広島は福山に行った人から土産をいただいた。日持ちのする缶詰だ。嬉しい。ただちょっと気になるのは、広島土産であるはずなのに『稲田屋 “関東煮” 』と書かれているところだ。
そこは「中国煮」とかではないのか。しかも製造元は山口らしい。なんのこっちゃな缶詰で興味深い。いざ、開けてみるとしよう。
・秘伝のしょう油と黒砂糖で味付け
パカっと蓋を開けると中身は肉。ホルモンのようだ。缶詰の裏側を見ると「豚もつ・牛もつ味付」とある。豚も牛もどっちも楽しむことができる、モツの盛り合わせだ。
温めを推奨していたので器に移し、数十秒レンチンしてみよう。熱が加わったことによりしょう油の香りがほんのりと漂い、一層美味しそうになった。
ビジュアルはこってりとした、濃い目の味付けのようだが実際はどうだろうか。さっそく食べてみると、爽やかさもあるしょう油の風味で、思ったよりもしっかり甘め。
なんでも醤油は秘伝で、甘味の正体は黒砂糖らしい。こだわりを感じる味だ。白米も間違いなく合うし、日本酒も進みそうである。
臭みもほとんどなく、缶詰でこれだけであれば出来立てはさぞかし美味しいことだろう。しかし当初の「関東煮」の謎はいまだ解けず。こうした豚牛入り混じったモツ煮込みのことをそう呼ぶのだろうか。
・関東煮はどこから来たのか
『日本国語大辞典』で関東煮をひくと、関東風煮込みおでんを関西でいう語と出て来るが、恐らくこれは当てはまらない。缶詰の名称となっている “稲田屋” のサイトを覗けば何かわかるだろうと、検索してみた。
どうやら、関東煮は福島市内で言う牛や豚の内臓肉を串に刺して煮込んだもので、稲田屋に端を発するようだ。稲田屋の関東煮と言えば、福山市民のソウルフードとまで呼ばれているらしい。
地元の人を中心愛される味とのことだが、店は残念ながら2020年に閉店。福島市内の食品メーカー、阿藻珍味(あもちんみ)がその味を引き継いで持ち帰り専門店ほか、缶詰などの販売をしているようだ。
しかしながら何故 “関東” であるのかの謎は解けなかったため、阿藻珍味さんに問い合わせてみた。
すると快く返答を下さり、曰く「(稲田屋は)大正時代に創業したとされる大衆食堂であり、当時の人びとは関東の文化に憧れのようなものを抱いていたこともあって、関東煮と名付けたというようなことを聞いている」とのこと。
インターネットがこれだけ普及した現代においても地方に住んでいると “東京の” と冠につけて食べ物が売られている様をたびたび見かけるので、気持ちはわかる。
今や福山市で「関東煮」と言えば、街で長年愛される地域に根付いた郷愁をも誘う味だろうが、当時は随分とハイカラな食べ物のイメージだったのかもしれない。
謎が解けたところで改めて関東煮を味わうと、なんだかお店の歴史を感じるようで不思議な気分だ。いつの日か福山市内にお邪魔して、持ち帰りの関東煮を買ってみたいと思ったりしている。
参考リンク:稲田屋 関東煮
執筆:K.Masami
Photo:Rocketnews24.
▼豚と牛のモツ、どちらも入っていて豪華