2024年が始まって早々に、アメリカ合衆国とイギリスの関係に修復不能なレベルの緊張が生じている。
これまで西側を代表する国家として、長らく友好的な関係を続けていた両国。しかし、それもこれで終わりかもしれない。
在英米国大使館と英内閣府がそれぞれ声明を発表したが、溝は深まるばかりだ。一体何が起きているのか、両国の声明の全訳を添えて詳しくお伝えする。
・研究
いくつかの歴史的な争いがそうであったように、今回の発端も些細なものだった。2024年1月24日に出版されたばかりの1冊の本と、その内容だ。
タイトルは「Steeped: The Chemistry of Tea(紅茶の科学)」で、著者はアメリカで大学教授を務める科学者のミシェル・フランクル氏。
英ガーディアン紙によると、本にはミシェル氏の研究に基づいたパーフェクトな1杯を淹れるためのレシピに、紅茶に一つまみの塩を入れるという行程が記されているもよう。
これが、こと紅茶の飲み方に対し強い意見を持つイギリス人たちを刺激。両国民の間で、ちょっとした議論の対象となっていたのだ。
・米大使館
すでに温まっていた場を一瞬で沸点に到達させたのが、ロンドンにある米国大使館。公式Xおよび公式Instagramにて “An important statement on the latest tea controversy.(最近の紅茶論争に対する重要な声明)” を発表したのだ。
以下は全文の書き起こしと、私による翻訳だ。
Today’s media reports of an American Professor’s recipe for the “perfect” cup of tea has landed our special bound with the United Kingdom in hot water.
今日報じられているアメリカ人教授による “完璧な” 紅茶のレシピが、英国との特別な絆を熱湯に浸す事態を招いている。
Tea is the elixir of camaraderie, a sacred bond that unites our nations. We cannot stand idly by as such an outrageous proposal threatens the very foundation of our Special Relationship.
紅茶は仲間意識の特効薬にして、両国間の神聖なる絆である。このような理不尽な提案が両国の特別な関係を脅かしている事態を、私たちは傍観することなどできない。
Therefore we want to ensure the good people of the UK that the unthinkable notion of adding salt to Britain’s national drink is not official United States policy. And never will be.
ゆえに、英国の国民的飲料に塩を入れるという尋常ならざる考えがアメリカ合衆国の公式見解ではないということを、善良な英国の皆様に対し保証したい。そのようなことは、この先も断じてありえない。
Let us unite in our steeped solidarity and show the world that when it comes to tea, we stand as one.
今こそ団結し、我々は紅茶のもとに1つであると、世界に示そうではないか。
The U.S. Embassy will continue to make tea in the proper way – by microwaving it.
アメリカ合衆国大使館は、これからも正しい方法で紅茶を淹れ続けることを表明する。そう、レンチンでね。
・英内閣府
英国の紅茶文化に対する敬意にあふれ、米国側が今後も英国と良好な関係を続けたいと考えていそうな内容となっている。ただし最後の一言 “by microwaving it(レンチンでね)” を除いて。
冒頭からワードのチョイスに所々不穏な “煽り” の気配がしていたが、気のせいでは無かったもよう。
紅茶に熱心なイギリス人たちにとって、レンチン紅茶は重大なタブー……! 在英米国大使館は、ロンドンから盛大にイギリスを煽るムーヴに出てしまったのだ。
これはすぐさま国際問題に発展した。英内閣府が公式Xにて遺憾の意を表明したのである。
In response, to the statement put out by the US Embassy in the UK:
在英米国大使館の声明について:
We appreciate our Special Relationship, however, we must disagree wholeheartedly…
両国間の特別な関係性には感謝を表明する。しかし、我々には全面的に許容しがたいことがある…
Tea can only be made using a kettle.
紅茶は、ケトルを用いてのみ淹れられるものだ。
英内閣府による、レンチン紅茶は紅茶ではない宣言。国家間のやり取りでこれほどに強い否定の姿勢は、なかなか出てこないものである。
・ネット民の反応
これには、とうに煮沸されていた両国ネット民もさらに沸騰。大いに盛り上がっている。彼らの反応をいくつか紹介しよう。
“Yo, the United States was founded by adding salt to tea.”(ボストン茶会事件の画像と共に)
Yo、アメリカってのは、ティーに塩を入れて建国されたんだぜ。
“Or adding tea to salt.”(↑に対し)
あるいは、塩にティーを入れてね。
“I prefer my tea in the harbor”
ティーは港にブチ込む方が好き。
(THE BRITISH BOIL THEIR TEA WATER IN KETTLES BECAUSE THEY CANNOT AFFORD MICROWAVES)の画像を投稿
イギリス人はケトルで湯を沸かす。なぜなら、連中は電子レンジを買えないからさ。
“Coffee is better than tea anyways”
なんにせよ、紅茶よりもコーヒーの方が優れているんだよ。
ちなみに2020年のアメリカ合衆国の独立記念日に、英国陸軍が公式SNSでアメリカに対し “アメリカの抱える誤解を解消したい” として “パーフェクトな英国流紅茶” の淹れ方を伝授する動画を投稿したことがあった。
そこでは必要な道具として “電子レンジではなくケトル” と強調し、”ティーバッグはマグに入れよう。港じゃなくね” とも強調。最後は “Happy independence day, and God Save the Queen.”(独立記念日おめでとう。女王陛下万歳!) でしめるという構成。
なかなかに煽りがきいており、当時これは話題になった。もしかしたら、紅茶のもとに米英は1つになれないのかもしれない。
1人の日本人としては、米国も米国だが、日本が米国のアボカド入り寿司を受け入れたように、英国もより歴史の長い国家らしい懐の広さを見せ、レンチン紅茶を温かく受け入れてやってもいいのではと思わなくもない。
ちなみにアメリカでは、砂糖がたっぷり入った甘い緑茶がそれなりに好まれ、至るところで売られている。参考までに。
参考リンク:X @MichelleFrancl @USAinUK、@cabinetofficeuk、@BritishArmy、Guardian
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.
▼全ての発端
It’s a book! https://t.co/tSo6G5LzsM
— Michelle Francl (@MichelleFrancl) January 24, 2024
▼在英米国大使館
An important statement on the latest tea controversy. 🇺🇸🇬🇧 pic.twitter.com/HZFfSCl9sD
— U.S. Embassy London (@USAinUK) January 24, 2024
▼英内閣府
In response, to the statement put out by the US Embassy in the UK:
We appreciate our Special Relationship, however, we must disagree wholeheartedly…
Tea can only be made using a kettle. https://t.co/Jt5xWKYRkT
— Cabinet Office (@cabinetofficeuk) January 24, 2024
▼2020年の英陸軍
Happy #IndependenceDay to our @USArmy cousins across the pond! 🇺🇸
While we’ve got you, can we settle the age-old debate of how to make the perfect #cuppa ? 🙌
No need to deploy the tanks unless strictly necessary, which for the King’s Royal Hussars it always is. pic.twitter.com/1AnnLBCbFk
— British Army 🇬🇧 (@BritishArmy) July 4, 2020