謝らなくてはならない。筆者は有楽製菓を誤解していた。爆発的人気を誇るチョコレート駄菓子「ブラックサンダー」で有名な有楽製菓のことである。皆さんは同社について、どのような印象をお持ちだろうか。

少なくとも筆者の中では、「B級チョコ界の俊英」「B級チョコ界の鬼才」「B級チョコ界の傑物」といった位置付けであり、「どれも似たような意味ではないか」と言われればその通りであり、要するに同社は良くも悪くもB級チョコにのみ魂を捧げているとばかり思っていた。

が、違ったのである。「ブラックサンダー」という大看板を掲げる裏で、同社は密かに全く別の、言わば「王道のA級チョコ」を取り扱っていたのである。

その事実に気付いたのはつい先日、何とはなしに有楽製菓の商品紹介ページをスクロールしていた時のことだった。群れをなす「ブラックサンダー」とその派生商品たちが過ぎ去ったあとに、「デラックスミルクチョコレート」という見慣れぬ名前がしれっと顔を出した。

仰天した筆者は、紹介文を読んで更に目を剥くこととなった。同商品は1979年に誕生したらしく、その歴史は1994年に発売された「ブラックサンダー」のそれを優に越えている。そんな古株の存在を、筆者はてんで認知していなかったのである。

紹介文を読み進めると、「発売以来 特別な広告はせず、東京・豊橋にある直営店とオンラインショップでしか扱っていない」とも書いてあった。「なるほど、それなら知らなかったのも無理はない」と、若干目玉が飛び出てさえいた筆者はそこで平静を取り戻した。

そして平静を取り戻すや、購入を決意した。何せ「デラックスミルクチョコレート」は、あまりにも「ブラックサンダー」と毛色が違っていた。

両者の実物を並べれば、まずパッケージの時点でコントラストが目立つ。今年で30周年を迎える「ブラックサンダー」のそれには「ブラック30周年ダー」の文字が躍っている一方、「デラックスミルクチョコレート」は商品名が英字でプリントされたシックなデザインである。

まだ後者と出会って間もないというのに、今後何周年を迎えようと前者のような浮かれ方はしないであろう雰囲気がすでに感じ取れる。正直に言って、とても同じメーカーの商品とは思えない。


両者のコントラストはなおも続く。「デラックスミルクチョコレート」の箱を開けると、大ぶりの板チョコが2枚お目見えした。

合わせて330グラムという中々お目にかかれないボリュームだが、オンラインショップでの価格は1252円と、手の届く範囲に収まっている。この価格を実現するために、前述のように流通経路を限定しているとのことである。

パッケージやボリュームもさることながら、最も目につく差異は形状だ。クランチタイプのチョコバーである「ブラックサンダー」に慣れているほど、「有楽製菓の板チョコ」というのは鮮烈である。率直に言って、同社から滑らかなチョコが出てくるとは思っていなかった。

普段お調子者然と振る舞う人の意外に実直な一面を見た時のような、寂しいような感心するような気持ちが湧く。目に映るのはまさしく王道のA級チョコの姿。しかし肝心の味はどうなのか。

「ブラックサンダー」は普及に成功しているが、「デラックスミルクチョコレート」の方はやはり背伸びをしているのではないか。いや、時系列的に言えば「背縮め」だが、ともかくどうなのか。

などとごちゃごちゃ考えていた筆者の舌に、その板チョコは有無を言わせぬ味わいをもたらした。口に含んで噛んだ瞬間、甘美さがあふれて押し寄せた

「デラックスミルク」の名に違わず、まろやかな口どけののち、たっぷりと練り込まれているのであろうミルクの深いコクが味覚に沁み入る。身体の芯が温もるような幸福感と、ハイレベルなチョコを食べた時に特有の、優しい酔いのような浮遊感が同時にやってくる。

何ら奇をてらわない、ただただこちらを引き込む濃厚さがたまらない。喉越しさえはっきり感じるような重く柔らかな甘みだ。たとえ流通が限定されていようが、1979年から40年以上存在する商品にそうそう手落ちがあるわけもないのだと、最初の一口だけで痛感させられた。


改めて「ブラックサンダー」と食べ比べてみると、有楽製菓の秀でた手腕が一層わかる。「デラックスミルクチョコレート」のあとに味わう「ブラックサンダー」の食感の軽さといったらなく、思わず笑ってしまうくらいである。

手を止めず夢中になってサクサクと食べ進める「ブラックサンダー」と、一口ごとに手を止めて感じ入りながら食べる「デラックスミルクチョコレート」といった具合か。何にせよこの期に及んで振れ幅の広さに唸らされるばかりだ。

結論を書くと、両者は見た目から食べ心地まで面白いほど対照的でありつつも、食べる者を魅了するクオリティの高さでは見事に一致していると言える。興味の湧いた方は是非この「デラックスミルクチョコレート」に手を伸ばしてみてほしい。絶対に後悔はしないはずだ。

筆者としては、つくづく遅きに失した感は否めないが、それでもこのチョコに出会えなかった場合よりは遥かにマシだと思うことにする。黒い稲妻を操る有楽製菓のもう1つの魔法、甘美なる洪水を体感できたことを、私はこの先もきっと忘れまい。

参考リンク:有楽製菓 公式サイトオンラインショップ
執筆:西本大紀
Photo:RocketNews24.