
木下サーカス北九州公演は6月30日に千秋楽を迎えた。今度は愛知県に場所を移し、7月13日から名古屋公演が始まる。サーカスではこの約2週間の引っ越し作業を「場越し」と呼ぶ。大テントも団員たちの住居も “場所が丸ごと引っ越す” から「場越し」だ。
つまり約3カ月に1度のペースでサーカス団員たちは「場越し」を行っている。感傷に浸る間もなく、最終公演が終わった次の瞬間にはもう団員たちはヘルメットをかぶり、作業着に着替えて会場の撤収作業を開始。
この約2週間で撤収・移動・設営・消防検査・リハーサル等を行って開幕初日! と、超ウルトラハード引っ越しを行うことになるのだ。では、入社間もない新人時代の私はどんな風に過ごしていたのかというと……
別れを惜しんで飲みまくっていた。
・感傷に浸る間がないことはない
約3カ月に1度のペースで場越しを行うということは、出会いと別れも3カ月に1度のペースでやってくる。出会いと別れに慣れていない私は、サーカス団員としてまだ半人前だった。
どんなに仲良くなっても約3カ月で訪れる別れ。それなら誰とも深く関わらない方が、自分も相手も傷つかずに済むのでは……
「見知らぬ町の 古い居酒屋で 柳葉魚(ししゃも)サカナに ひとりのんでます」
佐良直美のヒット曲『ひとり旅(1976年)』のような生き方もいいだろう。自由を愛し束縛を嫌うスナフキンのような “旅人キャラ” に変貌していく団員もゼロではない。
しかし大学を卒業して間もない20代の若者にとって、出会いと別れは青春そのもの。別れを惜しみ再会を誓うべく、移動日の前日にはいつも盛大な宴の中にいた。
・場越し
場越しの仕事については別の機会に詳しく紹介するが、ざっくり言うと、強靭な体力とメンタルが必要とされるガテン系の肉体労働。移動をくり返すうちに仕事の流れがだんだんと分かるようになるものの、文系大卒の新人なんか足手まといでしかない。
もちろん人にもよるだろう。ただ、要領が悪い私はマトモに番線も巻けないし(鉄線を締め付ける作業)、ケーブルの巻き方も分からないし、1人で重たい荷物も運べない。
博士キャラの先輩・保坂さんに質問しても「そのくらい自分で考えようね(ニヤッ)」と言われるだけ……クソがっ! 保坂さんが意地悪なのではない。私があまりにも使えないから早々に見限られただけ。でもウゼエエエー!
ちなみに保坂さんは「電気チーム(舞台の照明やコンテナハウスの電気設備等を担当)」のリーダーを担いながら、空中ブランコの飛び手としても活躍する渋い先輩。
博士のような見た目とマラソン選手のような引き締まった体型で「一反もめん」のようにヒラヒラと空中ブランコを飛ぶのが特徴だった。そんな保坂さんとの熊本旅行「阿蘇で老夫婦を救出編」はまた別の機会にお届けしたい。
・移動日前日のドラマ
とにかく何が言いたいのかというと、朝から晩まで引っ越し作業をするから汗をかいて泥まみれになるし、仕事が分からないから余計に疲れる……しかし!
そんなの関係ねぇぇぇ!
くり返しになるが、大学を卒業して間もない若者にとって、出会いと別れは青春そのもの。本当にたくさんの出会いがあり3カ月という短い期間でも涙を流す別れを何度も経験した。たとえば……
2005年の沖縄公演時には、読谷村のバーで毎週のように旅人たちと朝まで飲み明かしていた。決まった飲み仲間といえば、地元のタジーさん(30代)、米兵(20代)、戦争反対を主張するモデル風の男(20代)。
モデル風の彼はヤンチャな見た目ながら、迷彩パンツに白ペンキで「×」とペイントすることで戦争反対を主張する意外にも芯の強い男。英語も話せる “隠れ優等生キャラ” で人当たりもよく、米兵ともすぐに打ち解けていた。
時は流れ、私が沖縄を離れるタイミングで、米兵の彼も韓国の米軍基地に移動することが決まった。彼はソジュ(韓国の焼酎)を皆のグラスに注いでから真剣な表情でこう言った。
「10年後とか20年後、日本とアメリカが戦争することになっても、お前たちは友達だ」
つづいて白ペンキニキも「俺は10年後も迷彩パンツで戦争反対を訴えるよ」と応戦。流れ的に次は私のターンとなり「10年後もサーカスにいると思う……たぶん」と熱い思いを告白。いつもタンクトップのタジーさんはニコニコ笑ってくれた。
最終的にはお店にいた全員で肩を組み「君と出会った奇跡がー、この胸にあふれてるー」とスピッツの『空も飛べるはず』を朝まで大合唱。
そんなわけで、サーカスに戻った後も目がバッキバキ & 顔に落書きをしたまま炊事場(団員の共有スペース)で歯を磨いていたら……
「そんな顔で仕事するんかオラァァアアア! スパァァァァアアアン(背中を叩く音)」
「ウギャァァアアア!」
と強制的に夢から現実に引き戻され、死んだ表情で撤収作業に取り掛かることもあれば……
・半年後
約半年後の新潟公演では、移動日前日に3つ上のお姉さんに新潟スタジアム前に呼び出され……
「明日出発だね、幸せになってね」
「必ず幸せになります」
「うん……でも……私があなたを幸せにしてあげたかった」
と、恋愛リアリティショーならスタジオ号泣待ったなしのドラマティック過ぎる神展開まで経験してしまった……!
・魔法がスゴイ
3カ月というのは魔法にかかりやすい期間なのかもしれない。いわゆる “サーカスマジック” にかかっている間は団員として半人前だ。
出会いと別れをたくさん経験し、出会いと別れに慣れていく……少し寂しいけどサーカスとはそういうもの。移動日の翌日には、すっかり街は元通りの姿に。出会った人に夢を見せて、サーカスは次の街へと旅立っていくのだった。
・名古屋公演は7月13日スタート
というわけで、今回はここまで。木下サーカス名古屋公演は「白川公園特設会場」で7月13日から10月27日まで開催される。お近くの方はぜひ会場に足を運んで世界最高峰のサーカス・ショーを楽しんでほしい。それではまた!
参考リンク:木下サーカス
執筆:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.
砂子間正貫









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