようになっていた。

舞台に立つ者も、裏で支える者も、役割は違えど優劣はない。テントと共に各地を巡り、同じ場所で寝て同じ舞台を作り上げる……そうして生きている我々は、皆「木下サーカスの団員」であり、ひとつの家族だと思えた。

もしかすると、こういう思いこそが「世界一のサーカス」なのかもしれない。ともあれ今回は、そんなサーカス団員たちの「ある1日」を振り返りたい。

・サーカス団員の1日

何度かお伝えしているが、団員の住まいはテント裏のコンテナ部屋。ドアを開ければ目の前が職場なので通勤時間はゼロ。これは大きなメリットだが「仕事とプライベートの区別がない」とも言える。とはいえ、慣れてしまえばこの環境はかなり楽だった。

朝は共用の炊事場で顔を洗い、身支度を整えたらそのまま会場へ。平日は2回公演で1回目は11時開演。だいたい9時過ぎには仕事が始まる。ちなみに土日は3回公演(現在、土曜日は2回公演)で、もう少し朝が早い。

出勤後はそれぞれの持ち場で準備作業を行う。入場待ちのお客様のチケットを確認して列の整理をし、会場内の掃除をして、売店の開店準備を進める。わたがし機にザラメを入れ、音響照明機材の電源を入れてチェックも行う……やることは意外と多い。

ある程度準備が整ったら、入場待ちのお客さんにパンフレットを立ち売りしに行くのが私の役目だった。「プログラムを1000円で販売していまーす!」と声がけをすると、開演までの暇つぶしに買ってくれる方がちらほらいる。


・入場開始

点呼を終え、開演時間の約30分前になったら入場開始。音響照明ブースから入場曲を流しながら、客入りの様子を確認する。満席に近い場合は、開演時間を少し遅らせることもある。

開演10分前のブザーが鳴ると、オープニングショーに出演する団員たちは舞台裏へ。

客席では「お直り」と呼ばれる案内スタッフが、自由席のお客さんに「もう少し詰めてください」と声をかけていく。というのも、自由席はベンチシートなので、1人でも多くの人に入ってもらうためにはお客さんの協力が欠かせないのだ。


・開演

そしていよいよ開演。ついさっきまで客席案内をしていたスタッフが、売店にいたスタッフが、何事もなかったかのようにステージに現れ、華麗な芸を披露する


オープニングではトランポリンや吊りロープのショーがスピーディーに展開され、人間が虎に変わるイリュージョンも飛び出す。



目の前で繰り広げられる離れワザの連発に、はじめて見る人は圧倒されることだろう。



アメリカンクラウンが幕間をつなぎながら、その後も七丁椅子、フラフープ、動物のショー、日本古典芸、イリュージョン、空中大車輪と、息つく間もなく演目が続く。



ちなみに日本古典芸は “交代芸” なので、何度も通わないとすべての演目を見ることはできない



約20分の休憩を挟み、後半はオートバイショー、ジャグリング、空中ブランコ……会場の熱気はフィナーレまで加速しっぱなし。



・お弁当

そんな中、団員たちは合間に休憩を取って弁当をかき込む。全国を回るから公演地ごとに弁当屋も変わり、たとえば那覇公演なら沖縄料理が出たりと、その土地の個性が味わえるのが密かな楽しみだった。

とはいえ、弁当を食べずに自炊する先輩もいるため、だいたい弁当は余る。もったいないので……あまり大声で言うことではないが、基本的に私は弁当を2個食べていた。なんなら夜も余っている弁当で済ますことが少なくなかった。とにかく昼は2個派。

というのも、博士キャラの先輩・保坂さんが「弁当を食べない派」だと認識していたため、1個は確実に余るだろうという緻密な計算に基づいた行動だった。

しかし1度だけ、豪華なウナギ弁当が出た日に、私はいつも通り2個平らげたのだが……後からやってきた保坂さんが「あれ、うちの弁当がない」と呟いたのである。あの時ばかりは本当に申し訳ないことをしたと今でも反省している。


・公演後

公演が終わると、客席の掃除、駐車場出口の誘導、売店の精算などを手分けして行う。その後はフェンスの施錠、機材のメンテナンス、牧草の運搬、次の公演地へ移動する「場越し」の準備などを進める。

作業が落ち着けば、各自の自由時間だ。練習に励む者もいれば、買い物に出かける者、一番風呂に直行する者もいる。

風呂掃除は当番制で、当番の日は21時頃に掃除を始めるのがルールだ。遊びに出かけて遅い時間に掃除をしているのがバレたら(団体生活なのでほぼバレる)翌朝先輩にガチギレされる。

当番でなければ、先輩と飲みに行ったり、後輩を連れて夜の街へ繰り出したりする。気づけば各地に行きつけの店ができ、休みの前日には少し遠出をしてでも、昔お世話になった居酒屋へ顔を出す機会が増えていた。


・人生を変える出会い

札幌から那覇まで全国を転々とする生活。広島、岡山、大阪、名古屋といった定番の都市は約4年周期で巡っていた。

最初の頃こそ、休日には道頓堀や厳島神社などの観光地を楽しんでいたが、2周、3周とするうちに、いわゆる “ザ・観光地” には行かなくなる。


そんな私が行き着いた新たな趣味が、ガイドブックには載っていない “穴場的な珍スポット巡り” だった。当時は今ほどSNSが発達していなかったので、怪しげなネットの情報を頼りに日本全国に潜む謎スポットを探索しまくっていたのである。



そして、そんな情報収集の中で出会ったのが……


ロケットニュース24だった。



・木下サーカス磐田公演開催中

──というわけで、今回はここまで。木下大サーカス静岡・磐田公演は「ららぽーと磐田北駐車場 特設会場」で開催中だ。

駐車場や売店にも、実はステージに立つ団員がいる。舞台に立つ者も、裏で支える者も、すべての力が合わさってサーカスは成り立っているのだ。そんな団員たちの姿に注目してみても面白いかも。それではまた!


参考リンク:木下サーカス
執筆:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.