今、コンビニ業界に未曽有の事態が巻き起こっている。少なくとも筆者は、このような緊張感を初めて味わっている。
今年2024年4月にローソンより発売された「具! おにぎり まるで明太のり弁」という商品が、このたび10月1日に再販されている。当時のレビューにも書いたが、玉子焼きや白身魚のフライ、ちくわの磯辺揚げといった弁当の具材が一緒くたに詰め込まれた特異なおにぎりである。
一方、奇しくも同じく10月1日に、ファミリーマートから「おかず全部乗せお弁当サンド」なる商品が新発売された。こちらは弁当の具材を詰め込んだ珍妙なパンである。──そう、何故か現在、コンビニ業界にておにぎりとパンの「弁当ビルトイン対決」が勃発しているのだ。
これは全くの偶然なのか。あるいは筆者が知らないだけで、秋は「何らかの食品に弁当の具材を詰め込む季節」なのか。真相は定かでないが、ともかくこの奇々怪々な世紀の対決は現実のものとなってしまった。
そうなってしまった以上は、目を逸らすことなど許されまい。何より「おにぎり」の方を既にレビューしている身としては、「パン」の方も食べなければ寝覚めが悪い。妙な夢にうなされそうである。
使命感に駆られた筆者はファミリーマートに向かい、「おかず全部乗せお弁当サンド」を入手した。改めて詳細を書くと、本商品は半分に折ったスライスパンに、唐揚げ、ちくわの磯辺揚げ、コロッケ、焼きそば、タルタルソースを挟んだものとなっている。価格は税込338円だ。
ローソンの「おにぎり」にも磯辺揚げとタルタルソースが入っていたことから察するに、弁当をビルトインする際のレギュレーションで定められているのかもしれない。今回、その「おにぎり」も併せて購入したので両者を並べたところ、にわかに空気が張り詰めるのを感じた。
目の前で対峙する、弁当ビルトイン界の双翼。何故こんなことになってしまったのかは未だにわからないが、巌流島にて相まみえる宮本武蔵と佐々木小次郎のような風情が漂っていなくもない。少なくともここまで一触即発のにらみ合いを演じるパンとおにぎりは初めて見た。
「のり弁おにぎり」に寸分劣らぬ恰幅の良さと茶色さを見せる「弁当全部乗せサンド」の切れ味やいかに。確かめるべく頬張ってみると、口の中にカオスが広がった。
「おにぎり」の時もそうだった。その詳細は前出の記事を読んでもらうとして、どちらの商品も噛むほどに様々な味わいを炸裂させる。ただ両者で明確に異なるのは、味付けの濃さである。
「おにぎり」は意外にも控えめであったのに対し、このパンはボリューミーな唐揚げも、柔らかな衣にくるまれたコロッケも、たっぷりのソースをまとった焼きそばも、一切の容赦なく味付けが濃厚だ。水分を補給せずに完食するのが至難なくらいである。
唯一救いとなりうるのは磯辺揚げのはずだったが、追い打ちとばかりに仕込まれたタルタルソースがそこに絡んでくるので、結果として全てが味の暴力に支配される。企画会議の段階で「消費者への温情は捨てる」というテーマが掲げられたことは容易に推察できる。
だが、それでいいのだ。こんな商品を手に取る者は望んで暴力の世界に身を投じているわけであって、筆者を含め、そういう者にとってはこの「何だかわからないが何やら美味しい」無法なテイストがたまらないのだ。ファミリーマートは全力で需要を満たそうとしたにすぎない。
結論を書くと、「おかず全部乗せお弁当サンド」は「具! おにぎり まるで明太のり弁」と同じ土俵に上りながらも、上手い具合に好対照をなす商品だった。両者ともに食べ応えもクオリティも抜群なので、興味の湧いた方は是非臆せず手を伸ばしてもらいたい。
あるいはこの先、また別の「弁当ビルトイン界の新星」が現れないとも限らない。人間のアイデアはまだ全て詰め込みきれてはいまい。何だかんだで楽しみにしつつ見守りたいと思う。
参考リンク:ファミリーマート 公式サイト
執筆:西本大紀
Photo:RocketNews24.
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