
世界一のサーカスを目指し、ごく普通の大学生が木下大サーカスに入団。サーカスの舞台を支える音響や照明の仕事をしながら、仕事後には練習仲間と共にトレーニングの毎日。長く苦しい練習を重ねた団員たちはいよいよ舞台デビューを迎えるのだが……
デビュー前には避けて通れない最終関門がある。社長と先輩団員が見守る中で行われる「社長見せ」の最終リハーサルだ。独特の緊張感に包まれながら、仲間たちの挑戦が始まるのだった。
・デビューまでの長い道のり
いくら有望株とはいえ、舞台志望の新人団員が伝統あるサーカスの初舞台に立つのは簡単ではない。入団したからといって、すぐに練習ができるわけではないのだ。
まずは事務所の電話対応や接客、照明(ピンスポット)、駐車場の整理、入場列の最後尾など、サーカス運営に関わるさまざまな仕事を経験する。
舞台は限られたスペースだからデビュー間近の団員やトレーニングをしている先輩が優先的に使う。新人が練習できるようになるのは、裏方の仕事をきっちりこなして先輩に認められてからだ。木下英樹取締役のインタビューでもあったように……
「昔は、とくに伝統芸や古典芸はやっぱり自分の可愛がっている子に受け継いでもらいたいという風潮があったと思うし、舞台裏の普段の生活が大事だったんじゃないかな。もちろん今も大事だけど。
たとえば、竹渡り(つるされた竹の上を渡りながら芸を演じる日本古典芸)の練習は朝5時からで……
冬は寒いから石油ストーブを置いて先生が座る場所をあったかくして、コンテナハウスに行ってノックをして『練習の準備ができましたので、よろしくお願いします』と言ってから練習が始まるという……」
──そういった心の部分も含めて芸は受け継がれていくのだ。やっと練習ができるようになったらバク転や倒立などの基本技術を習得し、アクロバット、空中ブランコ、綱渡りなど……数ある演目の中から「自分のやりたい芸」をその道の先輩に相談する。
先輩からOKが出れば、そこから本格的な指導がスタート。先生と呼ばれる先輩のもと、毎晩(もしくは早朝)の練習が続く。
・厳しい練習
日本古典芸「くだけ梯子ショー」の練習をした宮内は、水や砂などを入れた20〜40キロの灯油タンクを長さ7メートル・重さ5キロのはしごに付けて肩に乗せる練習をしていた。
バランスを取るのはもちろん、最初ははしごを肩に乗せるだけでも激痛だったという。簡単そうに見える芸でも、その裏には想像を絶する厳しい修行がある。
何度も失敗し、時には怪我もする。それでも諦めずに技術を磨き、ようやく形になったら本番さながらの演出(音響照明)でリハーサルを重ねる。仲間に動画を撮影してもらって、それを見返し、さらに完成度を高めていく。そしてついに……
最終関門「社長見せ」のリハーサルである。
・最終リハーサル
リハが行われるのはだいたい週末の夜。3回公演を終えて掃除や点呼を済ませ、いったん仕事が終わった後に関係者がテント内に集まる。当然、一般公開はされない。
集まるのは芸を行う本人の他、指導をした先生、さらに本番で道具を用意したり命綱を持ったりする「黒子の役割」をする裏方団員。サーカスでは後見(こうけん)と呼ばれる。そして音響照明スタッフも本番と同様に配置につく。
舞台の準備が整うと社長が登場。音響スタッフがマイクを渡し「それでは始めましょう」という合図で、社長はリングサイドの最前列に座る。仕事を終えた他の団員たちもリハーサルを見守るために空いている客席へ。独特の緊張感が舞台を包む……
デビュー当日よりも「社長見せ」のリハが最も緊張する。これは本人だけではない。共同生活を送る仲間たちは、必死に練習をする姿も、悔し泣きをする姿も、諦めずに挑戦し続ける姿もすべて見てきた。
だからこそ客席から見守る団員たちも本人と同じくらい……いや、それ以上に緊張しているのだ。
・成功と失敗
芸を指導してくれた先生のためにも、仲間である団員のためにも、もちろん会社のためにもリハーサルを成功させなければならない。その重圧の中、団員たちは舞台で芸を披露する。
リハーサルを終え、社長からOKが出ると客席から拍手が沸き起こる。「ありがとうございました!」……長い練習からの解放という安堵の気持ちと達成感、そして先生や仲間たちへの感謝の思いがあふれ、涙を流す団員もいる。
「明日からな」「よく頑張った」「緊張しすぎやで」など先輩たちから声をかけられる。そして本人より涙を流す同期の仲間たち。
一方で、練習ではいつも成功しているのにリハーサルでうまくいかない場合もある。「もう少し練習をしましょう」と言われた団員は、その場で悔し泣きをする。練習に付き合ってもらっている先輩にも仲間にも申し訳ない……
社長見せのリハを乗り越えないと舞台に立てないので、チャンスを逃した悔しさは計り知れない。それでもまた練習を重ね、次のチャンスを待つ。それがサーカスの世界なのだ。
・初舞台
私が入団して2年目の頃。ピンスポットの指導で入団当初からお世話になっている数原さんが「竹渡りショー」のリハーサルでOKをもらった。そしてデビュー当日、客席最後方からピンスポットを当てながら先輩の初舞台の成功を祈った。
満員の観客席、司会者から「数原もとき、本日が初舞台です!」とアナウンスが入る。場内が沸く。そんなこと言われたらテンションが上がるに決まってるだろ……ウオオオオオ!
そして見事に芸を終えると、テント内に大きな歓声が響き渡った。観客以上に大きな拍手や声援を送る団員たち。
ピンスポットを当てながら私もメチャメチャ感動したのを覚えている。お世話になった先輩の晴れ舞台を照明という形で支えられた喜びは、何にも代えがたいものだった。
・練習仲間たち
練習仲間たちも順調で、彰吾より先にマ〜シ〜が「オープニングショーのアクロバット」で舞台デビューするチャンスをつかんだ。
社長見せの最終リハーサルも無事に成功し、デビュー当日、大勢の観客の前でトランポリンやシルクを使った華麗なアクロバットを披露した。兄弟のような仲間の初デビューは見ているこっちの方が緊張してしまうが……
無事に芸を成功させると、思わず「ウオオオオオオオ!」と雄叫びを上げていた。京都公演の寒い夜、舞台上にマットを並べて皆で前転をくり返したのが懐かしい。共に練習を重ねた仲間の成功は自分のことのように嬉しかった。
・打ち上げ
無事にデビューを果たした団員は、お世話になった先輩(先生・後見・音響照明スタッフ)を連れて会場近くの居酒屋へ行く。お礼を兼ねた打ち上げだ。
「先生、本当にありがとうございました」「いやいや、お前が頑張ったからや」乾杯の音頭とともに、これまでの練習の日々を振り返る。失敗して泣いた夜も、何度も諦めかけた瞬間も、すべてがこの日のためにあった。
社長見せのリハーサルという最終関門を乗り越え、満員の観客の前で芸を成功させる。そして、その喜びを分かち合える仲間がいる。こうやって団員たちの絆はさらに深まっていくのだった。
・立川公演は11月15日から
──というわけで、今回はここまで。木下大サーカス東京・立川公演は「立川立飛特設会場」で11月15日から2026年2月23日まで開催される。お近くの方はぜひ足を運んで世界最高峰のサーカス・ショーを体感してほしい。
舞台で輝く団員たちの裏には、長く厳しい練習の日々がある。その努力の結晶を立川の街でも確かめてみてくれよな。それではまた!
参考リンク:木下サーカス
執筆:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.
砂子間正貫














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