北海道各地を旅しながら刺青の脱獄囚を探す冒険譚『ゴールデンカムイ』。さながらロードムービーのように、それぞれの地域の風景、食文化、産業、動植物などが緻密に描かれる。

とりわけ札幌は、樺太への旅を終えて北海道に戻ってきた面々が再集結する地だ。小樽編に引き続き、実在する作画モデルを訪ねてみた!

こちらもそれぞれのエピソード、セリフ、設定は原作漫画に準拠している。映画版の先も多く含まれるためネタバレ注意だ。


・今も昔も待ち合わせスポット「札幌市時計台」

舞台巡りは、やはりここから始めよう! 札幌を象徴する観光スポット、札幌市時計台こと旧札幌農学校演武場。「三大がっかり名所」なんて呼ばれるが、周囲の高層ビル群があまりに発展したために埋もれてしまうだけで、実に美しく特徴的な建物だ!

筆者はベタな観光地が大好物。多くの人が「いい」と言う場所には必ず理由があるし、一見の価値がある。

当時も目立つ建物だったらしく、第七師団の待ち合わせ場所(コミックス25巻)として登場。札幌には菊田特務曹長と宇佐美上等兵が先に現地入りしていたが、そこに鯉登少尉らが合流する。鶴見中尉を待つ予定を変更し、札幌麦酒工場の決戦へ。

宇佐美たちが札幌に到着したシーンでは、門倉元看守部長とのニアミス(コミックス24巻)も。なぜか門倉のことが大好きな宇佐美。街娼に扮した門倉を気遣うシーンもジェントルマンである。そのあと襲うけど。

ほかに札幌編では、土方らが物売りに変装して情報収集したり、列車が発着したりと「札幌停車場」が背景にたびたび登場する。駅舎が「北海道開拓の村」に再現されている。



・いわば……ゴールデンカムイか、の「日本基督教団札幌教会」

時計台から徒歩10分足らずの場所に位置するのが、日本基督教団札幌教会。

作中では「東地区の貧民窟にある教会」として登場。ジャック・ザ・リッパーがロンドンのセント・ボトルフ教会に見立てた教会であり、鶴見中尉がアシㇼパとソフィアを尋問した場所(コミックス27巻)だ。

特徴的な塔や、丸いステンドグラスが見てとれる。鯉登少尉と月島軍曹は忍び込んで聞き耳を立てるが……それすらも鶴見劇場の一部かと思うと恐ろしい。

欧米では小さな村の無人の教会でも常に扉が開いていたりするが、こちらは観光施設のような一般開放はしていない。礼拝日など、本来の目的でのみ受付手続きをして入場可能。

ロンドンと札幌の共通点に気づいたのは石川啄木のお手柄。作中でも結構なクズ男として描かれる啄木だが、実際に借金や女性関係など不名誉な人物伝が数多く残り、26歳で結核で亡くなるという激動の人生を送っている。戦争や病気や貧困など、いろいろな意味で命が儚い(はかない)時代だなぁ。

なお、教会内部のシーンは「北海道開拓の村」にある旧浦河公会会堂が作画モデルと思われる。“タイトル回収” のあの椅子もあるぞ。



・江渡貝くぅんのおうち「北海道大学植物園」

広大な北海道大学植物園の一角に残る重要文化財「博物館本館」。この特徴的な建物は「江渡貝剥製所」(コミックス8巻)!!

江渡貝くぅんを巡る物語は、歪んだ母子関係からの巣立ち、金塊争奪戦を大混乱させた権謀術数、鶴見中尉の強烈なカリスマ、猫ちゃんカワイイ、などなど見どころてんこ盛り、作中屈指の名エピソードではないだろうか。

窓に鉄格子があって、玄関しか突入箇所がないことが作中でも語られる。こういった戦闘シーンや脱出シーンでは尾形百之助の優秀さが際立つ。尾形の冷静な判断のおかげで命拾いするシチュエーションがその後も多数!

この世のものとは思えないファッションショーを月島軍曹が目をゴシゴシしながら監視していたのはこちら側の窓だろう。左奥の凸部が、牛山が鉄格子を外して家永を助け、杉元らの脱出口となった場所と思われる。

五稜星の装飾の美しい玄関ポーチ。博物館内部は実際に剥製が並んでおり一般見学可能。巨大なヒグマや、南極観測隊の「タロ」の剥製が展示されている。



・宇佐美時重を悼む「サッポロビール園」

作中では札幌編のクライマックス、「札幌麦酒工場」として登場(コミックス25巻)するのがサッポロファクトリー&サッポロビール園。杉元一行、第七師団、尾形vs頭巾ちゃん、ジャック・ザ・リッパー、ついでに上工地圭二が入り乱れての大混戦となる。

現在のサッポロビール園はショップやレストランや博物館を備えた複合施設。作中そのままのアングルも確認できる。

あれは杉元に切り裂かれたジャック・ザ・リッパーが転落してきた屋根だろうか? 牛山は娼婦との約束通り、犯人を「踏み潰して」くれる。


重厚なアーチ型の入口はアシㇼパや菊田特務曹長や海賊房太郎が出入りしていたところにそっくり。


そしてこの煙突! 札幌麦酒工場は宇佐美時重、最期の地である。あと上工地圭二も。


煙突前で “篤四郎さん” の腕に抱かれ、鶴見劇場の一部となったことを見届けて満足して殉職するさまは、もはや芸術的ですらある。ひたすら鶴見中尉への愛に生き、愛に死んだ男、宇佐美時重。あっぱれだ。

なお、現在のサッポロビール園といえばビアホールとジンギスカン! 夏太郎は金塊の分け前で「羊の牧場を経営する」と夢を語っていたが、北海道には見事に羊肉食の文化が根づいている。美味しい。



・物語はクライマックスへ

札幌に入る頃には物語も終盤を迎え、徐々に裏切り、絶対的対立、仲間の死が描かれ始めるなど混迷を極めていく金塊争奪戦。舞台は暗号解読列車で函館へと移っていく。

ファンとしては誰も死なず、傷つかず、仲良くクライマックスを迎えて欲しいが、「戦争が終わっていない男たち」と「脱獄した男たち」、おまけに「明治維新の亡霊たち」の物語である以上、そうもいかない。

次回、物語の舞台巡りを函館で終結したい。


参考リンク:サッポロビール株式会社
執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.