福袋商戦もスタートし、目前に迫ってきた新年。正月といえば食べたくなるのが餅(もち)だ。好き嫌いにかかわらず、この時期だけは季節行事として食べる、という人も多いだろう。
しかし、東北地方には年中無休で餅を食べている地域があるという。しかも餅は冠婚葬祭でも振る舞われる「おもてなし料理」で、食べ方のお作法まであるんだとか。パジャマ姿でレンチンの餅を食べている場合ではない。すべてを知ったら、きっとあなたもこう言いたくなるだろう──「餅って300種類あんねん」。
・餅に情熱を捧げる一関
その土地とは岩手県の一関(いちのせき)エリア。市内には餅料理を出す飲食店が多数あり、先ごろレポートした厳美渓のすぐ近く「道の駅 厳美渓」でも食べられる。
道の駅らしい素朴なレストランながら、タッチパネルで注文できるのが現代的。行事食を再現した「もち本膳」のほか、雑煮、おしるこ、テイクアウトなど多彩なメニューがある。今回はたくさんの種類を食べられる「和風もちセット」(税込1200円)をオーダーしてみた。
9つに仕切られたプレートに、8種類のひとくち餅が入っている。目に鮮やかで、思わず「わぁ!」と声が出る。
8種類とは、ごま、あんこ、ずんだ、いなり、しょうが、肉そぼろ、くるみ、季節限定が1品。おかず系からスイーツ系まで揃っている。
でもこれはごくごく一部。一関エリアで食べられる餅のバリエーションは300種以上もあるという! 祝儀・不祝儀で多少の違いがあり、たとえば糸をひく(後をひく)納豆は不祝儀にはNGなんだとか。
「本膳」と呼ばれる行事食では雑煮がつくのが本式で、今回のセットはお吸い物がついていた。
残るひとつのマスには大根おろしが入っている。「なます」のような酸っぱい大根だった。大根おろし → あんこ餅 → 料理餅 → 雑煮といった具合に、本膳の場合は食べる順番がある。とはいえ今回は本膳ではないし、よそから来た観光客だし……なので自由に食べよう。
餅は軟らかく、箸でつまんだ通りに形を変える。それでいて適度なまとまりがあり、一度持ち上げてしまえば、あとはベタつかない。ほどよく伸びて、もっちもちの食感を楽しめる。ううむ、素材としてひとつひとつの餅が美味しい!
「肉そぼろ」はおかず系。餅は米からできているのだから当然といえば当然だが、しょうが、しいたけ、肉など、味の強い素材ともばっちり合う。海からは遠い一関、沼エビやドジョウなども具材にするらしい。
初めて体験したのが「いなり」。食べ慣れた甘い皮なのに、中身の強力な歯ごたえが新鮮! ごはんを入れるよりも美味しい! これは全国的に新定番になれるポテンシャル。
この地方では正月だけでなく、冠婚葬祭、節句、入学式や卒業式、農期の節目など、一年を通して餅つきをするのだそう。人生のすべての思い出が餅とともに……!
行事などの本膳の場合、あんこ餅や雑煮はおかわりOKだけど、料理餅はおかわりしないなど、ここにも作法があるという。へぇぇぇぇ。
たくあんは1枚残すのが本式の作法。最後に椀を清めるのに使うのだとか。小さい頃に田舎の祖父母宅で、食後のお茶碗にそのまま番茶や牛乳を注いで飲んでいたのを思い出した。
子ども心に「なんか汚い」と思っていたのだが、余計な食器を増やさず、洗い物の水や手間を減らす生活の知恵だったのだなぁと思う。ばあちゃん、ごめん。
・餅の聖地ここにあり
「もちの聖地・一関」を掲げる当地では、餅料理を出す飲食店マップもインターネット公開中。餅文化にやたら詳しくなれるマニュアルになっている。近年ではピザ餅とかスイーツ餅とか、創作料理も盛んだそう。みんな餅が好きすぎる。
○日には○○餅を食べる、という餅暦が年間60日もあるという一関。うどんが好きなら香川で何店もハシゴするように、餅が好きなら一関をハシゴするのが楽しそう。昭和の小学生の手書き年賀状定番フレーズ「おもちをたべすぎないでね」が初めて現実化する!
参考リンク:一関・平泉「もち」MAP(一関市公式観光サイト)
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.