「コタツ記事」といえば、現場に足を運んで実際に取材をしたり取材対象者にインタビューすることなく、芸能人のテレビ・ラジオ発言、SNS投稿を基に作成される。「コタツに入ったままでも書ける」と揶揄されがちな存在だ。
つい最近もフワちゃんがX(旧ツイッター)にやす子さんをディスるようなポストをしたことでSNSが沸騰。当然ながら芸能コタツ記事を配信している大手メディアもこの騒動に食いつき、フワちゃん絡みの記事を乱造して閲覧数を伸ばした。
そこで今回は、そんな芸能コタツ記事を配信するスポーツ紙や週刊誌のWEB編集部、WEB担当者の間でどのような会議や話し合いが行われているのかを紐解いていきたい。
・「フワちゃん暴言騒動」にコタツメディアはどう反応したか
前述のフワちゃんのような一件が勃発した場合、編集部全体で会議を行って「こういう記事を出していきましょう」と方針を決めるようなことはない。WEB配信される芸能コタツ記事はスピードが勝負だからだ。
多くのメディアはタレントや著名人のSNSをチェックする担当者(記者・ライター)を置いている。まず配信されるのはSNS担当者が作成する、フワちゃんとやす子さんのポストをそのままコピペし、そこにSNSユーザーの反応を加えるだけの記事だ。
『Yahoo!ニュース』で確認できた、かなり早い段階で配信された記事はこんなタイトルだった。
フワちゃん、「言っちゃいけないこと言って傷つけた」と謝罪 やす子の「とっても悲しい」投稿でSNSでは波紋広がる
文字通りそのまんま。だけどめちゃくちゃ閲覧数を伸ばしていた。スピード勝負に勝った記事だと言えるだろう。
そこからある程度時間が経過すると当事者や関係者に見解を聞くような記事も出てくる。例えば、『Yahoo!ニュース』などに配信された次の記事。
「莫大な違約金も…」スマホCM打ち切りのフワちゃん 起用したGoogleに “今後” を質問すると…
フワちゃんをCMに起用しているGoogleに取材した記事だ。取材自体は電話やメールで行われたのだろうが、コタツ記事から1つ飛躍した記事になっている。
といった具合に鮮度の高いトピックはスピードが勝負。会議を通すことなく、SNS担当者単独で記事を進めたり、SNS担当者と担当編集者の話し合いで記事が進められ、記事の公開や配信は編集長、副編集長、デスクなどの責任者が担うことが多い。
一方でGoogleに取材した記事は編集者と記者、もしくはデスクと編集者などの打ち合わせを経て作成されたものではないかと思われる。
・「コタツ記事編集部」の会議で話題に上がる “数値” とは
ではWEB編集部全体の会議はないのかと言えばちゃんとある。各メディアによって違うだろうが週に1~2回ぐらい行われているのではないだろうか。
そこで話されている内容は──当然ながらメディアごとに異なってくるが──前週や前月のデータを見てのアクセス数(その他諸々の数値)、誰の記事、どんな方向性の記事がいま読まれるのかという話題が多い。
具体的には自サイトへのセッション数(訪問者数)、PV数、CTR(クリック率)など。個別に説明すると小難しくなってしまうので、今回はCTRのみ説明したい。
CTRとは「Click Through Rate」の略で、広告の表示回数に対するクリック数の割合のこと。ざっくり言うと、自サイト内に表示された広告をユーザーが何回クリックしてくれたのかを示す数値だ。
芸能コタツ記事を配信するWEBメディアの収入の多くがWEB広告によるもの。この数値はメディアを運営していくうえでかなり重要になってくる。
・芸能メディアが掲げる「誘導率10%」という目標
自サイトの数値だけではない。『Yahoo!ニュース』や『SmartNews』などの外部サイトに配信した記事のPV数、そして誘導率も会議ではよく話題に上がる。特に重要になってくるのが誘導率だ。
当連載では『Yahoo!ニュース』に掲載された記事が1クリックされると0.2~0.4円ほど、自サイトの記事が1クリックされると1円ほどが新聞社や出版社に入ってくるといったお金の流れの話をよくしている。
誘導率とは『Yahoo!ニュース』などの外部サイトからどれほどのユーザーが自サイトまで来てくれたかを示す数値だ。つまり1円につながる数値のこと。
会議では「前週の『Yahoo!ニュース』からの誘導率は〇%でした。今週はもうちょっと伸ばしていきたいですね」といった話がされる。
ちなみに、多くの芸能メディアが「誘導率10%」を目標に掲げているとされる。10人中1人が『Yahoo!ニュース』から自サイトに来てくれたら上出来だということだ。
昨今の芸能コタツ記事の多くが、ユーザーがクリックしたくなるようなタイトルと自サイトへ誘導する【画像リンク】という構成になっているのは、この誘導率10%を達成するため──というのが大きいだろう。
今回はデータや数字の話ばかりになってしまったが、WEB編集部の会議では当然ながら誰の記事が、どんな記事が読まれるのか、といったことも話されている。次回はその辺りのことに迫っていくつもりだ。