ギックリ腰になってしまった。 “冷蔵庫に極限まで飲み物を詰め込む癖” がある私はこの日、いつものようにミネラルウォーターをもう1本だけ押し込もうと、冷蔵庫の前でリンボーダンスの序盤みたいな体勢をとっていた。

と、その刹那……! 選手生命に関わりそうな鈍い痛みが突如、私の背中を襲ったのである。こんなしょうもない理由で1週間ほぼ寝たきりに近い状態を強いられることになったのだから、人生って本当にレ・ミゼラブルですよね。

ただ、そんな寝たきりウーバーイーツ生活で1つだけ大きな収穫があった。ある意外な「ベッドを汚さず食べられる料理」を見つけたのだから……。

・突然! メンブレ生活

ギックリ腰確定後。這うように行きつけの整骨院へ行った私は応急処置を受けたのち、当面のコルセット生活と「座る体勢を取らないこと」を言いつけられた。つまり「できるだけ寝て過ごせ」ということなのだが……

この寝る体勢にも「仰向けNG・うつぶせNG」という指定があった。要するに「横向きの体勢で寝たまま過ごせ」ということで、これって結構、かなりツライ。あやうくメンヘラ化しかけた、というより、この数日間の私は完全にメンタルをやられていた。

ただでさえ腰が痛くて辛いのに、仕事ができないから無収入だし、いっそテレビを見ようにも配置的に画面が見えない。おまけにコルセットの影響で腹部が “あせも” まみれになっている。冷蔵庫に水を詰めようとしただけで、神は私にこのような罰をお与えになるのか?


・人並みの食事がしたい

そんな絶賛メンブレ生活を送っていた私にとって、唯一の楽しみは食べること。買い物に行けないので買い置きのお菓子やパンを食べていたが、次第に野菜不足が気になりはじめ、ウーバーイーツを利用するように。

ウーバーイーツのアプリを眺めていると “野菜が摂取できて、寝ながら食べられる料理” って意外と難しいことが分かってくる。「コンビニのサンドイッチとかでええやん」とか思った読者は、寝たきりの辛さを分かっていない。 “野菜が摂取でき、寝ながら食べられ、かつ温かくておいしい料理” を我は求めているのである。

この場合、最も重要なのが “ベッドを汚さずに食べたい” という条件だ。寝たきりなうえベッドまで汚れていたのでは、私のメンタルはかなり深刻な状態に陥ってしまうだろう。悩んで、悩み抜いた結果……

私がチョイスしたのは『バターチキンカレーとナン、サラダ、タンドリーチキンのセット』であった。


・寝ながらインドカレー食ってみた

ベッドを汚したくない者にとって、カレーは最悪に近い選択な気もしなくない。にも関わらず、私がこれをチョイスした理由は……「もう、どうなってもええわ」というレベルまで自暴自棄になっていたから。みんな、ギックリ腰にはマジ注意してな!

果たして横向きに寝たまま、ベッドを汚さずインドカレーのフルセットを食べ切ることは可能なのか? 友人のサポートのもと、一応ベッドにカバー的なものをかけて検証開始である。

まずサラダ。固形物なので難易度は低めかと思いきや……

パラパラとこぼれそうになるため、割とキツい動きを強いられた。タンドリーチキンは余裕。最高!

当然ナンも楽勝。問題はカレーである。正攻法ではロクな未来が見えないぞ。

一旦「直ですする」作戦でいこうとするも……

体勢がエグかったらしく、あやうく腰痛を悪化させかけた。これラーメンとか絶対ムリだろうなぁ。

おとなしく「スプーンですくう」作戦に舵を切るも……

「不可能ではないけど、こんな苦労するくらいなら食べないほうがマシかも」って感じだった。


・インド3000年の知恵

こうなると残された手段は1つ。最もオーソドックスにして最も危険そうな「ナンでカレーをすくう」だ。そもそもインドカレーを注文した時点でカレーまみれ展開は予測できていたこと。どうせカレーにまみれるのなら、最後は華々しく散りたい。


…………と!!! 


カレーまみれ覚悟で挑んだ私は、ここで意外すぎる仮説に辿り着くことになる。


「ナンですくったインドカレー1滴もこぼれない説」


スプーンですくった際は、カレーがこぼれる危険と常に隣り合わせだった。しかし不思議と同じカレーにも関わらず、ナンですくうと一気にトロみが増し、こぼれる気配が格段に低下するのだ。詳しいことはよく分からんが、ナンが油分やら水分を吸うのだろうか??

正攻法すぎて逆に想定していなかった「ナンでカレーをすくう」作戦により、私は寝たきりのまま、1滴もこぼさずインドカレーセットを完食することに成功した。その後ハンバーガーや中華にもチャレンジしたが、ベッドを一切汚さなかったのはインドカレーだけだった。

私はこれまで、インド人が手を使ってカレーを食べることに関して、単に文化的な問題と深く考えることをしなかった。しかし実はその文化には “ものをこぼさず効率よく食べる” という側面も含まれていたのかもしれない。人生における重要な気づきを得たという点においては、ギックリ腰になってよかった……といえなくもないだろう。

ってことで、みんなも寝たきり生活を余儀なくされたら、ウーバーイーツでインドカレーセットを注文してみてくれよな!!

執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.