その日はなんだか変だった。


よく、いろいろなことを思い出す日だった。


まず思い出したのがIMAZU(いまづ)さんだ。

IMAZUさん。


この名前を聞いただけで、あの男を思い出した人は、相当な「100万円の古民家」ファンだ。


当連載の初期に大活躍してくれた造園会社ホービエンの若頭・IMAZUさん


まだ「倒壊した古屋」があったころ。


古屋のゴミの撤去中も、IMAZUさんは常にヘビの存在に注意していた。


「いるんだよ、まさにこういう場所にさ」


その言葉を聞いてから数年経ち、違う場所のゴミの撤去をしている最中、なぜか彼の記憶がよみがえり、ヘビに注意しながら片付けた。


幸いヘビは、いなかった。よかった。



次に思い出したのは親父である。


なんでかは、よくわからない。


とにかく親父を思い出し、セットで「巳(へび)年の男」であることも思い出していた。


今年が巳年であることを意識せず、いや、完全に忘れつつ、「親父は巳年の男だったな」と思い出していた。


蛇の男、親父。


ならば私は羊の男なのか?


親父は蛇っぽいか?


そんなことはない。


私が羊っぽくないように、親父もまた蛇っぽくはない。


しかし、そこはかとなくヘビというかカメというか、とにかく爬虫類みたいな雰囲気を醸していた。


ならばやはり親父は蛇?


──と、こんなことを考えながらひとり無言で肉体作業をし続けるのが古民家作業の通常なのだが、その時だけは声が出た。



「えっ……!?」


「お、おやじ?」


親父は蛇ではない。しかしそこには蛇がいた。とんでもない大きさの、まさに「大蛇」というべき謎のヘビが鎮座しまくりまくっていた。


私はパニック。正直なことを言えば、見た瞬間「おやじ?」ではなく、もっとオネエっぽく「ヤダ〜〜〜〜!」とIKKOさんのようなリアクションをとってしまっていた。


こんな大きなヘビ、中野の「爬虫類バー」でしか見たことがない。同店のヘビは訓練された安全なヘビ。しかし、こやつは……

蛇のことに疎い私は、それはもうキングコブラと対峙するくらいの緊張感。


ホウキ片手に戦おうにも、恐ろしくて戦えない。


やがてヘビは壁伝いに、上へ、上へと移動して、天井もウネウネとパトロールしつつ、やがて「梁(はり)」のあたりで落ち着いた。

ここでいきなり「シャー!」と上方向からフライング噛みつきをカマしてきたら、私は噛まれ、毒がまわり、誰にも気づかれずにひとりここで死ぬだろう。


そんなことを考えながら絶望し、目の前の状況にも絶望していた。


どうすればいいんだ。


どうすれば……。


頼む、出てってくれ……。


でないと安心して作業ができない……。


たのむ。


たのむ……


結局わたしは撤収した。


東京の自宅から始発でこの埼玉奥地の古民家に向かって、到着してからはずっとずっと作業して。


そろそろやめた方がいい……とは思いつつ、ついつい限界までやってしまう悪いくせ。


それを、あのヘビが「今日はもうやめとけ」と言ってくれたような気もして。


いずれにしても、逃げ帰った。



後日、インスタにその時の動画をアップすると、多くのフォロワーさんからコメントをいただいた。


どうやらそのヘビは「アオダイショウ」というらしい。みんなよく知ってるな〜!


情報によると、毒はないらしい。


しかも家の守り神的な存在でもあるらしい。


さらに言えば今年は巳年であり、そんな年にヘビが出るとか縁起が良いとしか思えない、という意見まであった。


そんな神様のような存在に対し「出てってくれ〜」とか言ってしまった私は、自分の無知さを恥ずかしく思った。


また、他にも多くのフォロワーさんが書き込んでいたのが「屋根裏」というワード。


瓦屋の親父は屋根で働いていたけど、アオダイショウはよく屋根裏にいるらしい。


そしてネズミや虫を食べてくれる「益獣」らしい。

──と、ここで私はハッとした。


なぜアオダイショウのアオちゃん(←もう命名)が私の前に現れたのか。


一瞬で謎がとけた。


私が屋根裏を消したからだと。


すぐに天井をぶち抜きたがる。


たしかにかっこよくなった。


だが。


アオちゃんの住むエリアがどんどん減っていった。


まさにその日、私は2箇所の天井ぶち抜きを完遂させていた。


またひとつ……どころの話ではなく、一気に2つも屋根裏が消えたのだ。


それを考えた時、私は本当にアオちゃんに対して申し訳なく思った。


たぶんおそらくだけど、かなりの確率でアオちゃんはあの家の守り神。


私なんかよりもずっと長くあの家に住んでいた可能性が高い。


そこに、突然入ってきた我々。


中でもこいつ(羽鳥)はすぐに天井をぶち抜く。


もうなんらかの形で伝えなければ、本当に共存できなくなる。


だからこうして私の目の前に現れたのではないだろうか。


アオちゃんは、ここが俺のエリアなんだよと言わんばかりに、屋根裏跡地を自由自在に動き回っていた。



次に作業しに行く時。


太い枝とか用意して、天井付近に固定できたらなと思う。


動物園の爬虫類コーナーみたいに、アオちゃんがウネウネと遊べるように。


ある場所の天井をぶち抜いたのだけれど、そこはホムセンで大きな板でも買ってきて、うまいことそれを天井にして、小さいかもしれないけど「屋根裏」を作ろう。


たぶんアオちゃんは守り神。


当連載ではIMAZUさん以来となる新キャラ登場。


アオダイショウのアオちゃん。


あれだけ怖がり、恐れていたのに。


今は逆に、会いたい。アオちゃんに会いたい。


そして、アオちゃんにも快適に過ごしてほしい。


作らねば、アオちゃんの居場所を。


【つづく】


執筆:GO羽鳥
Photo:RocketNews24

▼100万円の古民家

▼アオちゃんが出現した直後の動画。


▼こちらが爬虫類バー。日本唯一の爬虫類専門誌『ビバリウムガイド』の富水編集長や、日本一の酒場ライター中沢文子さんと一緒に